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不可避なLIMIT  作者:
第二章 「SEEK」
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第14話

「オレも小学生くらいの頃、毎年の身体測定で体重測った時、なぜか五キロになった時があってさ。何度測り直しても、測定器を調整しても、測定器を変えても五キロだったんだ。五キロっていったら、生まれたばっかの赤ちゃんプラス二キロだぞ!? どんだけ軽いんだよって話だよな!? マジウケる!」


 笑いながら話す航輝。開いた口が塞がらないパート3。ウケるのはお前だよ。


「それで、オレは中学一年くらいの時だったかな。一瞬、体に重さがなくなったような感覚がして、そしたら自分で体重をコントロールすることができるようになったんだ。例えば、五キロになりたいと思えば五キロになるし、百キロになりたいと思えば百キロになるようになった。でも、そんな力要らなくね? 体型も変わるならいいけど、見た目変わらないからさ。だからほとんど使ったことないんだよな」


 残念だけど、確かに天音さんより全く以って使えなさそうな力だな。全然魅力がない。


 僕も涼葉も、二人の話に絶句。だけど、いい話を聞いた。僕はそんなレアな能力の人間が二人も揃っているのを偶然で済ますような愚か者ではない。これは明らかに必然。だとすると、抽選とか言っておいて、選ばれたのは何かしらの能力を保有している者だと推測される。


 そこで問題が一つ。僕にそんな特殊な能力はあるか?


 答えはノー。身に覚えすらない。ということは、これは偶然?


 僕はちらりと涼葉を見る。


「なあ、涼葉って何か特殊な能力とか持ってたりする?」


 涼葉は目を数回瞬かせ、それから言った。


「持ってるように見える?」

「見えない」

「即答するなっ!!」


 涼葉に若干怒られつつも、僕は頭を捻る。


 そうなんだよな、僕と涼葉にはそんな能力なんてないんだよな。


 肩を落としかけた僕だけど、ふと一つの可能性が閃いた。


 もしかしたら、これから覚醒したりして。


 だけど、もしそうだとしたら未覚醒の能力保有者をどうやって抽出した?


 未覚醒の能力者を集めることが可能だとすると、考えられる方法は一つ。能力が覚醒した人物を集めたのではなく、予め能力が覚醒すると判っていた人物を集めたということだ。それは、その見当を付ける何かしらの方法をこの国家プロジェクトの主催者が知っているということを意味する。


「わたし、そろそろ面談の時間だから行くね。戻ってきたらみんなでご飯食べよ!」


 涼葉は腕時計を確認し、屋上から姿を消した。


「あっ、そういえばね」


 天音さんがすっかり打ち解けたように、両手を合わせて思い出したように口を開く。


「教科書取りに行った時にあった白い測定器なんだけど、それの使い方を教えてもらって、一度検査してみたんだよ」


 ナニ!?


「あの箱でどうやって測定すんの!? 結果は!?」


 僕は彼女の肩を掴みそうな勢いで前に乗り出した。一応言っておくけど、あくまで掴みそうな勢いだから、掴んでないよ。早速ボディータッチとか言われても心外だし。


 天音さんは少し驚いた様子で、それでも僕の問いかけに丁寧に答えてくれた。


「あの箱ね、側面にボタンが付いてて、それを押すと扉がスライドして中に入れるの。中に入ると扉が一度閉まって、上から下にセンサーみたいなのが動いてスキャンされるって感じだったよ。病院にあるMRIは私たちが機械側へスライドされるでしょ? そうじゃなくて、私たちは立ってるだけで、機械の方がスライドして体を測定してくれるって感じかな。結果はどこかから出てきてる様子もなかったし、私は分からなかったけど、身長とか体重とか知りたければ教えてくれるって言ってたよ」


 なるほどねぇ。その機械であれば人間一体の検査が瞬時にできる。スキャンするだけなら時間もかからないし、撮った映像がどこかに転送されていれば生徒に怪しまれず、好きな時に好きなだけ分析できるってわけか。でも、なぜに全身をスキャンする?


「航輝」


 突然、何の脈絡もなく僕に名前を呼ばれて、航輝は驚いたように僕を見つめた。


「な、何だよ急に」

「お前の不思議体験、面談では話さない方がいい」

「何でだよ」


 航輝がきょとんとする。逆に、話さない方がいいと言われ、既に話してしまっている天音さんは少しずつ顔が青ざめていく。ちょっと悪いことしたかな……。


「理由は今度説明する。だから、とりあえず不思議体験は適当に答えといて」


 困った表情を浮かべ、腕を組み考え始める航輝。


 ここに十名が集められたのは、日本の学力低下を阻止するためなんて大義名分ではなく、特殊な能力を保有する者を調べるため、という僕の仮説。どれくらいそれが真相に近いかなんて判らない。だけど、それを誰彼構わず喋るわけにはいかない。まあ、僕がそんなこと言わなくても、今の天音さんと航輝の話を聞いていたら、普通の人間はその線を疑うだろうけど。


 僕はそう思いながら、ふと顔を上げた。


 目に映ったのは、不思議体験に思考を凝らす航輝と、顔を伏せて魂が抜けそうなほど落ち込んでいる天音さん。


「………………」


 うん、まあこの二人は普通の人間じゃないしね。


 僕が軽く溜息をつくと、僕たちから離れてずっと風に当たっていた宮本さんが近づいて来た。というより、単純に屋上の扉から退散するためにこっちに向かっているだけなんだけど。


「あ、あのさ……」


 宮本さんの動きが止まり、瞳の照準が僕に合う。明らかに睨み付けられている。勇気を出して声をかけた僕だけど、やっぱり声かけなきゃ良かったかな、と若干後悔。それでも、折角話しかけたから、ここで何も話さなかったら余計シバかれる……というか殺される……気がする。


「その……、宮本さんのご出身を教えていただけたら非常に嬉しいのですが……」


 僕の唐突な要求に、彼女の睨みが増す。


「す、すみません、そのあのっ、宮本さんとお話しする許可なんて誰にも取っていませんホントスミマセン!」


 僕はちょっと恐ろしくなって、慌てながらその場で土下座。


「横浜」

「へ?」


 耳朶を打った予想だにしない発言に、僕は情けない声を出して顔を上げた。


 宮本さんは顔を顰めていたが、僕の質問自体に何の意味もないと取ったのだろう。答えてくれた!


「生まれも育ちも?」


 調子に乗って質問を重ねてみる。


「そうだよ! なんか問題でもあんのかよ!?」

「め、滅相もございません!」


 ビビりの僕。額を屋上の床に擦りつけているなんて、何とも情けない図である。


 だけど、そんなことを思う一方で、僕は宮本さんの回答を聞いて、ひどく落胆していた。彼女の今の回答で、僕の複数ある内の一つの仮説が瓦解したからだ。集められた人間は能力に関係していそうなことは否めないけど、東京というキーワードも関係していそうな気がしていたんだけどな。


「でも、横浜って東京に近いよね」

「?」


 宮本さんは僕が何を言わんとしているのか理解できていない様子。きっと宮本さんでなくても理解できないと思う。何のセンテンスに〝でも〟が続くのか分からないし。


 そう、横浜は東京に近い。生まれも育ちもブラジルです、とか言われたら、それはもう諦めるしかないけど、横浜だよ!? まだ可能性はあるでしょ!!


 僕は意外と負けず嫌い。特別頭がいいわけでもないのに、自分の意見とか論理を否定されると無性に腹が立つタイプ。自分で言うのも何だけど、正直言って結構面倒臭い性質だと思う。


 宮本さんは僕が不敵な笑みを浮かべているのを気持ち悪がって、さっさと屋上から姿を消してしまった。


「なあ、さっき片瀬さんも言ってたけど、悠介は何でそんなに出身地気にしてんだ?」


 さすがに、あの宮本さんに頭を擦りつけてまで訊ねる僕の姿は航輝の目に不思議に映ったのだろう。横で天音さんも首を傾げている。


「何でも何も、さっき涼葉も言ってたじゃんか。折角十人しかいないんだから、みんなで仲良くしたいって。それは僕も同じ。仲良くなるためには、まず相手のことを知らなくちゃならない。だから一番訊きやすい質問をしてみただけだって!」


 笑って誤魔化す僕。だけど、横浜は東京に近いとか訳分からない発言してるし、さすがに言い訳にしてはキツイか……。


「あ、そっか! 片瀬さんもそう言ってたもんな! みんなで仲良くなれたらいいよな!」


 納得したように相槌を打つ航輝。言い訳は全くキツくなかった。

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