蒼月の姫
それは本当に綺麗な満月の夜だった。
僕が倒れふしている地面からは紅い血だまり。そしてその匂いを嗅ぎ付けた飢えた狼達が回りに集ってる。
「珍しい……ここは決して人間が寄り付かない森なのだけど」
薄れゆく意識のなか、声がした方向へ視線を向けると少女がいた。
少女が狼達を一睨みしただけで、狼は怯えたように逃げていった。
「……まあ分かってるとは思うけど、そんなに出血してたら死ぬわよ、あなた」
出血……ああ、この紅い池って僕の血だったんだ。
そっか、血がいっぱい抜けていく時って寒くなるんだね。死ぬ時って、こんな感じで……いいのかな?
「死ぬって聞いても驚かないのね……、ここまで死に疎い人間なんて初めて見るわ」
だって、実感湧かないし。
それに、この血が抜けていく感じ……嫌いじゃないもん。
でも、死にたくはないな。
「面白い人ね。選択肢をあげるわ。このまま死ぬのも良し、だけどもし生きたいと言うのだったら私が助けてあげる。……どうする?」
そんなの、決まってる!
僕はまだ死ねない、死ねないんだ!
「……助けて」
「生きる……と、受け取って良いのかしら?」
その確認に少年――澪次は頷く。
「分かったわ。今から契約をする、これからあなたは吸血鬼として私と行動を共にする事になる。良いわね?」
突然きりだされた内容にもかかわらず、澪次は再度頷く。少女――アイルレイム・フューノシアはそれを見ると、澪次の元に屈み、そして首元に軽く甘噛みするように噛みついた。
「これにて契約は完了した。強く生きなさい、君」