森の会議
大きな森の中には、沢山の色んな動物達が住んでいます。その森の中に、眠らない兎が一匹居ました。
眠らない兎に、一匹のライオンが聞きました。
「どうして眠らないんだ?そんなに俺に食べられるのが怖いのか?」
すると兎は大きなため息を吐いて、答えました。
「違うよ。眠りたくても、眠れないんだ。」
「眠れない?」
ライオンは首を傾げます。
「起きている間、何をしているんだ?」
不思議そうに尋ねるライオンに兎は、今度は笑顔で答えました。
「いつも町を見ているんだ。町に住んでいる、人間達を見ているんだよ。」
「面白いのか?人間なんか見ていて。」
「面白いよ。沢山の色んな人間が居るからね。」
又も不思議そうに首を傾げるライオンに、兎は楽しそうに言います。
「人間はね、僕達と全く違うんだ。」
「違うのは当たり前だろう。」
少し不貞腐れた顔をライオンがすると、兎は慌てて付け加えました。
「キラキラした物が好きなんだよ、人間は。僕達には価値が無い物が、人間はとても好きで大切にするんだ。」
「キラキラした物?」
ライオンは何の事やら分からず、不思議そうに首を傾げます。すると、二匹の会話をすぐ近くで聞いていた、一輪のタンポポが兎の変わりに答えました。
「お金の事よね。人間はあれで色んな物と交換するから、必死にお金を集めているわ。」
タンポポの答えに、兎は大きく頷きます。
「そう!お金だよ!!それに、宝石も好きなんだよ。キラキラした物なら何でも好きなんだ。」
「へぇ~、そんな物が好きなのか・・・。」
ライオンは更に不思議そうに、首を傾げました。その後ムッとした表情を浮かべると、不機嫌そうに言います。
「だったらそのキラキラした物だけを集めていればいいんだ。森に来て俺の仲間を狩って行くから、人間は嫌いだ。」
すると、タンポポもライオンの言葉に賛同し、同じように不機嫌な顔で言います。
「私も人間は嫌い。意味も無く私達を毟り取って、捨てていくもの。」
「そうだ!そうだ!」と怒りながら叫ぶライオンに、兎は困ってしまいます。
「まぁまぁ、少し落ち着いて。僕の仲間も、人間に狩られてしまう事があるけれど、それは人間の遊びなんだよ。」
兎の言葉に、ライオンは更に怒ってしまいました。
「遊びだと?遊びで俺の仲間が殺されるなんて、尚更許せるか!!」
「その通りよ!!」
「その通りだ!!」
タンポポも怒り始めたと思いきや、その後同じように怒りの声を挙げる、蛇の声が聞こえました。
蛇は体をクネクネとさせながら、兎達の元へと来ると、森の端の方へ行き、そこから見える町を見下ろします。
「見ろ!!この森の下に住んでいる人間共は、遊びでオイラの仲間を殺すんだ。オイラの仲間の中には、毒を持っている奴も居るから、その毒を狙って来る奴も居る。」
「お前さんの毒なんぞ、何に使うんだい?」
今度はバッタが、ピョンピョンと跳ねながら、こちらに来て聞いてきました。
「何にでもさ。薬にも使うし、誰かを殺す時にも使うんだよ。」
蛇の変わりに兎が答えると、ライオンとタンポポ、それにバッタは「へぇ~。」と関心をする様に頷きます。蛇も大きく頷きました。
「人間は本当に、不思議な生き物なんだよ。だから見ていてとても面白いし、飽きないんだ。」
再び兎がそう言うと、バッタは不満そうに尋ねました。
「何が面白いんだい?人間は意味も無くあっしの仲間を捕まえて、遊ぶんだい!」
「そうだ!!そうだ!!」
バッタの言葉に、兎以外全員が叫びました。すると兎は、得意気に話し始めます。
「皆は知っているかい?人間は、同じ人間同士でも、お金の為に捕らえるんだ。僕等の狩られた仲間も、実はお金の為なんだよ。」
「それは生きていく為にって事なの?」
タンポポが不思議そうに尋ねると、兎は大きく頷きました。
「でもそれは変だなぁ・・・。」
蛇は首を傾げます。
「何が変なんだよ。」
ライオンが尋ねると、今度は蛇が得意気に説明し始めました。
「だって人間は、オイラ達と違って、自分達の住んでいる世界を汚すじゃないか。海の魚を獲っては、残骸を捨てて、森の物を獲っては、残骸を捨てて・・・。捨ててばかりだ。」
「確かにそうだ。死んだ人間も埋めて捨てちまうってあっしは聞いたよ。」
バッタがそう言うと、ライオンは大きく頷きながら言いました。
「やっぱり俺達とは随分違うな。俺達は無駄に捨てたりしない。」
「そうね、私達は無駄にしないわ。死骸も必ず誰かに廻って、そしてまた戻って来るもの。」
タンポポも頷きながら言うと、兎はチラリと視線を町の方へとやりました。
「成程、確かにそう言われてみればそうだ。僕達は別の動物に食べられても、死骸は土に還りそこから草の目が息吹く。その草を虫達が食べ、その虫達を僕等が食べ・・・その連鎖の中で生きている。だから種が絶える事が無いんだ。」
「だけど人間達の遊びにせいで、俺達の仲間は減っていくだけだ。」
「そしてその死骸はお金に変わるだけで、他の物には変わらないわ。」
「オイラ達と違い、人間は自分の住んでいる世界を汚すだけだ。」
「その事にも気づかず、文明だけを発達させている事をあっしは知っている。」
全員は、互いに顔を見合わせました。
「って事は、人間は僕達の連鎖の中には入っていない。むしろ連鎖を壊すだけの存在って事だね。」
兎がそう言うと、他の皆は大きく頷きます。そして兎は、更に言いました。
「なんだ、人間は連鎖に必要とされていない、壊すだけの存在なんだ。」
次の日から、眠れなかった兎はぐっすりと眠れる様になりました。そして町を、人間を見つめる事は二度とありませんでした。