坂本真希
真希は階段の踊り場で一休みしようと走るのをやめた。感染者達はすでに真希を追うのを諦めていた。
真希は休憩しながら、窓から外を見た。大勢の感染者がマンションに向かって走ってきている。
真希は思った。なぜ感染者は未感染者の居場所を察知できるの? 感染者達はこのマンションに迷いなく走ってきている。外まで聞こえるような音は出していないし出ていない。なら、なぜ?
その時、後ろから気配が感じた。
すぐに後ろに振り返ろうと思った瞬間、首にチクリと痛みが感じた。まずいと思った瞬間、意識が遠退き、やがては途絶えた。
真希は目を覚ました。
といっても、頭は完全には覚醒せず、朦朧としている。その影響か、眼鏡をかけているにも関わらず、視界がぼやけている。
だが、首に違和感を感じ、息苦しいのは確かだ。そして引きずられているのも。
腕を動かそうと思ったが、なぜか動かない。
その時、左腕に鋭い痛みが走り、覚醒する。
自分の腕は背中にねじり上げられ、手錠を掛けられていた。
首は鎖に固く何重にも巻きつけられ、錠が掛けられていた。
そして、首の鎖で自分を引っ張る肥満系の男――首にタトゥーがあり、『苦痛と快楽は紙一重』と彫られていた。
再び左腕に痛みを感じた。
見ると、今度はやせ細ったの男が、包丁についている真希の血をなめていた。
「この小娘、なかなかいけるぜ、文也」と痩せ男は言う。
「そうか、俺が捌く、大地」と肥満系――文也が答える。
真希は、何度か立ち上がろうとは思ったが、バランスがとれず、うまくいかない。
そのうち、再び首にチクリと痛みが感じ、また意識を失う。
気が付くと、真希は地獄にいた。
そこは人気のない、いわば地下壕のようなところだった。
首には固く鎖が巻きついており、鎖は壁の太いパイプにくくりつけられていた。相変わらず両腕は後ろで手錠をかけられている。
立ち上がることはできたが、自由は制限されていた。
冷たい絶望感がたちまち全身に満たす。
だが、叫んだりはしたくなかった。そんなことは弱い女がすることだ。
真希は、まず手錠を跨ぎ越して、腕を後ろから前に戻した。そして、鎖を引っ張ってみる。駄目だった。鎖はパイプに固く結びついている。
今度は、近くに何か道具がないか探した。大きな石でもいいから、そう願ったが、なかった。
その時、ドアが開いた。
3人の男――文也と大地、それに見知らぬ老人――が真希に近寄った。
「何だ、もう麻酔は切れたのか?」
「すまん、パパ」と文也は頭を下げながら言った。
すると、何の警告もなく文也と大地は真希を壁に押し付けた。
「ちょっと、なにするの!?放して!放してよ!!」
だが、二人は真希を強く押し付け、顔を無理やり老人――パパに向かせた。
パパは杖を突きながら、最新式の義足をはめた右足を引きずるながら歩いてきた。
パパはひげをきれいにそり、髪は整えてある。上等なスーツ。いかにもインテリだ。職業は医者か研究者、あるいは学者あたりかな?
その表情は、笑みを浮かべていた。
「パパ、とてもうまそうだよぉ」
大地が嫌らしい顔を見せながら、言った。パパはそんな大地に失望したのか、一瞬だけ顔を顰めた。が、その失望感を真希に向けた。突然、杖で真希の左太股を殴りつけた。思わず悲鳴を上げた。
パパは一息つくと、しゃべり始めた。
「いいか、大地。お前は獲物の扱い方を間違っている。男ならまだしも、女の獲物は餌と考えてはお前はおしまいだ。いいか、この女の自由は奪っている。つまり、この女をどうするかは我々次第だ。幸い、この女は未成年だが、なかなかの上物だ。長年の性欲を解消できるかもしれない」
大地は笑みを浮かべたが、文也は理解していないのか、真顔のままだ。
「私はこういう娘が痛めつけられ、悲鳴を上げた瞬間、とてつもない興奮を覚える」
この時真希は、このパパが変人で猟奇的な思考の持ち主だと確信した。
「よし、5分後にはまずは洗う。次は身体検査、次は遊んで最後は食べる」
食べるという単語を聞いた時、真希は寒気を感じた。もしや、多くの人がこの3人組に食べられたの?
「大地はホースを、文也はバスルームの準備だ」
そう言って、3人はドアから外へ出た。
真希は、3人が出た数十秒後に、すぐに鎖を引っ張ってみたが、びくともしなかった。
「畜生!」と思わず漏らしてしまう。
まったく、ここはどこなのよ!