80/84
大澤知冬
大澤は、意識がはっきりした。
――何が起きてのかしら?
大澤は、記憶を振り返った。
確か、保菌者を人質に、その後は落ちて、何かに食われた。
大澤は、たちあがろうとした。
――あれ?
体が動かなかった。
意識ははっきりしているが、体は動かない。
――何、どういうこと?
大澤は、なおも体を動かそうとした。
まずは、指を動かそう。
脳から、指を曲げるように指令する。
だが、指は動かなかった。
いや、指はなかった。
大澤は、知らなかった。
自分は、不完全で復活した不確定生物として生きることになる。
そう、ただの肉塊だった。
大澤は、それを悟った。
大澤は叫んだ。
だが、声は出なかった。
声帯そのものが消えていた。
肉塊は、ただ、ぶるっと震えた程度だった。
意識はある。
だが、肉体はない。
大澤は、肉体的苦痛はない、しかし動くことのできない、意志を伝えることもできない、生物とも死人とも言えない出来損ないとして、生きることになる。
精神的苦痛を味わいながら。