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感染者の沈黙  作者: 原案・文章:岡田健八郎 キャラクターアイディア:岡田健八郎の兄 
番外編:その他の人物の運命
74/84

坂本真希

坂本真希

戦闘能力★★★★★

情報能力★★★★★

適応能力★★★★★

生存能力★★★★★

決断能力★★★★★

視力  ★☆☆☆☆


 坂本真希はただ、ヘリコプターの中で座っていた。

 中は驚くほど静かだ。もっとも、真希自身も静かでいたい。

 しかし、突然ヘリに衝撃が走った。

「何だ!」

「わかり――――」

 再び衝撃。同時にハッチが開いた。いや、吹き飛んだ。再び衝撃。今度の衝撃は大きく、ほとんどの人物が席から投げ出された。

 立花が開いた出口に転がり始めた。真希は近くのベルトに捕まり、立花の腕をつかんだ。

 だが、再び衝撃が走ると、思わずベルトを放してしまう。2人は転がりだす。信也は摑まりながら立花の腕をつかむ。真希も立花の足をつかもうとしたが、空振りに終わった。

 気づけば、すでにヘリの外にいて、体が空中に浮いていた。



 真希は目を覚ますが、決して気持のよい目覚めではなかった。例えるなら、目覚めたときに首を痛めている気分だった。

 いや、実際に全身が痛かった。特に右腕が。右腕を見れば、関節がありえない方向に曲がっていた。真希は抜けた腕を強引に関節に入れ込んだ。

 思わず悲鳴を上げたが、ようやく堪えた。指を動かす。痛みは残っているが、動かないわけではない。

 そして気づく。視界がぼやけている。眼鏡が外れているのだ。

「眼鏡眼鏡……」

 眼鏡がないと、視界が悪いまま何もできない。全身の筋肉が痛む。筋肉だけでない。骨も、神経も、あらゆるものが痛んでいる。頭痛すら軽く感じる。

 雨のせいで制服が肌に張り付いていた。髪の毛をおさげ髪に纏めていたため、たいして邪魔にはならなかった。

 全身の苦痛を耐えながら探した末、やっと眼鏡を見つけた。奇跡的に無傷だ。眼鏡を掛けると視界がくっきり見えるようになった。

 そこはどこかの建物の屋上らしい。

 屋上から地上を除くと、無数の感染者が地上を走りまわっていた。

「あっちゃ~、まずい状況だよね?」

 全身、特に右腕が酷く痛むため、得意な空手は発揮できそうにない。

 真希はとりあえず戻ろうとした。

 だが、扉を触った時、扉ごと壁が壊れ、真希は大きく吹き飛んだ。背中を強く打った。

 立ち上がろうと思ったが、眼鏡がまた外れた。

 自分の正面先に、誰かが立っていることに気づく。ぼやけててもわかる。それは大きかった。2メートルは軽く超える。もしかしたら、3、4、5メートルはある。

 真希はあわてて眼鏡を捜した。今度は容易に見つかった。

 眼鏡をかけて、初めてわかった。それは人間ではない。

 禿頭のそれは、肌が不気味なほど白い。緑の血管が体中に浮き出ている。目は白い部分が黒く、光彩が白かった。

 鼻はなく、口はハンニバル・レクターがつけていたようなマスクを着けていた。巨大な右腕は、黒い機械によって封印されていたが、代わりに機械から有刺鉄線のような触手が何本も生えていた。

 左腕は右腕同様大きかったが、右腕ほど大きくはなかった。正常な腕だった。

 その左手には、多用途型機関銃をもって構えていた。

「やばっ!」

 逃げようと思ったが、逃げ道はなかった。いや、隣のビルの屋上に飛び移れば大丈夫そうだが、はたして飛べるだろうか?

 向こうは撃つ気でいた。迷う暇はない。真希は助走をつけ、飛んだ。ぎりぎり隣のビルの屋上にしがみ付けた。そして登って、屋上に上がった。

 思わず安心してしまう。あんな巨体が跳べるはずがない。

 真希は立ち上がって、歩く。だが、後ろで何かが落下した音がした。

 振り返れば、あの怪物が居た。

「嘘でしょ!」

 真希は屋上の扉に体当たりして中に入った。同時に近くのコンクリートの壁が削れた。

 真希は急いで階段を駆け下がった。

 あの怪物が壁を破壊して、真希を睨む。真希は慌てて廊下に出る。できれば、感染者と遭遇したくはない。しかし、あの怪物相手にするくらいだったら、感染者のほうがマシだった。

 真希が廊下を走り続けていると、OLのような感染者が1人出現した。真希は左手で殴りつけた。筋肉と骨の痛みで思うように力が入らなかったが、怯ませる程度の力はあった。

 感染者を怯ませた真希は、出口を目指してまた走った。正面にエレベーターがあった。

 真希はエレベータに乗り、1階を目指そうと思ったが、銃声が響いた。真希は反射的に伏せたが、操作盤が破壊された。

 真希は悪態付きながら、今度は窓に向って突進した。頭を守るように構え、窓に体当たりした。窓が割れ、体は外に出たが、勢いは落ちることなく、すぐ隣のビルの窓を割って中に入った。

 ガラスの破片が露出している肌を傷つけたが、お構いなしで真希は階段を探すように廊下を見渡した。

 廊下の奥に、階段の扉があった。ラッキー

 真希は階段に向かって走った。だが、壁が破壊される音がした。振り返るな!階段を目指せ!

 怪物が有刺鉄線のような触手を伸ばしてきた。右脚にそれが巻きついた。激痛が右足に走る。真希は涙目になりながらも、近くの消防用の斧で触手を切り裂いた。

 今度は右手に巻きついた。真希は右手の触手を切った。

 真希は階段の扉を開け、階段をかけようと思った時、背中に強い衝撃を感じた。同時に意識が消えた。消えたのは一瞬だったが、気づけば、外にいた。周りにはコンクリートの破片。

 立ち上がろうと思ったが、苦痛のあまりに呻き声を漏らし、血を吐いた。そして、眼鏡が割れていた。

 真希は、自分の目の前に立つ巨大な影を確認した。あの怪物は真希の目の前にいた。

 怪物は左手で真希の首をつかみ、締め上げた。そして、人形を持ち上げるように、容易と真希を持ち上げた。真希は息を吸えず、咳き込む。

 数秒で意識が朦朧とした。そして、自分の死を悟った。



 ハッと目を覚ます。そして見渡す。そこは、どこかの部屋の寝室だろうか、さまざまな家具が置かれていた。

 自分は柔らかいベッドの上で眠っていた。制服の上は脱がされ、包帯を巻かれていた。自分とは違う眼鏡をかけていた。自分のとは若干度が低いが、視界は悪くない。

 首が痛い。

 息を吸った時、咳き込んでしまった。

 すると、外から物音がした。真希はベッドから降りようと体を動かしたが、苦痛で呻き声を漏らす。それでもベッドから降り、近くに干されていた制服の上を着て、物音がする場所に向かう。

 寝室から出て、玄関から廊下に出た。

 廊下は暗かった。

 廊下の奥で、肉屋に行くときによく聞く肉を切り裂くときに聞くあの音だ。

 真希はそこに進んだが、やがて、1人の体格のよい男が死体に向かって斧を振り下ろしまくっていた。

「あ、あの……」

 話しかけてみた。

 男は振り向き、作業を止めると、顔が見える距離まで歩いた。

 それは日本人ではない顔だった。だが、ブラジルやヨーロッパではない。

「やあ、目を覚ましたかい?」と滑らかな日本語で話しかけてきた。

「おかげさまで」

「俺の名前はジュイ。ベトナム人だ」

 それを聞いて背筋がぞくっとする。ベトナム人には野蛮なイメージを抱いていた。現にいま、死体に斧を振り回していた。

「君の名前は?」

「わ、あたしは真希……坂本真希です」

「その眼鏡は大丈夫か?」

「え?あ、はい。でも、どうして眼鏡が必要だってわかったんですか?」

「壊れた眼鏡をかけていたからだ。それでね。それより、俺の部屋に戻ろう。ここは危険だ」

 真希は言われたとおり、目覚めた部屋に戻った。

 そして、居間に案内され、ソファーに座らせてもらった。

「酒は飲むか?」

「未成年者ですけど?」

「じゃ、炭酸か」

 炭酸より牛乳が好きだが、文句は言えない。

「お前さん大変だったな。あのでっかい怪物に襲われてたんだ」

「え?」

 その瞬間、記憶が戻った。

「あの、どうやって助かったんですか?」

「俺が助けたんだ。トラックで体当たりしてね。あの怪物は死ななかったが、気絶したお前さんを救う時間はあったんだ」

 真希は頷く。いまだに首は痛いが、命あるだけマシだった。

「コーラだ」

「ありがとう…ございます」

 そう言って、少しだけ飲ませてもらった。

「ここは安全だ。なんつたって、俺がこのマンションの化け物どもをほとんど殺したんだ」

 化け物というのは感染者のことだろう。

「まるでベトナムだ!あの頃に若返った気がする」

 やっぱり野蛮だ。

「ゆっくり休んでおけ。俺は休む」

 そう言って、コンセントをつないだ。すると、窓にあるクリスマスツリーに飾るあれが点滅した。

「あれは人を集めるためだ。正常な人を集めるためにな」

 真希は頷く。

「でも大体は略奪だった。ま、殺したけどな」

 やっぱり野蛮だ。

「クローゼットに着替えはある。着替えとけ」

 そう言って、寝室に向かった。

 真希はソファーに寝込んだ。

 


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