黒澤真斗2
黒澤は、雨の中、びしょ濡れになりながらも、歩き続けた。もはや、服のべたつく感は気になっていなかった。
「皆、どこなの?」
小さな声で呟いた。
すると、近くのコンビニから、小さなすすり泣きが聞こえた。
これが誰であろうと、それは関係ない。非感染者と出会えるなら、それほど嬉しいことはないだろう。感染者よりもずっと、何倍も良い。
コンビニの割れたドアから、中に入った。
「誰か居るの?」
そう、聞こえるほどの大きさで言った。
すすり泣きは、レジから聞こえた。
黒澤は見る。
そこには、少女――相沢茜が居た。
「茜ちゃん?」
茜は顔を上げる。
「怖がらないで、私はあなたのお兄ちゃん、信二君のお友達よ」
茜がますます怯えていた。
どうやったら、この子は怯えなくなるのだろう?頭を抱えた。
「後ろ……」
「え?」
すると、突然、後ろから何かが掴みかかってきた。
黒澤は、それの腕を握り、投げる。
それは小学2年ほどの少年だった。いや、少年ではない。既に凶暴性を剥き出しにしている感染者だった。
後ろから、別の少年感染者が、飛び掛ってきた。
黒澤は、感染者の腕を掴み、背負い投げを繰り出した。そして、感染者の腕を両腕掴み、関節を外した。感染者は苦しみだした。
すると、悲鳴が聞こえた。振り返れば、少年が茜の右脚を咬んでいた。黒澤は自分のミスに悪態つきながら、感染者を後ろから抱きかかえ、投げた。
近くにあったビニール傘を取り出し、先端部分を少年の右目に突き刺した。少年は大量の血を吹き散らしながら、倒れた。
黒澤は茜の脚を見る。傷口が痛々しく見える。咬まれれば、数秒もしなううちに発症するのが普通だった。傘を構える。
茜は痛そうに、脚を押さえた。
だが、数分たっても発症はしなかった。
黒澤は不思議に思い、茜の両目を見た。右目の虹彩と、白目部分が真紅に染まって居たが、左目はいたって正常だった。
こんなことがあって良いのだろうか?
「茜ちゃん、頭とか痛くない?」
茜は首を振った。
ここは信じていいのか?
だが、ここで殺しても、信二に悪かった。
「ここに居ても危ないから、お姉ちゃんがおんぶしてあげるから外に出ようね?」
「うん」
発症するかが不安だが、自分の判断を信じて、茜を背負い、傘を持って外に出た。雨が矢のように降り注ぐ。痛みを感じ、穴が開くかとさえ思った。
そして、歩き出した。無論、当てもない。東京から出られると思えないが、とにかく歩き続けた。
茜が寝ていた。黒澤は寝顔が見たいと思ったが、やめた。歩くことに専念した。ただ歩き続けた。
だが、突然、歩くのをやめた。
目の前に、感染者の集団が居た。そして、2人に気づいた。
感染者達はわめきながら、走ってきた。
黒澤は、茜を背負いながら、逃げ続けた。
もう駄目だとも思ったが、光、いや、火が見えた。
「正面のマンションに走って!」
女性の声がした。
見れば、火炎瓶を持った人が、4人ほどいた。全員、ガスマスクの様なものをつけていた。
黒澤はマンションまで走った。
4人は火炎瓶を投げた。感染者が何人か燃え上がったが、走るのをやめていなかった。1人が、ガスボンベを、道の真ん中に置き、ダイナマイトの様なものを仕掛け、点火した。
そして、全員がマンションに向かって走った。
すると、感染者の集団のど真ん中で、ガスボンベが爆発を起こした。感染者の集団は破片と炎に巻き込まれ、姿が消えた。バラバラになったんだ。
黒澤は、先導に従い、マンションの部屋に入った。
玄関が閉まり、チェーンが掛けられた。
すると、1人が話しかけてきた。男だった。
「お前は鱒って魚を知ってるか?不細工だが、フライにするとうまい魚だ」
黒澤は黙って聞く。
「すると、友人が言ってきた。「鱒を漢字で書けるか?」と。俺は答える。マスなら掻いたことある」
黒澤には意味が分からなかった。
「ユーモアがないな、あんたと気が合いそうだ」
そいつはガスマスクを外した。それは、髭を剃っていて分からなかったが、猫野だった。
次々とマスクを外し、知っている顔が現れる。須田、綾瀬、鳥山だった。
これには一安心を感じた。
須田は、そう言ってリビングに入ってきた。全員がリビングに集まっていた。
綾瀬は、茜を自分の膝に乗せ、頭を撫でて、眠れるムードを作り、茜はすやすやと眠った。
「可愛い子でよね、誰の妹」
「相沢君、あの転校生の」
「きっと両親もイケメンと美人だろうな」
ガスマスクの男、雑賀が全員分のコップとカルピスを持って入ってきた。
「全員無事で何よりだ」と呼吸音交じりで言った。
鳥山は笑い出した。
「まったくだ。全員強運の持ち主だな」
すると、須田が言い出した。
「それにしても、あの巨大怪鳥は何なんだ?」
「ああ、あの翼竜みたいな」
全員がう~んとうなった。
猫野が言い出す。
「鳥山、雑賀、お前達はどうやって生き残った?」
「ああ?ああ、話そう」