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感染者の沈黙  作者: 原案・文章:岡田健八郎 キャラクターアイディア:岡田健八郎の兄 
研究所の惨劇
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研究所の惨劇

 研究所に運ばれた信二たちは消毒を受け、隔離と言う名の監禁を受けた。ソフィーの場合、別の場所に運ばれていった。

 そこは白い部屋だった。窓や鉄格子は無く、あるのは鉄製のドアに部屋の隅にあるベッド、便所だけだった。全てが白色だった。

 立花はローファーを脱ぎ、ベッドに登り、壁に背をもたせ、頭を下げて睡眠を取った。

 真人は腹筋、真希は何も考えずに座り、森田は黙って立っていた。奈々子は髪を直している。

 そして信二は、考えていた。

 まず、どうやってこの独房から出るか、出たらどうするか、胎内に眠るウイルスが活発化するのはいつか、どんな感じに変異するかだ。

 無論、考えても意味は無い。実行できないし、考えたくも無い。今欲しいのは怒りだった。怒りは人に思わぬ力を与える。

 そんな中、真人がポケットに手を突っ込み、何かを出した。

「これ、お前宛だぜ」

 カセットレコーダーだ。

 何だろう?変な音楽でも収録しているのか?『カルミナ・ブラーナ』ならお世辞無く喜べるのだが、この際『ヴェルディ・レクイエム』でも『G線上のアリア』でもありがたい。

 だが、再生ボタンを押せば、それは『カルミナ・ブラーナ』のような劇的なものではなく、『ヴェルディ・レクイエム』のような迫力のあるものでもなく、『G線上のアリア』のような落ち着いた綺麗な曲でもない。

 男の声だった。

『やあ、信二君』

 まずは挨拶。

『君は今、研究所に居るのかい?もしそうなら、礼を言いたい。なぜなら研究所は普段、陸自が守ってる厳重な場所だ。だが、恐らく今は警備が手薄だろう』

 信二は恐ろしさを感じ始めた。

 これは――明らかに正常な人間が収録したものじゃない。

『信二君、これからが問題だ』



 陸上自衛隊の陸相、相沢信也は司令室に座り、航空自衛隊の協力を要請した。

 出来れば他の自衛隊の力は借りたくないし、事をこれ以上大きくしたくないが、もしもの場合に備え、東京全土を爆撃できるようにはしなくてはいけない。

 そんな最中、1等陸佐である自衛官が来た。

「最前線部隊の司令官からの報告書です」

「ご苦労」

 早速拝見してみた。


“報告書

 我々に課せられた最重要任務の保菌者捕獲は成功

 以下のものを研究所に送還します。

ソフィー・ヴェルネ

相沢信二

立花由香

安藤真人

坂本真希

森田正志

佐々木奈々子

 以下のものを収容所へと

織邨直人

相沢信一

大角哲郎


 以上”


 最初は我が目を疑った。

 自分の実の息子の名前が2人も載っていた。

 これは夢だ、悪夢だ

 だが何度確認してもやはり変わらない。今無き妻が譲らなかった2人の名前、同姓同名もあり得るが、しかし……

「頼みがある」

「何でしょうか?」

「和田を呼べ、彼に指揮を取らせろ」

「え、あ、はい、しかし、相沢殿は?」

「研究所に向かう、保菌者の姿を確認しておきたい」

「了解」

「収容所に連絡、今日確保した者は釈放しろ、彼等は既に大羽の事件で感染を目撃している。今さら捕まえても、今は無い」

「了解」

「頼んだぞ」

 そう言って信也は、自分の拳銃を装填していることを確認し、ヘリに乗った。



 ソフィーは特性の椅子に座れされていた。

 両手両足首と腹部、首がベルトで縛られ、固定されていた。身動きが取れない状態だ。

 大澤が入ってくる。

「待ってたわよ、あなたが逃げちゃったからお姉さん大慌てしちゃってね」

 そう言ってベッドの様な台を操作する。

 すると、台の無数の穴から杭の様なものが飛び出した。

 ソフィーは一瞬びくっとした。

「これに寝かせようとも思ったよ、まあ、今度でもいいかな」

「まずは、自分で寝てみなさいよ」

「あら?私は自分を実験台にするようなことはしないわよ?なんなら今から試してみる?」

 近くの坂本京子が黙って立っていた。

 彼女は大澤ほど変な思考を持っていなかったが、大澤を恐れ、反論出来ない状態だ。

 そんな時、扉が開いた。

 相沢信也が入ってきた。

「大澤博士」

「あら?陸相殿」

 ソフィーは信也を見た。

 似てる!信二と似ている!やっぱり親子だな。

「その子が保菌者?」

「ええ、唯一の免疫を持った人物です」

 信也はソフィーを見た。

 助けてと言おうと思ったがやめた。

「まだ若いな……それと隔離室はどこだ?」

「坂本博士、案内して」

「え、ああ、はい分かりました」

 坂本は信也を連れて部屋を出る。

 てことは、大澤と2人きりだ!よりによってマッドサイエンティストと一緒だなんて……世の中残酷だよ!

 大澤は笑みを見せた。


 京子はカードキーでドアを開け、部屋に案内する。

「この先を抜けた所にエレベーターがあり、それでいけます」

「わざわざご苦労様です」

 すると、1人の自衛隊隊員が小銃を構えて待っていた。

「これから先は隊員と一緒でないといけません。たとえ陸相でも」

「ここでは階級なんて関係ないんだな」

 自衛隊員が敬礼する。

「休め」

「ここからはご同行――」

 言い終える前に、突然信也が隊員の顔面に拳をお見舞いし、腹を右ひざで蹴り、小銃を奪って後頭部に打撃を加えた。

 隊員は紙が落ちるように倒れた。

「と、突然何を?!」

「隔離室に監禁されてるのは、俺の息子と友人―あなたの娘も含まれている」

「ま、真希が?」

「聞いてないのか?」

「ええ」

「とにかく、逃がさないとな」

「でも、検査が終えれば――」

「民間人は射殺される。それが真紅計画だ」

「え?」

 信じられないようだ、無理も無い。

真紅計画コードレッドは、表上は自衛隊が提案された作戦として認識されてるが、本当は政府が生み出した証拠隠滅作戦だ。政治的に不利になる事実を隠蔽し、目撃者を消す。それが本当の目的だ」

「そんな……」

「だが射殺はさせない。俺の裏切りがばれる前にここから逃がすしかない」

 京子はそれを聞くなり、すぐにカードキーでドアを開けた。

「急ぎましょう、相沢さん!」

「分かってる」

 信也は小銃を持って後を追った。


 大澤は遊び心を持つ少年のように、注射器を持ちながらわくわくしていた。

 だが、そんなことが終わった。

 突如、警報がなった。

 大澤はモニターを見る。

 何と、廊下に1人の男性が走っていた。

 そんな、そんな馬鹿な!処分したはず!

 そこに映って居たのは、岡本大輝と名乗ったあの怪物だった。



 外の警備をしていた陸自隊員が暇そうにあくびをした。

 しかし、この研究所は危険なウィルスを取り扱ってるとはいえ、なぜ武装警備させるんだろ?ここは日本だぜ。

 そんな思いを抱えて居たが、無線機から声が流れる。

『研究所内で未確認侵入者、全部隊は戦闘隊形、繰り返す、全部隊は戦闘隊形、殺傷武器の使用を許可する』

 一瞬耳を疑った。

『第一外部警備隊は研究所の入り口を封鎖、第二警備隊は現状の戦力でそのまま待機』

 この隊員は第二部隊所属だった。

『それ以外の部隊は戦闘隊形』

 これは着艦だったが、やばい日になりそうだった。


 大輝は興奮していた。

 やっとこのときが来た!

 廊下を走っていると、大勢の隊員が隊形を組んで、銃口を向けていた。

「射撃開始!」

 銃声が響く。

 弾丸が貫く。

 構うもんか、これからする事に比べれば、たいした痛みではない!

 距離は徐々に縮まっていく。

 そして手前の隊員の首筋を咬んだ。



 信二はこの警報音がやかましくて仕方が無かった。

「どうしたんだ?」

 真人は不思議そうに天井を見ていた。

「さあな、きっと感染事故だ」

「はは、ざまみろ」

 信二も頷く。

 だが「感染事故なら、私達出れずに感染しちゃうよ?」と真希が言った。

 それもそうだった。出られなきゃ感染してしまう。

 そんな時、突然、立花が言った。

「あそこにエアダクトから出られるんじゃ?」

 確かにそうだった、部屋の真ん中にエアダクトがあった。だがベッドは固定されているし、人2人分の高さが必要だ。

「誰かが肩車して開けないと……」

 だが誰が?

 信二は周りを見る。

 真人は左手を失っているし、真希は腕力自体強くない、森田は嫌がるだろうし、立花は小柄だ。

 すると……

 全員が信二を見る。

「分かって、俺が土台になる」

「問題は誰が乗っかるか?」

 真人が言った。

「いいか?森田と俺は男だから体重も重いし、きっと長くは持たない。真希は信二と同じ慎重だし、胸が大きいからそれも体重に+されるし、第一真希は不器用だ。すると……」

 今度は全員が立花を見る。

「お前は全員の中で比較的軽いし、手先も器用そうだ。やれるか?」

 立花は困った顔をし、信二を見る。

 信二は、俺も選ばれた、受け入れろというばかりに肩をすくめた。

 立花はため息し「OK、やりましょう…」といった。

 立花はローファーを脱ぎ、騎馬立ちしている信二の腿、左肩、右肩の順に足を乗っけ、信二は足首を掴んで押さえる。いわゆる組体操のようなものだ。

 立花は震えながらも、ゆっくり立ち上がり、エアダクトの柵に止めてある4つのビス、あるいはボルトを紘輝から貰った十字架で外す作業を進めた。

 全員が励まし、応援した。

「お前の考えてることを当てようか?」

 信二は立花に聞いた。

「え?」

「お前の思ってること」

「……当ててみて」

「土台が俺じゃなくて紘輝君なら……だろ?」

 立花は答えないが、赤面し、頷く。

「紘輝って?」と真人が聞く。

「聞くな、思い出したくない」

「1つ出来たわ!」

 1つ出来れば、後はなれて作業スピードが上がり、2つ、3つと出来た。

 最後の1つは思ったより手間取っていた。

「がんばれ」と全員が励ます。

 そして、「出来た!」と立花が言い、全員が歓声を上げる。当の本人が一番喜んでいた。

 信二は良くやったと顔を上げてしまった。

 立花のスカートの中――女のパンツ、いやパンティーか――が見えてしまった。

「あ……ええ!」

 立花も見られたことに気づく。だが、怒ることは無く、逆に恥ずかしそうに赤面し、急いでエアダクトに昇る。

 信二を土台に、真人、森田、奈々子、真希の順にエアダクトに昇ったときに気づいた。

 どうやって信二を上らせる?

 そこで、真希の両足を森田が握り、森田を後ろから真人と立花が抱え込み、真希がエアダクトからぶら下がり、信二を捕まえて引き上げようという作戦に出た。

 作戦は見事に成功した。

 だが代償して、信二以外の男子グループが逆さにぶら下がっている真希のパンツを見てしまい、張り手を食らった。

 このとき、口をそろえていった。「信二は運が良い」

 そんなふざけ合いも終わり、いよいよスパイ映画のようにダクトを進んで脱出を試みる。

 だが、真っ直ぐに進んでいると、行き止まりに遭遇し、仕方が無いので柵を壊して下りた。

 そこは廊下だった。

 信二は先に降り、次に落ちてくる全員を受け止めた。

「ここはどこだ?」と真人。

「地図があるよ」と真希。

「地下5階の廊下だね」と立花。

「このまま進めばエレベーターだ」と森田。

 信二は先に行けといい、トイレに入る。

 さっきから何かがおかしい

 そう思っていた。

 無論周りの状況もそうだが、今おかしいのは自分の体だった。今のも――飛んで行きそうなくらい軽く感じた。

 これは錯覚か?

 そう思いながら、鏡で自分の顔をした。

 その瞬間、両目の瞳孔が開き、眼球を真っ黒に染めた。

 同時に頭痛と吐き気がした。

 真人が入ってくる。

「どう――信二!」

 真人の声で全員が入ってくる。

 そして驚愕する。

 信二の肌から血管が浮き出てきた。

「に、逃げろ」

 信二は必死に声を出した。

「し、信二君?」と真希が心配そうに駆け寄った。

「来るな!因るな!」

 信二は怒鳴った。

 俺は発症する!逃げろ!

 そういいたかったが、うまく発音できない。

「そ、そんな……そんな!何で!」

 立花は思わず大声で言ってしまった。

 立花…すまない、また幼馴染の変わり果てた姿を見せるなんて

 信二はそう思い口にしようとしたが、口からは奇声しか出ない。

「皆、逃げるぞ!」

 真人は全員をトイレから出す。

 信二は1人孤独に変異する自分を鏡で見届けた。

 口から鮮血を吐き出す。爪が伸び始めた。体が勝手に動き、骨が変化する。

 耐え難い苦痛を味わいながら、信二は、ただ、変異を終えるのを待つしかなかった。

 思わず床に倒れる。汗を掻き始めた。苦痛で呻き声をもらす。

 痛い――それが人としての最後の意識で感じた感覚だった。

  

 最後くらいは、誰かに見守られたかったな………

 

 これが最後の意識だった

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