連行
信二達はショッピングモールに着いたが、正面入り口は閉まってて、裏口はトラックで塞がっていた。まるで要塞化していた。
だが、屋上へと続く梯子があった。
信二は近くのゴミ箱を台にして、梯子に上り、屋上に着いた。紀子も続いた。
ここまで来たんだ、違うショッピングモールって言うオチだったら発狂してやる。
そう思いながら、ドアを開けて、階段を下り、警備室に辿り着いた。
警備室の数多くのカメラに店内と店外を映していた。壁には多くの懐中電灯が置かれていたし、消防用の斧と消火器、警棒があった。
これが警備室か?てっきりネットランチャーやらスタンガンやらはたまた散弾銃があると期待したが、やはり日本だ。あるわけが無い。アメリカに住みたい。犯罪は多いが………
警棒をとりあえず貰い、警備室に出た。瞬間に、4人の男に小銃3丁と拳銃を向けられた。1人は自衛隊の迷彩服、2人はSATの戦闘服、1人は上等のスーツ姿だ。全員の共通点と言えば、ガスマスクやら、マスクやらをつけていた。
信二は取り合えず、と言うより本能的に両手を上げた。
全員が銃を下ろした。
「信二か?」
SATの1人がマスクを取った。
それは腐れ縁で繋がれた知り合い――というより自分の兄の信一だった。
全員がマスクを外す。直人、蛇谷、それに知らないお兄さんだった。
ありがたい、感動の再開だ(もう1人のSATは誰か知らないが)。
「他に誰か?」
「女子が1人」
そう言って信二は廊下を抜け、広間に出た。
でかいなと信二は実感した。
あらゆる店舗が数多く並び、かつでにぎやかであっただろうと容易に想像できる。
他の全員があらゆる店で遊んでいた。ここは絶対的な安全性は無いが、この何日間で始めての本当の安心感を感じているのだろう。
信一が近寄ってきた。
「まだ東京に居たのか?」
「うん、そうだよ。マジな話あいにくヘリは満員で予約待ちだよ」
実の所信二は東京から出る気は無かった。
信二はベンチに座るソフィーを見かけた。
右腕にギブスを嵌めていた。
信二はさり気なく、と言うより意図的に隣に座った。
彼女は一瞬びっくりしたが、すぐに嬉しそうな顔をした。
「お前は何もしないのか?」
「うん、何もする気がないんだ」
これは彼女がよほど礼儀や性格の良い証拠なのだろう。信二は感心する。欲が無いんだな。他の連中は結構好き放題やってるようだが。まあ、中にはきっとそんなに荒らしてない人物が居るだろう。
「真人の位置は?」
「たぶん…薬剤店か何かだと思うけど…」
「ここに居るのも何だから、一緒に来るか?」
「いいの?!」
「いいよ?!」
そう言って2人は薬を売ってる店に行きましたとさ。
そこにはソファーに横たわる真人と、真人に右腕を消毒か何かをしている真希と立花と奈々子が居た。
「腕どうしたんだっけ?」
真希が振り返る。全員驚いたが、すぐに振り返る。
「酷いものだよ、感染を逃れるために切り捨てたんだって」
感染したらたいていはすぐに発症するウィルスだ。真人はかなり感染して時間がたっているが、発症してないのを見ると、感染は防げたらしい。
本人はかなり苦しんでいた。
「痛てーよ、消毒痛いぜ」
「我慢して、火傷は自分で招いたんでしょ?それに男なんだから、痛がらない」
そうか、止血のために……それは痛いはずだった。
立花は悲しそうに座っていた。
「どうしたんだ?暗い顔をして」
「考えてたの」
何を?と聞く前に答えた。
「あの方法で感染を逃れたなら、きっと紘輝君も……」
「……」
「相沢君は、紘輝君をどう思ってたの?」
「唯一無二の大親友……あるいは、いやなんでもない」
「大親友…か」
「あいつの話はよそう、お前も俺もあいつのことを思い出すとやりきれない」
「そうね、そうよね」
やはりまだ引きずっていたか。それともこの感染事故で思い出したのか?
真人は立ち上がる。
「いいね、腕がなくなると……体が軽くなる」
真希は笑みを見せる。「でもあの立派な走りは無理ね、一番天国に近いのはあなたかも」
「だからお前が好きさ、まだ天国を信じてる」
「それってコクってるの」
「自分で考えてくれ、ちなみに俺はキリスト派だ」
立花がすかさず言った。「キリストにも宗派、いえ流派?まあそんなのがあるわよ」
「マジか?」
「カトリック、プロテスタント、聖公会――」
「言わんでいい、俺はカトリック派だ、右腕が無事なのは不幸中の幸いだ」
奈々子は頷く。
「確かに、利き手が無事なのは本当に幸いだ」
そんな時、直人が入ってきた。
「まずい状況になった」
「「「「「「何が?」」」」」」
「至急警備室に来い」
いざ警備室に言ってみると、自分達以外は居なかった。
「他の人は?」
「パニックは避けたい」
そう言って画面を指差す。
表の駐車所に少人数のバイクを乗った男達が走り回っていた。
紀子が反応した。
「あれは総合連盟」
「連盟?」
「噂程度だったけど、東京中の暴走族やら暴力団が連盟を組んだそうです」
「厄介だな」
警備室の無線機から音声が流れた。
『おい、こんなでかいモールを1人占めにするのは欲張りだ。今から仲間を連れてくるから、入り口明けと居てね』
そう言ってどこかへと走り去った。
「これはやばいな、どっかの映画みたいな感じになる」
全員がそう予感した。
「全員を警備室に集めろ」
信二はすぐにマイクで呼んだ。
全員が集まった。
直人はすぐに屋上に向かい、狙撃銃を構えた。
全員が警備室に待機した。今夜は山場だ。
予告通り、多くのトラックやバイクがモールに向かっていることを信二は屋上から確認した。
隣で狙撃銃を構えている直人も確認した。
「思っていたよりもすごいな、まるで軍隊だ」
「仮にもこの数日をあの人数で生き残ってきたんだ、きっと傭兵気取りだ」
「あれだけの人数で勝つのはきついな」
「がんばれば、どうにかなるさ」
2人は不安げに見ていた。
先頭のライダー部隊が正面出入り口に辿り着いた。
同時に直人が狙撃銃で狙撃を始める。
初弾はどこかの大男に当たった。全員が慌てだし、拳銃を取り出して乱射を始めた。
「いいぞ、これでいい」
直人は2発目をバイクのガソリンがあるであろう場所に命中させた。バイクが大爆発を起こし、破片や爆風がライダー部隊を全滅させた。
だが、ガラスに網を張った大型トラックが正面出入り口に突っ込んだ。
まずいと直人がタイヤを狙ったが、遅かった。
トラックがモールの広場に入った。
すぐに無線機で連絡を取った。
「聞こえるか、全面戦争の準備だ」
真人は警備室のモニターで見た。
トラックから大勢の近接武器を持った集団が、略奪を始めた。
胸糞が悪くなる光景だ。
壊すだけ壊し、盗むだけ盗む。酷い惨状だ。
銃声が聞こえる。
屋上で直人が狙撃銃で狙撃しているんだ。
だが、次々と暴走族が入ってくる。
信一は小銃を構えた。
略奪するだけしてみろ?暴走族はいけない連中だ。
そう納得させ、照準を合わせる。
蛇谷、大角も構える。
『全面戦争だ』
同時に全員が射撃開始した。
弾丸が次々と暴走族の命を奪っていく。
暴走族が拳銃や村田銃、警察隊から奪った短機関銃を乱射し始めた。
信一は身を隠し、装填した。
「神よ、ご加護を」
そう言って再び小銃を連射した。
「許せよ、正当防衛だ」
いや、そんなものではないはずだ。こんな世の中になったんだ、暴走族なんて死ねばいい。そう自分に言い聞かせた。
信二は双眼鏡で外を見ていた。
「俺は中を援護する」
直人は狙撃銃を持って中に入っていった。
信二も中に入ろうと思ったとき、ふと気づいた。
暴走族の列が途絶えていた。
双眼鏡で見た。
何てことだ、感染者の軍隊だ。
モールの遠くで感染者の群れが暴走族を襲い、引き裂き、食らっていた。
そして銃声を聞きつけ、モールに一直進してきた。
まずいな、これでは混戦になってしまう。
そう思って中に入ろうと思ったとき、突如右腕に激痛が走る。
変異が始まった。
信二はすぐに抑制剤を取り出し、注射する。だが、中々収まらなかった。そして数分してからやっと収まった。
効きづらくなり始めた。
信二は立ち上がり、中に向かった。
警備室を抜け、モールの様子を見ようと広場に出た。
1階の暴走族が2階に向けて乱射していた。
数人が2階に上がってきた。蛇谷が振り返り、小銃で正確に撃ち殺す。
そんな最中、入り口の暴走族が中に慌てて逃げ出した。
感染者の軍団が中に入ってきた。
感染者は速かった。
あっという間に2階に上がってきた。
銃を持った自衛隊とSATが感染者に向かって発砲した。
信二はヘリコプターのプロペラ回転音が聞こえた。
航空自衛隊か?
そう思いながら、警備室の戻ろうと思うと、感染者の1人が組みかかってきた。
信二は慌てて振り払おうとしたが、感染者はがっちりとした体格で、凄まじい腕力で組みかかってきた。両者は警備室のドアを破って、中に入った。
中の全員が驚いた。
「屋上だ!屋上に行け!」
信二が言ったとたん全員が本当に屋上に向かった。
「マジかよ、1人くらいたすけろよ」
そう言って感染者の右頬を殴ったが、その程度で振り払えなかった。
感染者は凄い形相で食いちぎろうとしてきた。
「この!畜生!くたばれ!」
殴り続けるが、やはり素人のパンチでは駄目だった。
その時、感染者が後ろに下がった。
ソフィーが感染者を羽交い締めしていた。
「今よ!やって!」
信二は立ち上がろうとしたが、その前に感染者が拘束を解いて、また走ってきた。
だが、いつの間にか真希が降りてきたのか、感染者の鼻面に右拳をめり込ませる。
感染者は鼻を押さえながら、混乱したようにふらふらと歩き、倒れた。
「大丈夫?」
ソフィーが寄って来たが、次の感染者が現れた。
次の感染者はソフィーに襲い掛かってきた。
ソフィーは感染者に組まれ、倒れこんだ。信二は感染者を後ろから離れさせようと組みかかった。そして押さえた。
「今だ!やれ!」
真希が感染者の頭を2発殴った。この感染者はあっさりと失神した。
信二はすぐにドアを閉め、押さえた。
「ここは押さえてる!先に屋上へ行け!」
感染者が大勢向こうから押してきた。広場から数多の銃声と奇声が聞こえる。
信二は必死に押さえた。
2人は屋上に向かった、と思うと、下がってきた。
「何してるんだ!行け!」
だが、大勢のガスマスクをつけた自衛隊が小銃を構えて降りてきた。迷彩服から分かった。陸上だ。
「全員床に伏せろ!今すぐに」
「そうしたいが今は出来ない!」
「3秒待つ、床に伏せろ!」
「分かった…伏せよう」
すぐに横に飛ぶ。
ドアが開き、大勢の感染者が雪崩れ込むように入ってきた。
「感染者達だ!しとめろ!」
自衛隊達が一斉に発砲を開始した。
警備室に入ってきた感染者は全滅した。
「戦闘部隊を広場に、お前とお前とお前、こいつらを連行しろ」
3人の自衛隊が3人を屋上に連れて行った。
屋上では多くの陸自の輸送ヘリが待機していた。大勢の自衛隊が中に入っていく。
信二達はチヌークと呼ばれる輸送ヘリに乗らされた。そこには立花、真人、奈々子、森田が居た。
「司令部へ、保菌者とその関係者を確保、どうぞ?」
『保菌者は研究所に輸送せよ』
「関係者は?」
『検査しろ、異常が無ければ隔離所へ』
「了解、終わり」
信二達がヘリの席に座って時、ヘリが飛び立った。
「これからどうなるの?」と立花が聞く。
「さあな、ろくな目に遭わないのは確かだ」