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感染者の沈黙  作者: 原案・文章:岡田健八郎 キャラクターアイディア:岡田健八郎の兄 
感染
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暴行

「俺たちは外にある装甲車を動かしてくる」

「鍵は無いんですか?」

「鍵は矢倍が持ってる。あいつは感染した。危険をさらしてまで鍵は欲しくない」

「永田は昔は悪だったんだ。車の始動も分けないだろ」

 ソフィーは朦朧とする意識の中、3人の男の会話が聞こえた。

「本部と通信は?」

「取れない、周波数がつかめない」

「最前線司令部とは?」

「周波数がいつの間にか変わったらしい」

 ドアの開閉音が聞こえた。

「ったく、迷惑な女だぜ」

 再び意識が途絶えた。



「起きろ、女」

 男の怒鳴り声と共に何か冷たいものが掛かった。そして髪を引っ張られる。冷たさと痛みで意識がはっきりとしたが、すぐに状況を理解できなかった。頭がずきんずきんと痛む。思わず頭に手をやろうと思ったが、自分の両手が動かない。両手首をベッドの脚に縛り付けられていた。

「こ、ここは……?」

「隊長達も知らないアパートの地下だ」

 はっと頭を上げる。そこには若い自衛隊員――尾崎六祖が立っていた。

 小銃は部屋の隅に置かれ、迷彩服の袖を限界まで捲っていた。逞しい鍛えられた腕が、ソフィーを不安にさせる。

「……どうして?…こんなことを……?」

「こんなこと?自分の胸に聞いてみろ!」

 もう一度自分の状況を見た。やはり両手は腰の後ろでひとつにくくられ、ベッドの脚にロープと手錠で縛られていた。ベッドは重く、びくとも動かない。

「さあ、どう責任取る?」

 尾崎の問いかけに、頭が混乱しそうになり「え?責任?」と聞き返した。

「どう責任取るんだよ!このアバズレがっ!」

 怒鳴り声で、体をびくっと震わせた。

「責任って……一体何の――」

 言い終える前に尾崎の右手がソフィーの頬を張った。

「ひっ」

 顔が真横に向き、あまりの痛みに歯を食いしばった。

「やめてっ!説明してっ!」

 そう叫んだソフィーの左目に右拳がめり込んだ。骨の軋む音と共に、意識が遠退いた。が、左右の頬が続けて張られ、意識が戻った。

 同時に痛みも舞い戻ってきた。

「お前は確か保菌者だったな。なんだか知らないが、めっちゃ危険な細菌を体内に宿してるらしいな」

「そっ…それが何?」

「お前はある研究所の研究対象だった。あろう事か停電時に脱走したそうだな」

「そっそれは……」

 その瞬間、勢い良く、ソフィーの腹部に右拳が深々と突き入れられた。

「くっ」

 背骨を貫通するような痛みにソフィーは体をくの字に折り曲げた。猛烈な痛みと苦しみと共に、口の中に苦い液体――胃液が込み上げてきた。いつの間にか涙で視界がかすんでいる。

「ふざけたマネしやがって!お前が脱出したおかげで東京中に細菌が蔓延して大勢の市民が死んだんだぞ!この糞がきが!」

 話は半分聞いていない。腹部の痛みに耐えるのがやっとだった。

「東京封鎖、どうだ?日本の首都が地図上から消え去ろうとしてるんだ。罪悪感感じるだろ?え?」

「違うの……それは、違うの……それは……」

 私ではない。別の人物の仕業だと言おうとしたが、尾崎はソフィーの髪を鷲掴みし、無理矢理顔を上げた。

「お前のせいで先輩が死んだんだ!先輩が……」

 突然髪の毛を離し、近くの椅子に腰をかけた。

「結婚式が目前だったのに……夢だった結婚式が……目前だったんだ……なのに、なのに、こんな地獄に駆り出されたんだ」

 突然泣きじゃくった。

 そうだったんだ……結婚式が目の前に迫ってたんだ。何か悪いことしたな。そう思った。

 だがそんな心情とは対照的に、尾崎の憎しみが大きくなっていく。

 突然縄と手錠を解いた。

 と思うと、無理矢理立たせ、つま先を力一杯、腹にめり込ませた。

 苦悶なうなり声が尾崎を喜ばせた。尾崎はソフィーの腕をねじり上げ、人差し指をつまんだ。そして容赦なく、手の甲の方に向かって力を入れる。

 ぽきっと折れた。

 ソフィーは悲鳴を上げる。

 尾崎は最高にいい気分だった。彼にとってソフィーの悲鳴はマリファナやドラッグよりも飛べる。

 尾崎は渾身の一発を腹にぶちかました。更にもう一発今度は頬に向かって拳を打ち込んだ。ソフィーは勢い良く倒れた。

 尾崎は拳銃を抜き、倒れてるソフィーに馬乗りになり、顔に突きつける。

「どうだ?怖いか?俺はこんな怖い思いをしたんだ」

 口に無理矢理拳銃を押し込んだ。

 これでは喋れない。

「何か言い残すことは?」

 どうやら本気で殺す気でいるらしい。

「何だ?」

 拳銃を抜いた。

「や……やめて……お願い」

 尾崎はソフィーを軽々と持ち上げ、壁に叩きつけた。もはや呻き声すら出ない。

 全身の痛みに耐えるのがやっとで、尾崎の存在する忘れかける。

 無理な方向の負荷に、右腕の関節が曲がらないほうに曲がっていた。

「もう終わりだ」

 尾崎は拳銃でソフィーの後頭部を殴る。激痛。次の瞬間には意識は朦朧とする。

 尾崎は部屋の隅に置いてあった小銃を取り、至近距離でソフィーに向ける。

「何か言い残すことは?」

 目を見た。本気の殺意だ。命乞いも無駄だ。だから皮肉を込めて言った。

「さ、さすがは日本人………太平洋戦争の帝国軍人の名残は……残ってるみたいね……」

「何だと?くたばれ」

 その時だった。

 地下室の扉が壊れた。

 その人物は――信一だった。

 2人はすぐに銃を向け合った。

「お前、何者だ!」

「お前こそ、か弱い女の子を痛めつけるのは下劣な行為だ」

「こいつが女の子?化け物だぞ!」

 2人は中々引き金を引かない。

 だが、今度は床に何か落ちた。柵だった。エアダクトから誰かが降りてきた。

 真人、真希、立花、奈々子だった。

「ここはどこだ?」

「と言うより誰かが居るよ?」

「ソフィーに信一さん、後知らない自衛隊さん」

「酷い、かなり重傷だぞ」

 尾崎が真人達に気を取られている隙に、信一が駆け出した。はっと尾崎が振り返り、銃を向けるが、信一は素早く銃口を掴み、逸らす。そしてもみ合いになる。経験の差だったのか、尾崎は信一には敵わなかった。信一は尾崎の鼻面に一発お見舞いした。尾崎はあっさりと気絶した。

 尾崎はすぐにソフィーに駆けつけた。

「大丈夫か、ヴェルネちゃん?」

「だ、大丈夫です……」

「脱臼してる」

 信一は脱臼した腕を押さえた。

「これを噛め」

 そう言って近くにあった本を噛ませる。

「一瞬ですむからな?」

 信一は抜けた腕を、強引に関節に入れ込んだ。

 凄まじい痛みにソフィーは悲鳴を上げたが、ようやく堪えた。

「動くか?」 

 指を動かす。痛みは残っているが、動かないわけではない。

「よし、安心した」

 信一はソフィーを抱え、地下室から出た。真人達も着いていった。

「糞、正面にも自衛隊が2人いやがる」

 外を見て信一は言った。

「どうやって出るか?」

 その時、階段の横にある扉が開いた。下水道に通じる入り口から、森田、須田、猫野が現れた。

「これはこれは皆さん」

 信一は誰だと言う顔をしたが、まあいいと頷いた。

「外の自衛隊をどう片付けるか……」

「あの…」と立花が自信なさげに言った。

「何だ?」

「実は窓から見たんですが、この建物の裏側に遠征用のマイクロバスがありました」

「本当か?」

「あ、はい」

「お手柄だぞ!」

 早速1階の部屋のドアを壊し、ベランダから外を見た。

「本当にあるな」

 だが、周りにフェンスが張られていた。

「どうします?」

「そうだな…」

 突然足音がした。

 全員振り返る。それはSATの技術支援班だった大角だった。

「大角!てっきり病院へ」

「俺はここで扉の破壊を試していました。隊長達が辿り着いたらヘリで迎えに来るそうです」

「必要は無い」

「はい?」

「いいか、マイクロバスが見えるな」

「はい、見えます」

「俺たちはあのバスを頂く。始動できるな?」

「任せてください!」

 信一は真人達に振り返る。ソフィーをゆっくりと降ろし、言った。

「俺達はバスを始動させにいく。エンジンが掛かったら全員すぐに来いよ」

 全員頷く。

 信一は真希を指差す。

「君はこの子を頼む」

「任せてください」

 2人はベランダから外に出て、マイクロバスに乗り込んだ。

 長そうで短い沈黙が続く。

 エンジンが掛かった。

 全員すぐにマイクロバスに向かった。

 真希はソフィーをゆっくり立たせ、優しく囁いた。

「大丈夫、もう安心だよ」

「し……信二君は?」

「一緒じゃなかったの?」

「彼はどこ……」

 真希は不安げな顔をした。

「きっと大丈夫」

 そう言って背負い込み、バスに向かった。

 バスに入ると、すぐに扉を閉め、後部座席にソフィーを寝かせた。

 バスが発進し、フェンスを破って道路に出た。

「さすが技術支援班!見事な腕前だ!」と信一。

「いえ、朝飯前です」と運転中の大角。

 全員席に座って一安心――だったが、信一がサイドミラーで後ろを見た。

「まずいな」

「どうしました、先輩?」

 後部座席に座っていた真希が後ろを見る。

「ニャんて数……」

 ソフィーも顔を上げ、見た。

 後ろで数百人と思える数の感染者達がわめきながら走って追ってきていた。

 あれが歩く古典的なゾンビだったらいいが、彼等は命知らずの体当たりを仕掛け、窓から侵入しようとしていた。

「スピード上げられないのか!」

「これが限界です!」

 数人の感染者達がバスの屋根に乗ってきた。

「どうやって乗ってきたんだ!」

「ブレーキだ!」

 ブレーキが掛かり、屋根の感染者達が道路に落ちた。そして発進しようとした。

 だが、前からも数十人の感染者達がやって来て、マイクロバスを押し留めた。

「糞、連中が邪魔で進めない!」

「まずい!」

 バスは完全に囲まれていた。

 その時、バスが右側に傾いた。だがすぐに元に戻る。

 信一は手榴弾の様なものを取り出した。

「特殊閃光弾を使う!フラッシュするから目閉じろ!」

 窓を開けて、ピンを抜き、前方に投げた。

 激しい閃光と爆音がした。感染者達の視覚と聴覚が無力化した。

「今だ!」

「了解!」

 バスが前に進んだ。大勢の感染者を跳ね飛ばしながら。

 感染者の群れから脱出できたが、新たな感染者の群れが現れた。

 その軍勢は一斉の体当たりを仕掛けた。バスは左側に傾き、横転した。

 全員叩きつけられた。

 感染者達が横転しているバスに登り、窓を割ろうとしている。

 信一は割れた左側の窓の1つ1つ出口が無いか確認した。

 正面の窓からも感染者が入り込もうと叩いていた。

 真希は頭を叩きながら、見た。

「マンホールがある!」

 信一が駆け寄った。

「糞、溶接されてる!大角!散弾銃をよこせ!」

 運転席から脱出した大角は散弾銃を投げ渡した。

 信一はマンホールに向かって散弾銃を連射する。

 マンホールは人が通れるほどの穴が開いた。

「1人ずつ降りろ!」

「レディーファーストだ」真人は笑いながら言った。

 まずは立花から降りた。次に猫野、森田が降りた。

 が、バスの後部座席の窓を割って感染者達が入ってきた。須田は弓で次々と感染者の頭を射抜いた。

 真希はソフィーを引きずった。

「ごめんね!急いでるんだ!」

 真希はソフィーを抱え、叫んだ。

「下の男子共!女子を落とすから受け取って!」

「「来い!!」」

 ソフィーを落とす。下の男子達は見事に受け止めた。

 信一が小銃で次々と頭を撃ち抜く。

 が、正面の窓も割って感染者達が入ってきた。

「前は任せて!」

 大角はそう言いながら散弾銃を乱射する。

「真人!先に降りて!」と真希。

「レディーファースト」と真人。

「ええい!さっさとしろ!」と奈々子。

 真人は仕方なく降りた。

 奈々子も続こうとしたが、上の窓を割って感染者達が飛び降りて入ってきた。

 その1人が真希に掴みかかった。が、殴り倒した。

 真希は梯子を滑り降りた。奈々子も木刀で殴りながら、梯子を降りた。

「先輩!先に!」

「いや、お前からだ!

 信一はマンホールの前で撃ちながら叫んだ。

「早く!」

「先輩!あなたから!」

「すぐに来い!」

 信一は梯子をすべり降りた。

 大角も散弾銃を乱射しながらマンホールに寄るが、途中で弾が切れた。

「畜生!」

 扉を破るためのバッティングハンマーで感染者を殴りながら、マンホールに近づき、滑り降りた。

 そこは下水道だった。全員とにかく前に進んだ。

 感染者達も飛び降りて、下水道に進入し、追いかけてきた。

 全員振り返らず、とにかく走った。

 すると、壁側に鉄製の扉が見えた。

 信一は扉を開け、全員が中に入るのを待った。全員が入ると、扉を閉め、鍵を掛けた。

 そこは上がり階段だった。

 長い階段を上がり、再び扉が見えた。

 扉を開け、長い廊下を進み、出た先は、広場だった。

「ここは?」と大角が聞くと、「ショッピングモールだな」と信一が答える。

 すると、エスカレーターから迷彩服を着た男が狙撃銃を構えながら降りてきた。

「どうやら自衛隊が居るらしい」

 信一は小銃、大角は拳銃を構える。

「待って、あれは直人さん!」真希は叫ぶ。

「知り合いか?」

「味方だよ」

 直人が狙撃銃を下ろした。

「感染者は居ないみたいだな!」と直人。

「そうだ、状況は!」と信一。

「ここはショッピングモール!出入り口は全部強化ガラス&封鎖した!裏口はトラックで塞いだ!モール内の感染者は全員殺した!」

「随分と行動力があるな!」

「『ある映画』のおかげさ!ゾンビファンなら誰でも知ってる不屈の名作!」

「情報は!」

「俺の親友がヘリで助けにくるそうだ!全員乗せてくれる!」

「奇遇だな、俺の仲間も無線で現在位置を教えれば、助けに来てくれる!」

 直人は狙撃銃を抱えながら、近寄ってきた。

「残りの生存者は警備室に居る」

「医療具は?」

「あるが?」

「怪我人がいる」

「手当てしてやるよ」

 2人は硬く握手した。

「俺は直人、見ての通り捨てられた軍人だ」

「俺は信一、SATだ」

 


 

  

更新が遅れました!引っ越したものですぐにパソコンが使えない状態でした!

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