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感染者の沈黙  作者: 原案・文章:岡田健八郎 キャラクターアイディア:岡田健八郎の兄 
感染
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感染

 猫野はとある小学校の校庭にいた。

 校庭にはテントが張られ、警察達が何かの会議をしている。校庭は閉められ、制服警官が警備をしている。市民は校庭で集まるか、校内で休むか。

 改めて知ったが、東京の中でも感染者が少ない地域があるそうだ。渋谷は壊滅的だが。

 ここは比較的感染者が少ない地域だ。森田はまだ下水道にいる仲間を呼びに、須田は飲み物を取りに向かった。

 しかし、別れた仲間は無事だろうか?まさか感染したんじゃないか?

 突然誰か叫んだ。

「最新情報だ」

 全員耳をすませる。男がラジオのスピーカーをマイクに近づける。

『…による発表がありました。避難や警察署の脱出ヘリに遅れた市民は近くの安全な小中高等学校に避難をするように。自衛隊の脱出ヘリが向かい模様。なお、東京の暴徒は増える一方で、また全国で東京解放を求めるデモが発生。当局では東京に関する情報提供者を求めてます。どんな些細な情報でも構いません…』

 猫野は情報提供を考えたが、考え直せば、電話は愚か、PCもファックスも手紙も使えない状態だ。情報提供は無理だった。提供したいもんだと猫野は考える。狂犬病に類似した感染症が東京に蔓延、感染者は狂暴化し非感染者を襲う。これを聞いたら腰を抜かすだろうな。

「何だよ!これだけか!」

 何処かの不良が叫ぶ。

「まったく、最近の政治はなっとらん!」

老人も叫ぶ。

「あの連中は何なのさ!変な叫び声をあげたと思うと、襲ってくるしさ、ワケわかんない!」

 未知のウィルスに感染した哀れな連中だと言ってやろうかな。信じないだろうが。

 須田が紙コップを持って来た。

「ココアだけど、大丈夫か?」

「今はココアでもありがたい」

 ココアを飲む。

「まさか非現実な出来事が起こるなんてな」

「核戦争で滅ぶよりましだ」

「こんなことなら、ハワイ旅行にいけばよかったな」

「ハワイか、俺はグアムだな」

 然り気無い会話だが今はありがたい。感染者の相手をするよりはましだ。



 聖夜は警備車から降りて、近くの建物に駆け寄った。

 ズボンを脱ぎ、尿を排出する。

「あ~気持ちいいぃ」尿の排出こそ快楽な瞬間だと聖夜は思った。

 ふと、上を見る。

 木に死体が吊るされていた。

 聖夜は木を蹴る。

 一滴の血が右目に入る。

「染みるぅ」

 その時だった。

 何かが頭に入り込む感じがした。

 僅かに頭痛を感じた。

 全身の熱が高くなるのを感じた。

 何がぷつりと切れた。


 綾瀬は外に出た聖夜の身を案じた。

「遅いな」と直人が言った。

「見てきます」と綾瀬は外に出る。

 建物の横に聖夜がいた。

「何してるの?皆待ってるよ」

 聖夜が振り向く。

 何かが顔から垂れた。鼻血だった。鼻血が流れる。

 聖夜の目が狂ったように充血していく。狂気を宿した目で綾瀬を睨む。

「に、逃げろ!」

「えっ?」

 聖夜が頭を抱え込む。よだれを垂らし、泣き叫び狂った野獣のように壁に頭を叩く。

 綾瀬は悟った。彼は感染してしまった。

 感染した聖夜の両目から血がながる。涙のように。人間とは思えない獣の唸り声が響き渡る。吐血する。

 蛸田が来た。

「お前、どうした」

聖夜に駆け寄る。

「行っちゃ駄目!」

 綾瀬がすぐに叫ぶ。

 蛸田が振り返る。

「なぜ?」

 聖夜が蛸田を見る。

 両目の瞳が狂気と殺意を宿し、真っ赤に染まっていた。

 人間とはかけ離れた奇声を発しながら蛸田に走る。

 蛸田が気付く頃には彼の首筋に噛み付いていた。

 そして食い千切る。赤とも黒とも言えない血を噴き出しながら蛸田は倒れる。

 綾瀬は吐き気と恐怖に襲われる。

 聖夜が綾瀬に振り向く。

「止めて!聖夜君」綾瀬は聖夜にまだ理性が残っていることを願った。

 現実は酷く残酷だった。

 聖夜は奇声を発する。理性は完全にウィルスによって破壊された。

 直人が来る。

「聖夜君…感染してしまったか」

 小銃で聖夜の頭を撃ち抜く。

 聖夜は血と脳を撒き散らしながら、倒れる。

 同時に何百の感染者が走ってきた。

 二人は急いで警備車に乗り込む。

「東京ドームに向かうぞ!」

 警備車を走らせる。

 感染者が警備車に体当たりをする。

 直人は東京ドームに目掛けてアクセルを踏む。

 感染者が体当たりし続ける。

 直人は東京ドームを目指す。そこで親友がヘリコプターで待機してるはずだった。

 


 猫野が立ち上がる。

「須田、下水道に戻るぞ」

「なぜ?」

「警察署での出来事を覚えてるか?」

「……ああ……」

「きっと同じことが起きるぞ」

「ここに居る連中には教えるか?」

「いや、きっと信じないだろう」

「…だろうな」

「下水道で仲間を待つんだ」

「仕方ないな」

 二人は下水道に向かう。

 建物外のマンホールは溶接されているが、内は溶接されていない。

 二人は下水道に入る。

 仲間を探しに。


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