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感染者の沈黙  作者: 原案・文章:岡田健八郎 キャラクターアイディア:岡田健八郎の兄 
感染
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犠牲

信二たちは慎重に通路を進んだが、目の前に鉄製の扉があった。

「全員、ここで止まって」

 信二は扉を開けた。

 そこは何も無い広い空間だった。

 だが、部屋の中心の天井に何かがぶら下がっていた。

 それは壁に潰された吉川だった。

 全身の骨と筋肉、内臓が押し潰され、まるで汚い雑巾のような形状をしていた。頭部は髪の毛と血でぐちゃぐちゃになっており、かつての面影は文字通り無かった。

 信二は慎重に部屋の奥の扉に向かった。

 鉄製の扉を引っ張ったり、押したりしたが、開かなかった。

 ため息を漏らし、引いてみると、開いた。

 これも吉川の失敗だ。

 この扉は引き戸だった。彼にも助かるチャンスがあった。

「よし、入って来い」

 全員が部屋の中に入り、吉川の潰された死体を避けながら、部屋を出た。

 そして部屋を出た。

 今度はトンネルだった。

「よし行こう」

 そう言った瞬間だった。

 突然、奇声が聞こえた。

 来た道を振り返る。

 大勢の、赤目の感染者が、走ってきた。

「逃げろ!」

 叫ぶと同時に引き戸を閉める。

 だが足止め程度だろうと思った。

 感染者が扉を叩いていた。

 信二達は走り続ける。

 だが、扉が壊れる音がした。

 信二は走ろうとしたが、靴紐が切れた。



 五右衛門は警戒しながら走った。

 だが、ある音で止まった。

 床を金属で引きずる音だ。

 五右衛門は振り返る。

 そこには、大勢の虫を引き連れた王―ベルゼブブが居た。相変わらず逞しい歴戦戦士の様な体つきをしている。右手の大鉈を引きずりながら、ベルゼブブはやって来た。

「まずいな」と猫田。

「あいつは不死身だぞ、どうする?」と須田。

「ほっとけばいいさ」と奈々子。

「俺は逃げるぜ」と森田。

 五右衛門は右手に握っている日本刀を見つめた。

「主らは先に行け」

 五右衛門は冷静に言った。

「くくく、どういう意味だ?」

「わっちを置いて先に行けと言っているのだ。主らだけでも先に行け」

 奈々子が抵抗感を覚えた。

「だが……」

「奴はできる、わっちが時間稼ぎをする」

 全員五右衛門を見つめた。

「さあ、行け!」

 奈々子を除いて、全員走り出した。

「必ず……生き残れよ」

「わっちを誰だと思っている?剣道部主将の五右衛門だ」

 奈々子は笑みを見せ、走り出した。

 五右衛門は上半身を脱ぎ、刀をゆっくり抜いた。

 そして、構える。

「わっちは五右衛門、主は?」

 大勢の虫達が襲いかかろうとしたが、ベルゼブブが止めた。

 自分の獲物は自分で仕留める意気込みらしい。

 ベルゼブブはゆっくりと近寄る。

 ベルゼブブが大鉈を振り上げ、五右衛門を真っ二つに切り裂こうと振り下ろした。

 五右衛門はそれを避け、横腹を切り裂こうとした。

 だが、筋肉が硬すぎたのか、皮膚しか切り裂けなかった。

 ベルゼブブは左手で五右衛門の頭を掴み、壁に投げつけた。

 五右衛門は背中を強打し、床に落ちた。

「…硬いな…」

 ゆっくりと立ち上がり、再び刀を構えた。

 ベルゼブブが再び振り落としてきた。

 五右衛門は刀で受けた。

 が、あまりの衝撃に右膝を床につかせ、必死に押さえた。

 ベルゼブブは大鉈を戻したと思うと、今度は右足で蹴り付けた。

 再び壁に強打した。

 ベルゼブブは止めだとばかりに、大鉈で突いてきた。

 五右衛門はそれを避けた。

 大鉈は壁に突き刺さり、抜けなくなった。

 五右衛門は待ってましたと叫び、ベルゼブブの左腕を全身全霊の力を込めて切りつけた。

 左腕が半分切れたが、ベルゼブブが右拳で五右衛門の腹部を殴りつけた。

 そして大鉈を抜いた。

 五右衛門は刀を構える。

「さあ、最後にしよう」

 五右衛門はベルゼブブに向かって走った。

 ベルゼブブは大鉈を振り回した。

 気づけば、五右衛門とベルゼブブは背中を向き合わせていた。

 五右衛門は深呼吸する。

 ベルゼブブがゆっくりと振り返る。

 だが、突然大鉈を落とした。

 首から上が、落ちた。

 ベルゼブブの体も膝をつき、やがては倒れる。

 五右衛門は刀を納めた。

 が、腹部に違和感を感じた。 

 腹部が半分切り裂かれていた。傷口から熱い血がどくどくと流れ出る。

「もはや……後顧の…憂いなし…」

 五右衛門は倒れこんだ。

「もうすぐあえるな………」



 真人が何かを思ったか、突然止まった。

「どうした!」

 信二が振り返る。

 真人は決心したように、一息つく。

「俺が時間を稼ぐ。いや、連中を全員倒してやるよ」

「駄目だ!逃げるぞ!」

「俺が剣道部に居た頃は、五右衛門よりも強かったぜ」

 信二は何かを思った。

「…選択はお前次第だ」

 信二は弾が1発の拳銃を渡した。

「もし……感染したら、お前自身がけじめをつけろ」

「ああ、ありがたく使わせて頂くぜ」

 拳銃を腰に収めた。

 信二と真人は強く握手をした。

「無理はするな」

「しないさ」

 信二は走り出す。

「ちょッ…信二君!」

 ソフィーも信二を追った。

 立花は何か言いたかったが、何も言わずに去った。

 真希は眼鏡を掛けなおした。

「へえ、逃げ足真人が自分から困難に立ち向かうなんて、どういう風の吹き回し?」

「ちゅっと英雄になりたいと思ってな」

「ふ~ん」

「ここは俺に任せて先に行け!」

「……絶対に戻ってきてね」

「なあに、すぐに戻るさ」

 真希も走り出す。

 真人は警察署から頂いた散弾銃を構えた。

 大勢の感染者が奇声を発しながら走ってきた。

「かかって来いやッ!!」

 真人が散弾銃をぶっ放す。

 感染者が次々と吹き飛ばす。

 1人の感染者が噛み付こうとした。

 真人は銃口で殴り、口に突っ込んで引き金を引く。

 感染者の頭部が吹き飛ぶと同時に、散弾銃の弾が切れた。

 今度は短機関銃を構えた。

「この程度か!」

 短機関銃を乱射する。

 大勢の感染者が踊っているように体を揺らす。

 短機関銃の弾が切れた。

 今度は自動拳銃2丁を構えた。

「俺のダチに手出しはさせないぞ!このクソッタレどもが!!」

 感染者の頭部を正確に次々と撃ち抜いた。

 感染者達が次々と倒れる。

 こんなの朝飯前だよと真人は思った。

 2つの拳銃の弾が切れたが、すぐに装填した。

 近くに廃車があった。

 真人は廃車の上に立った。

「おい!ここに最高の東京産高級安藤肉があッるぞ!主食に如何かな!」

 拳銃で正確に頭を撃ち抜いた。

 感染者達は廃車に乗っかろうとするが、撃ち殺される。

 拳銃の弾が切れた。

 真人は鉈を抜き、感染者の首を切り始めた。

 感染者はもう数えられるほどの人数しか残っていない。

 1人の感染者が走ってきた。感染者の金的を蹴り上げ、首を鉈で切り裂いた。

 最後の感染者が走ってきた。

 感染者の腹部に鉈を刺し、抜くと同時に首を切り落とした。

 感染者は全滅した。

「ま、こんなものだ」

 ふと、パイプで出来た壁の向こうに何かがあることに気づいた。

 小さなカセットレコーダーだ。

 信二に渡さなければいけないものが戦いの最中にポケットから落ちたんだ。

「おっと、いけね」

 真人は左腕を伸ばし、パイプの向こうのカセットを取ろうとした。

「あと少し」

 取れた。

 だが、何かに腕をつかまれた。

 感染者だった。

 感染者が真人の左手首に噛み付いた。

 真人は叫び声を上げる。

 すぐに、自分の左肘と左肩の中心の腕を鉈で切った。

 皮と筋肉は切れたが、骨は切れなかった。

 再び鉈を振り下ろす。

 今度は骨も切れた。

 すぐに左腕を切り落とした。

 感染者が左腕を銜えながら、真人にむいた。

 真人は信二から貰った回転式拳銃を構える。

「くたばれ!」

 拳銃が火を噴き、感染者の頭部が炸裂し、血と脳みそが飛び散る。

 真人は右手で自分の左手を引っ張った。

 左手はしっかりとカセットレコーダーを握っていた。

 だが、傷口から大量の血が流れ出る。

 その都度、意識が薄れていく。

 近くのパイプを見た。

 蒸気が出ている―熱い証拠だ。

 よく映画で熱い鉄板を押し付けて、止血するシーンがある。

 真人は切り落とした左腕の傷口をパイプに向けた。

「よし行くぞ!いや、大丈夫か?」

 きっとかなりの苦痛が待っている。本当に大丈夫か?

 だが考えても仕方が無い。

 真人は傷口をパイプに押し付ける。

 じゅわ~と傷口が焼け、切り落としたときとは別物の苦痛を感じた。

 真人は悲鳴を上げてしまう。

 だが押し続けた。

 そして離す。

 しっかりと止血が出来ていた。

「よか・・・・・た」

 意識が薄れた。

 床に倒れこむ。

 出血量が多かったのか?寒気も感じた。

 ああそうか、死ぬのか。

 不思議だった。

 恐怖は感じない。

 痛みも消えていく。

「癌を克服する方法……結局何だったんだ……?」

 ありがたいことに、母親は葬式のために故郷に、姉は修学旅行に、父は海外に居た。

 東京に居る間は家族の心配など必要なかったが、いざ死ぬとなると、会いたくなるもんだ。

 段々と思考力が低下していく。

 気づくまもなく、目の前に闇が広まる。

 俺は死ぬのか

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