感染地との通路
「班長!階段です!」
SAT隊員の1人がそう叫んだ。
確かに上がり階段があった。
信一は階段を上がりたかったが、あいにく狭い階段の入り口を金網が塞いでいる。
階段そのものを覆うように金網があった。
入り口の金網は、扉状に開閉できるようになっているが、今は鎖が錠前で閉じられている。早速、巨大なペンチを持った技術支援班の隊員が進み出てきて鎖を切断し、通行可能にした。
先陣の若い隊員が、慎重に階段を上がる。
2人の隊員が後に続く。
短機関銃を持った3人の隊員が金網に入った。
その時だった。金網が信一達の前で閉じた。
同時に階段の上に居た何かが先頭の隊員に飛び掛った。
“黒目の感染者”だった。
2人の隊員が感染者を撃ち殺そうとしたが――そして――スパーク!
映画のように派手に火花が飛び散り、金網に接していた2人の隊員が感電して動かなくなった。
水谷が慌てて感染者の頭部を撃つ抜いた。
隊員は感染者をどかせた。
班長の水谷はさすがだと感心してしまうほど冷静だった。部下達の犠牲を無駄にしないように、89式小銃で金網を触れる。
電気はもう通っていない。
扉を開け、残りの隊員を急いで通らせる。
「制圧1班より指揮班へ、2名の隊員が負傷!」
『救急班を要請した、出口はあったか』
「階段があった」
報告を終えた隊員も階段を上がる。
そこは、どこかのアパートに1階だった。
信一が扉で閉まっている正面玄関から外を見た。
「どうやらここは東京らしい」
全員驚いた顔をした。が、すぐに真剣な顔に戻る。
その時だった。
階段の入り口が閉まった。
鉄製の扉がそこにあった。
隊員が慌てて扉のノブを探したが、ノブは存在していない。鉄の扉を押したが開かない。
今度は持ち上げようとしたが、やはり駄目だった。
「開きません」
隊員は丁寧に水谷に報告した。
信一は隊員の数を確認した。5人だった。さっき2人感電して行動不能になったのは痛い。
水谷は再び報告した。
「地下に東京都を繋ぐ通路があった」
『本当か?直ちに塞がなくては』
「必要ない」
『どういう意味だ』
「通路が自動的に塞がった。よく言えば封鎖する手間が省けた。悪く言えば俺達は東京から出られない」
『東京に居るのか!なんてこった……こちらで何か方法を考えよう』
「了解、それまでゆっくりと待とうか」
信一は内心悪態ついた。
隊員の確認をした。自分を含め、全員マスクを着用しているが、目を見れば見当がつく。
班長の水谷。
若い隊員の伊川
がっしりとした体系の郷田
技術支援班の大角
これはこれはありがたい戦力だ。
そう思ったとき、上から物音がした。
全員上を見た。
「安全を確保しよう」
水谷はそう言って階段を上がった。
全員後に続いた。信一は最後尾だ。
音がしたのは最上階のはずだった。
全員最上階に着いた。
扉は既に壊れていたから、壊す手間が省けた。
全員慎重に中に入った。
部屋は科学者が住んでいたかのように、大量の薬品や実験用具やらがあった。
「お前は入り口を見張ってろ」
水谷は伊川を指名して、入り口に立たせ、残りは部屋の奥に向かった。
部屋の奥に人の気配がした。
全員銃を構えて部屋の奥に向かった。
そこには――3人の自衛隊員と1人の白衣姿の男が居た。
4人はファイルに夢中でこっちに気づいていなかった。
「動くなっ!全員腕を上げろ!」
郷田が大声で叫んだ。3人の自衛隊員が気づき、89式小銃を構えた。水谷は銃を下ろした。
「俺達はSATだ。危害は加えない」
自衛隊員の隊長と思われる人物が銃を下ろした。
「俺は石倉洋、階級は准陸尉」
「俺は水谷達也、見ての通りSATだ」
水谷はゆっくりと近寄った。
「SATがここで何をしてる?」
「地下通路でここに迷い込んだ。お前達こそ、撤退したんじゃないのか?」
「資料や保菌者を探している」
白衣の男――坂本良治が言った。石倉は慌てて良治の口を閉じた。
ははん、そういうことか。
「とにかく、俺達は最重要人物を探している」
信一は部屋を出ようとした。
「どこに行く?」水谷が聞いた。
「俺達はSATだ、自衛隊じゃない。連中の作戦に協力する命令は下ってないし、する気も無い」
郷田もそうだとばかりに頷き、信一に続いた。大角は迷っていた。
「部下がこう言ってるから、すまないが俺達は協力する気は無い」
「構わないさ、俺もやる気は無いが命令は命令だ、逆らう気は無い」
そう言っている間にも、良治は資料をバッグに詰めていた。
水谷は信一を追い抜き、聞いた。
「あの態度は何だ?」
「俺は上司に従う性格じゃないんでね」
「そういうもんか?」
「それより、これからどうする?」
水谷は腕を前に組んで真剣に考えた。
「爆弾でも壊せない扉が2つもある。待つより行動だ」
「つまり?」
「病院に患者を運ぶためのヘリコプターがあるはずだ、それを頂く」
「それ名案」
「からかってるのか?」
「い~や」
出口に出たとき、水谷が叫んだ。
「伊川はどこだ!」
信一は下を見た。
「落ちたんだ」
1階に伊川の死体があった。
「なぜ落ちたんだ!」
「俺の知ったこっちゃ無い」
信一は階段を下り始めた。
「制圧1班より指揮班へ、1名死亡」
『現状の戦力は?』
「4人、1人は技術支援班だ」
『まずいな』
「どうして?」
『自衛隊が東京内の感染率をシュミレーションで調査した。結果、3分の1は感染していると思われる』
「弾薬が持たないな」
『知っての通り救助ヘリは飛ばせない状況だ。今自衛隊に許可を求めているが、無効も中々譲らないもんだ』
「了解、こちらも脱出方法を考える」
信一は今の会話を下から聞いていた。
まずいなと内心思った。
1階に辿り着くと、仲間の死体を近くの布で隠した。
が、何かを感じて振り向いた。
来た時とは反対の壁側に入り口があった。扉が無い。
信一はゆっくりと近づいた。
中は長い通路があった。
「班長殿、謎の通路があります!」
入り口の外側に他の仲間と水谷がやって来た。
「よく見つけたな」
「おてのもので……」
言い終える前に突然、入り口が閉まった。
シャッターを下ろすような感じで上から分厚い鉄製の扉が下りてきた。
そのせいで信一は仲間と別れてしまった。
最悪なことに無線機はどこかに置いて来てしまった。
「相沢、相沢返事しろ!」
扉の向こう側から水谷が叫んでいた。
「俺は無事だ!」信一も大声で返す。
「この扉は開きそうにも無い!」
「じゃあ、俺は先に進む、あんた達は先にヘリコプターでも確保してくれ!」
数秒間沈黙が続いた。
「了解、気をつけろ!」
信一は銃を構えて、先に進んだ。