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感染者の沈黙  作者: 原案・文章:岡田健八郎 キャラクターアイディア:岡田健八郎の兄 
感染
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脱出

 真人は急いで仲間を集めに警察署内を走り回った。

 ありがたいことに、信二のグループ、聖夜のグループ、今無き狐狩りリーダーのグループと自衛隊と元自衛隊が1階に集まっていた。

 真人はなるべく控えめな声で言った。

「全員、俺についてきてくれ」

 そう言うと、全員、疑問に思いながらも真人についていった。

 真人は武器庫の扉の前に立った。

「武器庫に来てどうする?」

 聖夜は胸の前に手を組んで言った。

「まあ、待ってくれ」

 真人は武器庫の鍵を使って扉を開けた。

 この鍵はもう必要ないようだ。 

 真人は捨てる。

 蛇谷が驚いた顔をした。

「お前、その鍵を何処で?」

 そんなことはおかまいなしで武器庫に入った。

 拳銃、散弾銃、短機関銃、色々あった。

 真人は大きな袋で手当たり次第の武器を袋に詰めた。

 信二が聞いた。

「そんなに焦ってどうした?」

「自衛隊が救助ヘリを警察署に飛ばしてるって知ってるか?」

 ソフィーは自衛隊という単語に拒否反応を起こしたように一瞬痙攣を起こす。

 信二以外は知っていたようだ。

「それがどうした?」と聖夜が聞いた。

「実際は救助ヘリじゃなくて輸送ヘリなんだ」

「輸送?何を輸送するんだ?」

「武装自衛隊員だ」

 綾瀬が頷く。「まあ武装してても違和感はないよ?外には感染者――」

「要点を言え」

 直人は鋭い声で言った。

「救助ってのは嘘で本当は生き残った市民を集めるためのデマだ」

「何のために?」

「いいか、政府と自衛隊は事実を隠蔽したがっている。政府からすれば危険なウィルスの存在を隠していたことが国民に知られるのを恐れている。知られれば政府の立場が危なくなる。自衛隊は市民を無差別発砲した事実が暴露されるのを恐れている」

「だから?」

「だからデマを流して市民を集めて“始末”するんだ」

 信二、ソフィー、立花、直人、以外は驚いた。

「ははは、冗談はきついぜ」

 聖夜は笑いながら言った。

「嘘だと思うなら信じなくてもいい。けど俺は始末されるのはごめんだ」

 真人は武器を詰めながら言った。

 真希も始めは半信半疑だったが、考えれば感染が始まった後、自分のお隣さんである主婦とその息子が殺された。信じられないがありえる。

 直人は自分の仲間である狙撃手達が上層部の命令で市民を無差別発砲したことをついさっきまでのように覚えている。

 ソフィーは自衛隊員に何度も捕まりそうになった。

 信二は自分の父の性格をよく知っている。基本家族には優しいが、任務達成には手段を選ばない非道な性格だ。今回も機密維持の為に冷酷な判断をするだろう。たぶんな。

 立花はもはや何が起きてもおかしくないと考えている。

 故にこの5人は真人の話を真に受けた。

 それでも蛇谷以外の仲間は今だ信じられずに居る。

 だが真人の話を裏付ける決定的な出来事が次に起きた。

 無線から自衛隊の会話が聞こえた。

『これより真紅計画コードレッドを再開と上層部から伝達があった。これから機密維持作戦に入る』

『情報は?』

『テレビやラジオで流している』

『封じ込め作戦は?』

『全ての検問を封鎖した。唯一の検問は高速道路だ』

『後は情報を信じて集まってくる市民をしま………』

『周波数を変えろ』

 以後、無線から雑音しか聞こえなくなる。

 全員殴られたような顔をした。

 無線から“殺す”や“始末”などの単語は出てこなかったが、“しま”という惜しいところまでは聞こえた。

 蛇谷は決心した顔をした。

「真実を、皆に伝えなくては」

 そう言って他の生存者に真実を伝えに向かった。

 今や全員が武器を集めるのに手伝っている。

 ありったけの武器を集め終え、全員が真人に聞く。

「出るときはどうする?」

「出るのは今のうちだぜ。今は感染者は襲ってこない」

「その根拠は?」

「…とにかく信じて」

 武器を出来るだけ袋に詰めたら、真人は言った。

「駐車場にある装甲車で脱出しよう」

 そう言ってポケットから装甲車の鍵を出し、直人に投げた。

 直人は見事にキャッチする。

「これをどこで?」

「気にしないで」

 信二は茜を連れに1階に向かった。

 茜の隣に誰かが寝ている。

 亜矢子と言う少女だった。

 仕方ないと信二は茜を背負い、亜矢子を抱えた。

 誰かが近寄った。

「あの、娘を連れてどこに?」

 信二は振り返る。

 亜矢子の母親だった。

「警察署から出るんです。自衛隊の情報がデマだと無線で判明しまして、よかったらご一緒に」

「いいえ、娘だけを連れてください。私は」

 そう言って自分の右腕を見せた。

 噛まれた傷が痛々しくあった。

「噛まれたのですか?」

「はい、頭痛が起きてきたんでそろそろ発症するのではないかと思って」

 そして一礼した。

「娘をお願いします」

「あなたは?」

「あなた達の出発を見届けた後、分かりますよね?」

 信二は頷く。

 蛇谷が近寄った。

「駄目だ、誰も信用しない」

「仕方ないですよ、それが彼らの“選択”ですから」

「選択?」

「彼らが選んだ道です。選んだ道は何があろうと自己責任だ」

 信二はそう言って駐車場に向かった。

 駐車場ではパトカーが並んでいる。

 よく映画で見かける特殊部隊を輸送する装甲車があった。銃器対策警備車と呼ばれている。

 全員既に乗っていた。

 信二と蛇谷は急いで警備車に乗る。

 直人がエンジンを掛け、警備車を出発させる。

 地下駐車場の入り口が閉まっていた。

 だがお構いなしに猛スピードでシャッターを破壊し、警察署から出た。

 全員一安心した。

 上空でヘリコプターが警察署に向かっているのを確認した。

 直人は車を止める。

 そして様子を見た。



 若い自衛隊員がブラックホークに乗っていた。

 落ち着かず、そわそわしている。

「落ち着け」

 隣に居た自衛隊員に肩を叩かれる。

「せ、先輩」

「俺だってやりたかないさ」

 ブラックホークが警察署の屋上で着陸した。

 武装した7人の自衛隊員がブラックホークを降りた。

 1人が拡声器で呼びかけを始めた。

「こちら陸上自衛隊です、署内に居る市民はただちに屋上に来てください」

 瞬時に大勢の市民がやって来た。

「やった、助けがきたぞ!」

「あいつの話は嘘なんだ!」

「これで東京から出られるぞ!」

 自衛隊員の隊長がやって来た。

「ここの責任者は?」

「いませんが」

「警察は?」

「あまり居ません」

 そう言うなり突然銃を向けた。

「な、何を!」

「これから検査を始める。感染した人間は乗せられない」

「壁に並べ!」

 銃を恐れた市民が壁に並ぶ。

「いくつか質問します、正直にお答えを。感染者と接触した人物は?」

「感染者?」

「狂暴な連中です」

 全員渋々手を上げる。

「感染者の血液や唾液が口に入った人は?」

 誰も手を上げない。

 隊長は頷く。

「射撃用意!」

 全員銃を構える。

「なっ!俺達を撃ち殺すのか!」

「我々の安全の為だ!」

 1人の自衛隊員がやって来た。

 市民1人1人の熱を測定した。

 そして隊長に報告する。

「全員平常値より若干高いです」

「撃て!」

 自衛隊員全員が戸惑いを見せたがすぐに撃った。

 89式小銃から放たれる弾丸が次々と市民に炸裂する。

 市民は次々と悟っていく。

 蛇谷の言っていたことが真実だと。

 気づけば市民は1人残らず撃ち殺されていた。

 火炎放射を持った自衛隊員が死体を焼き始める。

 1人の自衛隊員が隊長に聞く。

「なぜ撃つんです?火炎放射で焼いたほうが弾も時間も無駄にせずに済むのに」

「……せめてもの情だ……」

 ガスマスクのせいで表情が見えない。

 隊長はさらに言う。

「これは殺人行為だ。だが壁の外に居る市民のために、感染を広げないための小さな犠牲だ」

 死体が全て燃やされた。

「全て焼きました」

「よし撤退だ」

 全員ブラックホークに乗る。

 ブラックホークのプロペラが回る。

 ブラックホークが離陸する。



 信二達は確かに聞いた。

 銃声を

 悲鳴を

 真人の言っていたことは正しかった。

 市民が銃殺された。

 考えればブラックホークは市民を乗せるのに不十分なヘリだ。

 きっと他の警察署でも――ソウ思うと何ともいえない哀れみを感じた。

 直人はアクセルを踏む。

 

 

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