狐狩り
頭の中で目覚ましが鳴り響いたとき、真人はフランスのヌーベル美術館で美人のフランス人と一緒に楽しみながらレオナルド・ダ・ヴィンチの【モナ・リザ】を鑑賞している夢を見ていた。
彼はぱっとはね起き、目覚ましを止めた。そして時刻を見た。
「午前8時12分・・・まずい!遅刻する!」
真人は急いで制服に着替えた。顔を洗い、歯を磨き、駆け足で食卓に向かった。
「真人、朝ごはんは食パンと目玉焼きだから」真人の母は食器を洗いながら言った。
「時間が無いから今日は食べない!」真人の左頬に何か掠った。
包丁だった。母が包丁を投げた。「食べなさい・・・」
「は・・・はい」その答えに母は満足したのか、とびっきりの笑顔を見せた。
2階から誰かが降りてきた。「やばい!遅刻する!」
真人の姉の真佐子が来た。
真佐子は目玉焼きを食パンに乗っけてそれを持って、玄関へ向かった。
「じゃあ行って来ます!」朝食を食べながら高校へ向かった。
真人も食べながら登校することにした。
登校中真人は考え事をしていた。
「何か大切なことを忘れている気がする・・・」
思い出した瞬間、口に銜えていた食パンを落とした。
「取材作戦・・・考えるの忘れてた」
このままじゃ狐狩りに力を借りる事になってしまう。気が重い中、彼は登校した。
案の定、紀子は真人を待ち構えていた。
「真人君~何か考えた?」
「何も・・・」
「じゃあ、狐狩りの出番ね。第1校長室へ行きましょう」
「2人で?」
「護衛は雇ってるわよ」
「護衛?」
紀子の後ろに、五右衛門、奈々子、聖夜、真希、真斗、トリエンが居た。
「何でお前らが?」
「拙者らの・・・」
「弱みを・・・」
「握られちまって・・・」
「...断れ...」
「無いんだ・・・」
「ニャー♪」
そういうことですか・・・
真人と紀子と護衛たちは第1校長室に向かった。
「ねえ、やめようよ」トリエンはそう提案した。
「なぜ?」
「だって、職員達が恐れて乗っ取られた校長室を手放して第2校長室を建設するくらいの大物集団なんだよ?交渉がうまくいくわけがない」
「諦めてもいいけど、あなたの秘密を大暴露しようかな?」
トリエンは何か言いたかったがやめた。
第1校長室に着いた。扉に異様なオーラを感じられた。扉には狐のシルエットがプリントされた旗が貼り付けられていた。紀子はノックをして扉を開けようとした。室内から凄まじい殺意が感じられた。
紀子は唾を飲んで扉を開けた。
中に広がっていた光景は・・・!!
2人の男女が将棋をしていた。態度から見て男子が優勢だった。男子はガスマスクをしていた。
「う~~ん」女子はうなり声を上げていた。
「降参か?」
「まだだ!これでどうだ!」女子は角行を動かした。
「次で王手だ!」
ガスマスクをした男子は飛車を動かした。
「王手」
「ちょっと待て!?」
「将棋に待ては無しだ」
「ぐぐぐ・・・!」
女子はどこを動かしても王将を取られてしまう。「こ、降参だ!」
「じゃあ、今日の夕食はお前のおごりだ」
「ボス、お客だよ」
「入れろ」
真人達は校長室内に入れられた。
ボスと呼ばれる男は、校長席に堂々と座っていた。金髪のオールバック型の髪型をし、サングラスをかけた多少大柄の男だ。
「何のようだ?」ボスはいかにも悪役っぽい声で言った。
紀子はボスの存在感にも動じずに言った。「まず自己紹介をして」
「雑賀輝夫。札幌出身で超能力者だ」ガスマスクの男は呼吸音混じりの声で言った。
「ちなみにガスマスクは沖縄のアメリカ屋で買った」
「町内で最も腕のいい和弓手の須田恵子。どんな弓も扱える」女子は言った。素晴らしい肢体を持った長身の女子で、体にぴったりした制服は、深い谷間が除くほど大胆に、胸元が開いていた。スタイルなら真希は負けていない。この女子も巨乳のようだが、こちらは真希が若干勝っているな。
「私は新宿出身の蛸田宗助です。情報網なら私の得意分野です」この男はネクタイをつけて身だしなみもしっかりしている。顔はまあまあだな。「ちなみに私は英語とロシア語とフィリピン語が得意です」
「巨漢のシャーマン鳥山恭介。黒魔術を勉強している。皆からは鋼の獣と呼ばれている」
慎重は二メートル近くある大男だった。スキンヘッドだ。
「最後は私は猫田良太。尋問の専門家、銃の腕もたつ。大阪出身だ。ここでの生活に慣れちまって大阪弁が言えなくなった」夏なのにトレンチコートを着て、黒い手袋をしていた。
「夏なのにトレンチコート?」紀子は聞いた。
「トレンチではない。ダスターコートだ」
この男は長身のダスターを着て、長いブロンドの髪、中学生なのに顎鬚と長い口髭を生やしている。
「その髭は本物?」
「もちろん。発毛剤を長年使用していた。西部劇に憧れている」
「そして俺が狐狩り総督の液田井蛇尾だ。総督、総統、首謀者、あるいは総司令官と呼んでくれ」
ここで真人は悟った。幹部は全員サイヤ人の集団だ。
「妙な事は考えるな」蛇尾・・・ではなく総督は言った。
「ここに居る幹部全員、元番長だ」
向こうは総督を合わせて6人。真人達は8人。数では真人達が勝っていた。
「私達は交渉に来たの」
「交渉の前にお前たちも自己紹介しろ」猫田がそう言った。
「じゅ、ジュン・ヤ・トリエンです。ベトナム人です」
「俺は梶尾聖夜。サッカー部」
「拙者は波川五右衛門。剣道部」
「私は佐々木奈々子。同じく剣道部」
「私は坂本真希。生徒会長で帰宅部♪」
「私は...黒崎真斗...帰宅部」
「私は石川紀子。広報委員会」
真人も自己紹介しようと喋りかけたが、紀子が喋りだした。「彼は安藤真人。私の相棒で陸上部」
「広報委員会が何のようだ?まさか取材か?」
「違うわよ。あなた達を堂々取材する広報委員会が何処にいますか?」
猫田は総督に向いた。「総督、あれは嘘です!拷問しましょう!拷問許可を!」
「落ち着け。雑賀。どうだ?」
「彼女は嘘を言ってませんね」
「よく分かるわね」
「雑賀は読唇術と催眠術の達人だ。幼稚園の頃から修行してたらしい」
「広報委員の石川以外は全員彼女の護衛だ」雑賀は見事当てた。
鳥山は笑った。「はっはっは!面白い護衛だ。どう思う猫田?」
「くくく!面白い!ベトナム人は鬼畜な兵士だ?サッカー部は足技に自信があるかな?剣道部2人は侍かな?帰宅部2人は楽勝だな。陸上部は逃げ足がいいかな?」
「侮ってはいけない。剣道部2人はかなりの実力者です」
「本当か?蛸田?」
「間違えありません。特に男の方は町内大会、および県大会で何度も優勝しています」
「で、護衛をつれて何のようだ?」
「あなた達の力が借りたいの」
「我輩たちの?」
「ええ。もちろんタダとは言わない」
「はっはっは!俺達を傭兵か何かと勘違いしているのか?」
「くくく・・・面白い女だ。どう痛めつけようか?」
紀子は写真を出した。相沢信二の写真だ。「彼は【大羽中学校封鎖事件】の生存者かもしれないの。私はあの事件の真相が知りたいの」
総督は信二の写真をじっと見つめている。
「はっはっは!くだらん。引き受けるとでも?」
「くくく・・・馬鹿な女だ。どう痛めつけようか?」
紀子はため息をついた。「もし、あの事件の真実を知ったら、マスコミに売りつけられるわよ?ニュース番組に出れるかもよ?有名になれるかもよ?」
「はっはっは!俺達はすでに東京中で有名さ」
「くくく・・・アホな女だ」
総督は写真を返した。「悪いがあきらめてくれ」
真希は紀子の肩を叩いた。「仕方ないよ。あきらめて帰るニャ♪」
校長室内が静かになった。
「ニャ・・・ニャーだと?」
総督を除く全ての男子の口が一斉に開いた。「「「「萌え~!!」」」」
真人は耳を疑った。は?萌え?
「生徒会長様!どうかこれを!」雑賀は猫耳を渡した。
「付けてください!」
真希は猫耳を付けた。
「「「「さらに萌え!」」」」
「う、美しい・・・!」
「私の情報網でもこんなに可愛い女子は見つからなかった!」
「はっはっは!我らがアイドルが生まれた」
「くくく・・・素晴らしい!」
真人は呆れた。「アイドルなら、綾瀬マユが居るだろ?」
「あいつでは」
「どうも」
「しっくり」
「来ない」
男子全員真希を見た。
「だが、彼女は眼鏡キャラだし」
「ツインテールだが、首くらいの長さで、俺達好みの長さと髪型だし」
「スタイル良いし」
「巨乳だし、声可愛いし」
真人は呆れた。こいつらはオタクか・・・
須田は怒り出した。
「お前ら変態か!ボス、何か言ってください!」
「・・・萌え・・・」
「そうでしょ!ボス!」
「ここは一先ず!」
「引き受けましょう!総督」
「はっはっは!賛成だ!」
と言うわけで交渉が成立した。真希のおかげで。
「真希を連れて正解だったわね」紀子は上機嫌だ。
「まさかオタクだったとは」聖夜は珍しく面白いものを見た顔をしている。
「よく分からない連中だ」五右衛門も驚いている。
「びっくりしたわ」奈々子も驚いている。
「...世の中不思議...」真斗も驚いていた。
「ニャー♪」真希は超上機嫌だった。いまだに猫耳を付けている。
余談
―放課後―
「俺の名は、メガトロンだ!」総督はそう叫んだ。
「総督、やはりメガトロンではしっくりきませんね」
「ここでリクエストを聞こう」
「クライシス!」
「ボス!」
「魔王!」
「大魔神!」
「よし!俺は大魔神王クライシスボス!」
「「「「かっこいい!」」」」
「お前ら何やってんの?」
「暗号名を作っている」
「俺の名は究極の超能力者、雑賀輝夫」
「私は最高の情報屋、蛸田宗助」
「俺は巨漢のシャーマン、鳥山恭介」
「私は射撃と拷問の天才処刑人、猫田良太」
「そして!俺様は、最強、最凶、最狂、大魔神王、液田井蛇尾」
「須田、お前のも考えた」
「「「「お前は20世紀最強の征服者、須田恵子!」」」」
「・・・幼稚・・・ダサい・・・本当に中学生?」