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感染者の沈黙  作者: 原案・文章:岡田健八郎 キャラクターアイディア:岡田健八郎の兄 
感染
49/84

不良

 <液田井蛇尾の視点>

 何でこんなことに………

 頭の中で怒りと後悔が混雑している。とにかく、戻さなくては。

 俺達はある大きな家の様な物件の様な場所で身を潜めた。

 無論、感染者から身を守るためだ。

 この家は要塞だ。

 1階の窓は全て鉄格子が張られ、正面玄関は鉄製で出来ている。

 全員、2階の部屋で睡眠を取っている。

 吉川ってガキは……1階のトイレに居る。

 長いな……30分は経過してる。

 大便にしても長すぎる。便秘か?

 俺はトイレに向かった。

 ドアを開けたら――あいつは――マスを掻いてやがる!

「何やってるんだ?」

 知ってるが、意地悪く聞いた。

 吉川は慌ててズボンを上げ、とぼけた顔をした。

「何もやってないよ」

「皆生き残るのに必死なのに、お前はのんきにトイレで快楽を求めたのか?」

「ち、違うよ!」

 逆切れしやがった。

 俺は肩をすくめる。

「悲しいね、彼女の居ないお前は二次元の女性をオカズにあそこ圧迫して快感を覚える。哀れだ」

 こいつに限ったことじゃないが、この状況でやるなんて信じられない。

 こいつは怒った顔をした。

「不良はやらないのか!?」

「そういう問題じゃない。時と状況を考えろって意味だ」

「いいじゃないか」

「ここは100%安全じゃない。お前の身勝手な行動で仲間を危険にさわすことってありえる」

「もーいーし!俺外に出る」

「何?」

 俺は聞き返す。聞こえなかったわけじゃない。

「聞こえたろ?」

「いや、もう一度」

 俺は意地悪く言う。ああ、確かに俺は不良だ。ここは不良らしくするか。

「外に出る」

「なら出て行け!」

 俺の怒りが爆発する。

 そうさ、俺は短気だ。

 あいつは玄関に向かった。

 勝手にしろ!


 俺はすぐに後悔した。

 全員が睡眠を取っている間にも、俺はあいつと連絡を取った。

 だが回線が繋がらない。

 なぜだ?

 いや理由は分かっている。

 恐らく政府か何かが東京内の状況を漏らさないために回線を止めたんだ。

 なら、インターネットも使えないかもな。

 赤の他人に等しいとはいえ、今は仲間だ。優しくしてやれたのに……マスを掻くからだと腹を立てる自分が小さくなっていく気がする。

 蛸田がやって来た。

「ボス、あんたは睡眠を取ってませんね、寝たらどうです?」

 確かに眠気には勝てない。

「少し仮眠を取らせてもらうよ」

 俺は仮眠を取るつもりで階段を上がろうとしたが、目の前の鉄製の扉に気づいた。

 そう言えば、この部屋はまだ未確認だったな。

 俺はドアを開けようと押した。

 腕っ節に自信はあるが、これが中々開かない。

 俺は押しに押したがびくともしない。

 俺はやけくそになって、扉を引いた。

 あっさり開いた。

 ………引き戸なのね………

 俺は中を確認する。

 中には錆付いた階段が延々と下まで延びている。

 そして部屋の隅にバットがある。サボテンみたいに釘が沢山打ちつけられている。

 俺はバットを拾い上げた。

 だが、メモ用紙が落ちていた。

 俺は拾い上げ、読んだ。

 ”岡本紘輝の作品“

 誰だ?

 まあいい。こいつはありがたい。

 元々骨を折る威力のあるバットが釘を打ちつけることで殺傷力が上がった。

 俺は壁にかけている懐中電灯を取って階段を下った。

 下は闇の世界だが、懐中電灯の光のおかげで視界は確保できた。

 階段を下りきると、今度はトンネルが続く。

 俺はトンネルを通る。

 行けるだけ行こう。

 ついに行き止まりに来た。

 目の前には、大きな鉄の扉が微かに見える。

 引き戸だな。

 俺は力一杯引く。

 今度は明かりがついていた。

 そこは例えるなら広いバスルームだ。

 シャワー栓や便器は無いが、代わりに手術用の道具や怪しい薬品、大きな冷蔵庫、資料などがある。

 小さな秘密研究所の様な場所だな。

 俺は適当に資料を取る。

 そこには、アジア人風の少女の写真が無数に貼られている。

 どれも不自然だ。

 牙が生えていたり、目が赤かったり、まるで化け物だ。

 別の資料を見た。

 そこには逞しい巨漢の写真が張ってあった。

 体に無数の切り傷があった。

 

 被験者第1号

 被験者名:ジョン・ハドソン

 コードネーム:ベルゼブブ

 突然変異型


 ジョンハドソン?

 ベルゼブブ?

 突然変異?

 訳が分からない。

 別の資料も見た。

 そこには大きなゴキブリが写っていた。


 被験体:ゴキブリ

 症状:巨大化

 ベルゼブブと連携を取る。


 俺は台を見た。

 そこに新しいテープレコーダーがあった。

 隣に封筒に入れられた手紙がある。

 封筒には”相沢信二へ”と書かれていた。

 俺はテープレコーダーと手紙をポケットに突っ込み、この地下室から出ようとした。

 俺は何を考えたか、冷蔵庫を開けた。

 中には試験管や注射器が沢山置いてあった。

 1本の注射器を取った。

 ラベルには抑制剤と書かれている。

 一体何の抑制剤だ?

 俺はとりあえず注射器もポケットに突っ込んだ。

 俺は隣のテレビを見た。

 監視カメラの映像か?

 俺は画面に釘付けになった。

 画面は全員が睡眠を取っていた部屋の扉の廊下の映像が映っていた。

 扉は閉まっている。

 扉の前に誰かが居る。

 そいつはどこかの中学校の制服を着ていた。

 顔には何重にも巻かれた包帯があった。

 そして、扉をつるはしで破ろうとしていた………

 俺はすぐにこの部屋から出て、トンネルを走った。

 トンネルは来るときは気にならなかったが、なぜは今は長く感じる。

 トンネルを抜けた先に階段があった。

 俺は階段を上がった。

 頼む、間に合ってくれ!

 俺は廊下に出た。

 丁度、包帯少年がつるはしで扉を壊しているところだ。

「おい!変態野郎!」

 俺は思いっきり叫んだ。

 包帯野郎が振り向いてきた。

 そいつは感染者ではない、人間らしい奇声を発した。

 目は殺意に満ちて居たが、普通の目だ。

 つまり、こいつは発狂者クレイジーズか始めからいかれた野郎だ。

 俺はバットを構える。

 奴はつるはしを振り回しながら走ってきた。

 奴は俺の頭部目掛けてつるはしを振り下ろした。

 だが、伊達に不良の世界を生きた俺だ。

 鍛え上げた反射神経で避ける。

 つるはしは床に突き刺さる。

 俺はすかさず奴の頭部にストレートを食らわせる。

 反撃のチャンスを与える間も無く、俺は奴の腹部を左手で3発殴る。

 奴は一瞬悲鳴を上げた。

 我ながら惚れ惚れする動きだ。

 だが失敗だった。

 バットで殴れば一発で済んだ勝負だった。

 奴は俺に掴みかかった。

 俺は奴の右手を掴んで一本背負い投げを繰り出す。

 奴は床に叩きつけられた。

 俺はバットを構えた。

 これで決着が着く。

 そのはずだった。

 だが、奴は、飛んだ。

 気づいたらいつの間にか俺の後ろに居た。

 何て運動神経――――

 そう思った瞬間、奴は俺の頭を掴み、壁に叩きつけた。

 一体何回叩きつけたかは覚えてない。

 俺は脳震盪を起こした。

 奴がつるはしを持てば終わりだった。

 だが、運命は俺を味方してくれた。

 奴の腹部に何かが刺さった。

 日本刀だ。

 五右衛門って奴が奴の後ろに居た。

「油断は死を招くぞ」

 五右衛門はそう言った。

 確かにそうだった。

 奴は俺との戦いに夢中で油断していた。

 それが死を招いた。

 奴は自分の腹部を貫いた刀を見ながら、倒れた。

 五右衛門は刀を抜く。

 俺は頭を振りながら

「借りができたな」

 と言った。

 五右衛門は刀を鞘に収めた。

「無駄な殺生をしてしまったな」

「正当防衛だ。気にするな」

 俺はそう言ってやった。

「部屋で休んでろ」

 俺はそう言って1階に下りた。

 外を見た。

 感染者の姿は無いな。

 俺は玄関を開け、外に出た。

 目の前はデパートだ。

 すると、デパートの入り口から何かが出てきた。

 サラリーマンか?違う、感染者だ。

 感染者は俺に気づいたか、奇声を発しながら走ってきた。

 俺はため息をついた。

 バットで感染者の頭を殴った。

 釘が突き刺さる。

 感染者は口をぱくぱくさせながら、倒れた。

 地面に血が広がる。

 俺はバットを引っこ抜く。

「蛸田!蛸田!」

 俺は部下であり仲間である蛸田を呼んだ。

「何ですか?ボス?」

「俺はデパートに行って必要物資を取ってくる。お前は仲間と一緒にここで待ってろ」

「OK」

 俺はバットを構えてデパートに向かう。

 中は思ったより広かった。

 1階は丁度食品売り場だ。

 俺は缶詰のコーナーに向かった。

 調理不要の缶詰をリュックに詰める。

 すると、足音がしたから俺はバットを構える。

 感染者が1人居た。

 奴は走ってきた。

 俺はバットを振り下ろす。

 だが、天井にぶら下がっていた看板に突き刺さり、バットが手から抜ける。

 感染者が俺に掴みかかり、俺は倒れた。

 感染者が俺に噛み付こうと必死になって顔を近づける。

 俺は奴の顔を1発殴った。

 それでも怯みはしない。

 俺は近くに落ちていた缶を拾い、それで殴る。

 一瞬怯んだ。

 それだけで十分だ。

 俺は立ち上がり、バットを取って感染者の後頭部に叩きつける。

 いや、突き刺したが正しい表現だな。

 感染者は動かなくなった。

 俺は首を回す。

 ふと、右腕に激痛が走った。

 俺は右腕を見る。

 まだ幼い少年――感染者が俺の腕を噛み付いていた。

 俺は慌ててそいつの顔を殴る。

 傷口から血がドクドクと流れる。

 俺はバットを引っこ抜き、そいつの頭に振り下ろそうとした。

 だが、一瞬躊躇った。

 感染者は走ってきた。

 俺は決心してバットを振り下ろす。

 その子は無残な姿になった。

 俺は心の中で祈りの言葉を呟いた。

 そして呪いの言葉も。

 俺は感染してしまった。

 後ろから気配が感じた。

 俺は振り返る。

 そこには――相沢信二と見知らぬ外国人美少女が居た。

「良かった、未感染者か!」

 相沢は安堵の声を漏らす。

 俺は頷いた。

「俺もまともな人間に会えてよかったぜ」

 だが残念なことに、俺は感染者だ。発症も時間の問題だ。

 俺は残された時間を有効に活用しようと心に誓った。

「仲間がいる、案内しよう」

「遠いのか?」

「いや、正面の家だ。それと………」

 俺はポケットからテープレコードと手紙と注射器を渡す。

「お前宛だ。有効に使え」

 相沢はポケットにしまった。

「案内してくれ」

 俺は正面の家まで案内する。

 相沢から頼もしいオーラを感じた。

 相沢のポケットから雑音がした。

 相沢はポケットから無線機を取り出す。

『信二君、聞こえるか?』

 蛇谷の声だ。1度は担任になった野郎だ。

 信二は送信ボタンを押す。

「僕です!信二です!」

『良かった、無事か!』

「ええ、他の未感染者も居ます」

『そうか、なら合流しよう』

「合流地点は?」

 俺は相沢を見守った。

 こいつは俺と違って本当にまともなのかも知れないな。


 俺達は他のグループの合流地点に向かった。

「お前は前にも同じ状況になったのか?」

「はい、今よりかはスケールが小さいですが」

 俺と相沢は会話をした。

 俺達は道路を歩いた。

 平和な時間だったかもしれない。

 だが、右手の激痛が増している。

「止まって!」

 相沢は大きな声で言った。

 俺は前方を見る。

 自動車やフェンスで出来たバリケードが道路を塞ぎ、その前に何百の感染者が居た。

「ここは避けたほうがいいですよ、ボス」

 蛸田は俺に提案する。

「そうですね、回り道しましょう」

 相沢はそう言って回り道できないか探した。

 俺は近くのタンクローラーを見た。

 ドアが開いている。

 運転席を見ると、鍵が刺さったままだ。

「さすがボス」

 蛸田がいつの間にか後ろに居た。

「それで特攻する気ですか?」

 俺は近くのワゴン車を見る。

 それも鍵が刺さったままだ。

「全員ワゴン車に乗れ」

 俺はそう言う。

 俺は相沢を引き止めた。

 全員をワゴン車に乗る。

「相沢、ワゴン車はお前が運転しろ」

「いいですけど、あなたは?」

「タンクローラーで特攻する」

「特攻!?自爆する気ですか!」

「いいや、道を開けるだけだ」

「なら、僕が………」

 俺は傷口を見せる。

「俺は感染者だ。時間は有効に使わせてくれ」

 相沢は驚き、渋々頷く。

 そしてワゴン車に乗る。

 俺はタンクローラーに向かった。

 だが突然吐き気に襲われた。

 俺は吐いた。

 出たのは血だった。

 鼻血が出始めた。

 時間が無い。

 俺はタンクローラーに乗った。

 助手席に、ガスボンベが置いてあった。

 俺はドアを閉める。

 ボンベの栓を開ける。

 バックミラーで俺は顔を見た。

 右目が赤かった。

 時間は有効に使おう。

 そして、不良だった俺も最後はまともになろう。

 俺はエンジンを掛け、タンクローリーを走らせる。

 感染者が気づいたのか、走ってきた。

 俺は出来るだけバリケードに近寄った。

 そしてぶつかる。

 バリケードは半壊した。

 だが、タイヤがパンクする。

 俺は火をつけるものが無いか探した。

 激しい頭痛が走る。

 頭が割れそうだ!

 自分でも分かる。

 血管や筋が浮き出る。

 俺は煙草の箱を見つけた。

 ……やはり最後は不良っぽく終わるか。

 俺は煙草を口に銜える。

 そして、ポケットから写真を出す。

 まだ小学生の妹の写真だ。

「悪いな、誕生日は祝えないぜ」

 俺は皮肉っぽく言う。

 煙草の箱からライターを取る。

 この車は感染者に囲まれていた。

 感染者が助手席の窓を割り、中に入ってきた。

 そして俺に噛み付いてくる。

 俺は運転席のドアも開ける。

 感染者が入ってきた。

「歓迎するぜ、俺は機嫌がいいからな」

 感染者が次々と俺の体を食い千切る。

 いくらでも噛め!最後の晩餐だ!

 俺はライターを煙草に近づける。

 自然と涙が流れる。

 血の涙だ。

 やはり怖い。死ぬのは嫌だ!

 俺はライターを遠ざける。

 俺はやはり人間だ………死ぬのは怖い。

 再び激痛が走る。

 嘔吐もした。

 サイドミラーを見れば、両目は完全に赤い。

 俺の意識が薄れる。

 俺は煙草にライターを近づける。

 ゲームオーバーだ!

 俺は内心叫ぶ。

 覚悟を決めた。

 妹の誕生日を祝えないのが心残りだな………俺が不良ですまなかった

「道連れだ!!!!」

 俺は叫び、ライターをつける。

 車内に充満していたガスが引火し、そして

 

  

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