第2特殊感染者
真斗は呆れながら歩いていた。
理由は簡単。
後ろに居る猫野と須田が口喧嘩しているからだ。
しかも原因は弓と拳銃とどっちが信用できるか?だ。
暗い廊下を懐中電灯で照らしながら真斗は歩き続けた。
だが、真斗はある意味喜びのようなものも感じていた。
不良と行動を共にするのは不安だったが、2人からは不良のような感じはしなかった。
むしろ幼稚さを感じた。
世界中の不良がこうだったら世界は少し平和だろうな……
「拳銃は暴発や不発があるから信用できない!」
「くくく、弓はいちいち引かなきゃならんからその間に殺されるだろうが」
口調は少々荒いが……
真斗は何かが横切るのを見た。
「......ゴキブリ?......」
形状はゴキブリのようだったが、大きさは遥かに大きかった。
何かが這う音が聞こえた。
「......2人とも......」
2人は今だ口論をしている。
真斗は見た。
何百何千何万何億の虫が目の前に這うのを。
そしてその中心に居る者の姿を。
「...2人とも...」
2人は今だ口論をしている。
「2人とも」
2人は今だ口論している。
「2人とも!」
やっと気づいた。
自分達の目の前に虫たちとその王「ベルゼブブ」が居ることを。
ベルゼブブは大鉈を引きながら近寄ってきた。
3人はどうするか議題した。
「こっちのドアへ行くよ!」
「くくく…だから女は、こっちのドアだろう」
「どっちでもいいから速く!」
須田は左側のドアを開いた。
「早く来い!」
真斗と猫野は言われるがままに部屋に入った。
須田はドアに鍵を掛けた。
「これで一安心」
「くくく…あいつごとき拳銃で殺せばよかった」
「ねえ、今さらだけど部屋に入るより逃げたほうが良くなかった?」
「「あっ」」
2人はそうだったとばかりに唖然とした。
だが幸いだった。
この部屋に他の部屋と繋がるドアがあった。
「あそこしかないね」
「くくく」
「速く行こうよ」
3人はドアに入り、鍵を掛けた。
そこは会議室のような部屋だった。
「これで一安心だな」
「くくく」
「猫野さんは何で笑い続けるの?」
「くくく…キャラ作りさ」
キャラ作り?
その時、会議室で何かが這った。
2人は拳銃と弓を構えた。
また何かが這った。
真斗は懐中電灯で照らした。
それは四足歩行する生命体だった。
それは人型だった。
それは感染者だった。
だが、目は真っ黒に染まっていた。
牙は歯のように鋭くなっていた。
爪は獣のようなかぎ爪だった。
それは同世代の少年だった。
だが、体つきが獣そのものだった。
3人は唖然とした。
それは人間の頃は端整だっただろう顔つきで恐ろしい奇声を発した。
「糞!死ね!」
須田は弓を射た。
矢は少年に向かって飛んだ。
だが、四足歩行の少年はそれを避けた。
同時に3人に向かって走った。
人間とは思えないスピードだった。
3人はそれぞれ横に飛んだ。
理由は簡単。
少年が3人に飛び掛ったからだ。
少年は壁に当たった。
だが、そのまま壁を這った。
3人は驚愕した。
須田はすかさず廊下とを繋ぐドアを開けた。
あの虫とベルゼブブは居なかった。
「早くここへ!」
猫野よ真斗は走った。
猫野は廊下に出れた。
真斗も出ようとした。
だが、首に何かが巻きついた。
舌だった。
少年が舌を伸ばし、真斗の首を絞めた。
真斗は持ち上げられ、壁に叩きつけられた。
真斗に巻きついた舌は一旦離れた。
だが、今度は右足首に巻きつけた。
そして引っ張られた。
「糞!放せ!」
須田は弓を射た。
矢は少年に――当たらなかった。
当たる直前に少年が右手で受け止めた。
だが、銃声が鳴り響くと同時に少年の右肩の肉片と血が噴出した。
「くくく、言ったろ?拳銃のほうが信用できる」
少年は壁から落ちた。
だが、立ち上がり、どこかへ逃げた。
「な?あの獣も拳銃で恐れた」
須田は真斗に近寄った。
「ほら、大丈夫か?」
「うん、一応」
「くくく、お二人さん、集合場所に向かおうか?」
2人はうなずくと、集合地点に向かった。
ベルゼブブと狼少年に出会わないことを願いながら――――
ソフィーは近くのデパートで大きなリュックサックを見つけると、拾った拳銃一丁と89式小銃を入れた。
「抱えるより背負ったほうが楽」
そう言うなりリュックを背負った。
だが、すぐに近くの更衣室に隠れた。
感染者が居た。
十数人の感染者が走り回りながら獲物を探した。
ソフィーは更衣室で覗きながら見つからないようイエス・キリストと神に祈った。
願いが届いたのか、感染者達がどこかに向かった。
「ふ~~~」
とりあえず一安心した。
が、再び不安に駆られた。
翼の音が聞こえた。
まさか――あいつが来たの?
音はデパートの外から聞こえた。
ソフィーのヘリコプターを墜落させた張本人だ。
翼の音は遠ざかった。
再び一安心し、更衣室を出ると、しゃがみながら歩いた。
この街の脅威は感染者だけではなかった。
大勢の虫とその先導者のベルゼブブ、特殊な感染者、そして巨大な翼を持つ<何か>が。