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感染者の沈黙  作者: 原案・文章:岡田健八郎 キャラクターアイディア:岡田健八郎の兄 
感染
43/84

感染者の牙

 「ここで止めろ」

 良治はそう言った。

「どうした?」

 石倉は怒りをこらえたような声で言った。

「あのアパートが見えるか?」

 機動車のすぐ隣に5階建てアパートが立っていた。

「あれがどうした?」

「あれは今回の事件で流行しているウイルスの第1発見者が住んでいた場所だ」

 全員驚いた。

「彼は学者でもあった。だから研究結果のレポートなどがあるはずだから、取って来いと研究所から命令があった」

 永田はガムを膨らましながら聞いていた。

「その研究者の住んでいた部屋は?」

「最上階の左側」

「行くぞ」

 4人の自衛隊は89式小銃を構え、機動車を降りた。

 アパートに入り口には扉があった。

 石倉は入り口を蹴り開け、1階を確認した。

「隊形を組め。俺と永田は前方を立つ。矢倍と尾崎は後方に、博士は真ん中に立ってください」

 5人は慎重に最上階に上がった。

「ここだ!間違いない!」

 最上階の左側のドアを指差しながら、良治は叫んだ。

 石倉はドアノブを回した。

「駄目だ。閉まってる」

 永田は銃底でドアノブを殴った。

 ドアノブと共に鍵が壊れた。

 石倉は永田を睨んだ。永田は肩を竦めた。

「これで入れるでしょう?」

「まあな」

 4人はドアを開け、小銃を構えながら部屋に入った。

「博士、大丈夫です。入ってください」

 良治は部屋に入った。

 部屋は暗かった。

 1つ目の部屋には壁に外国の新聞記事に注射器やメスや鋏などがあった。

「博士と尾崎はここに残れ。永田はドアを封鎖したら奥の部屋に入れ」

 石倉と矢倍は奥の部屋に向かった。

 永田はドアを封鎖し、奥の部屋に向かった。

「分かてると思うが、何も触るな」

 良治は尾崎に注意した。

 尾崎はテープレコーダーを見かけた。

 再生ボタンを押した。

『酵素に強い感染力があると判明した。俺は不安になり、やめようと考えたがやえた。

 昨日蚊に刺されたがどうも気になる。

 いつまで立ってもウイルスに対する有効な治療薬の完成が夢の中の夢だ。

 だが1つ分かった事がある。ここでは駄目だ!もう少し大きい空間と設備が居る!

 ここで分かっている事は最新の変異型は感染者の脳に侵入し、精神を司る部分を破壊し、凶暴性を剥き出しにすることだ。原型の特徴は依然不明だ』

「なるほどな」

 いつの間にか良治が隣にいた。

「このテープは資料として回収する」

 そう言ってテープを小さなビニール袋に入れた。

「他に何か無いか調べろ」

 尾崎はため息つきながら部屋を見渡した。

 その時、外から何かが落ちる音がした。

 部屋の奥の3人がやって来た。

「どうした?何の音だ?」

「分かりません」

 4人の隊員は部屋の外に出た。

「待て!危険だ!戻れ!」

 良治は4人を止めた。

「感染者かも知れないんだ!危険だ!」

「生存者かもしれない」

「生存者救出は今回の任務ではないはずだ!」

「あんたはな。俺達は自衛隊だ。永田、矢倍、降りろ」

 2人は言われるがままに階段を下りた。

 残り2人は後ろから支援していた。

「待て!戻って来い!」

「矢倍、援護するから降りろ」

 永田は3階で銃を構えながら言った。

「了解」

 永田は駆け足で階段を下りた。

 2階の右側の扉が開いていた。

「来たときには閉まっていたから、きっとこの中だ」

 そう言って部屋に入った。

 部屋は暗かった。

 部屋の廊下を慎重に進むと、音楽が聞こえてきた。

 ヴァルディレクイエムの怒りの日だった。

 廊下の壁側の中心にドアがあった。

「隊長、音楽が流れている」

『注意しろ。感染者が潜んでいる可能性がある』

 矢倍は部屋の入った。

 部屋は狭かった。

 テレビにベッドにタンスなどの家具しかなかった。

 アナログテレビの上にラジオがあった。音楽はそこから流れていた。

『何かあったか?』

「パーティーの邪魔をしたかも」

 ラジオを止め、部屋を出た。

 廊下の奥から何か物音がした。矢倍は銃を構えながら廊下の奥を確認した。

 その時だった。

 背後から何者かが矢倍に牙を向けた。


 無線越しから矢倍の悲鳴が聞こえた。

「矢倍!応答しろ!矢倍!」

 石倉は叫びに近い声で矢倍に連絡を取った。

 やられたのか?感染者に?

 そう思った瞬間、石倉は自分に怒りを感じた。

 自分の判断ミスだった!

「全員来い!」

 石倉は先頭に立ち、永田と尾崎を連れて矢倍の入った部屋に入った。

「矢倍!どこだ!」

 廊下の真ん中で誰かが倒れていた。

 まさか…そんなはずはない。

 石倉は倒れている人物に駆け寄った。

 矢倍だった。

 首筋を食いちぎられ、血を流しながら倒れていた。

「大丈夫か!」

 石倉は矢倍の脈を調べた。

「隊長、どうですか?」

 永田は警戒しながら聞いた。

「…死んでる」

「畜生!俺のせいだ!」

 永田は壁を殴りつけた。壁が敗れそうになるくらい力を込めて。

 信じられない……本当に感染者に襲われたのか?

「永田、部屋から誰か出てきたか?」

「出てない…矢倍が入ったきり誰も出入りしていなかった」

 良治がやって来た。

「どうした?誰かやられたか?」

「矢倍が死んだ。何かに食われてな…」

 永田は良治の襟を掴んだ。

「何をする!」

「矢倍が死んだ!白目をむきながらな!」

 石倉は慌てて永田の肩を掴んだ。

「よせ!博士は何もしていない!」

「こいつは感染者は狂暴になるだけだといった!」

「確かに私は言った」

「だが!矢倍は何かに襲われた!感染者の奇声が聞こえることなくこいつの悲鳴だけが響いた!」

 石倉は永田の腕を掴んだ。

「落ち着け…取り乱すな。俺だって今猛烈に怒ってる。だが取り乱したら全滅を招く」

 永田は深呼吸した。

「確かに……すいません」

 その時だった。

 部屋の奥のシャンデリアが落ちた。

 4人は一瞬痙攣を起こした。

「何だ?」

「確認するぞ」

 3人は銃を構えながら部屋の奥に向かった。

 部屋は広かった。

 ベッドが左隅に置かれ、右隅には本棚があった。

「何も居ない?」

「なぜシャンデリアが落ちたんですかね?」

「腐り果てたんだろ?」

 永田はシャンデリアの鎖を調べた。

「違う…食いちぎられた跡がある」

「食いちぎられた?」

 良治が何食わぬ顔で入ってきた。

 永田は再び襟を掴んだ。

「おい!もう任務は終わりだ!さっさとこの街から出よう!」

「永田!」

 石倉は永田の両肩を掴んだ。

「いいか!取り乱すな!落ち着け…これからは全員放れずに行動する。いいな?」

「はい」

「とりあえずここは危険だ。機動車に戻ろう」

 永田は自分頬を平手打ちしながら廊下に出た。

「そんな馬鹿な!」

 永田は叫んだ。

「どうした?」

「矢倍の死体がない!」

 石倉は耳を疑った。

 死体が無い?そんなことありえない!

 だが確かに矢倍の死体が消えていた。

「死体…死体はどこだ?」

 4人は廊下を進んだ。

 引きずった跡すらない。

 その時、背後から気配を感じた。

 4人は振り返った。

 落ちたシャンデリアの前に矢倍が顔を下げながら立っていた。

「矢倍!生きてたのか?何に襲われた?」

 矢倍が顔を上げた。

 目は真っ黒に染まっていた。本来白いはずの強膜も黒くなっていた。

 やばい!絶対やばい!

 そう思ったとき、矢倍は奇声を発しながら走ってきた。

 その奇声は恐ろしげだった。

 石倉は矢倍の首を掴んだ。

「落ち着け!やめろ!矢倍!」

 その時石倉は矢倍の歯を見た。

 全ての歯が鮫の牙のように鋭く尖っていた。

 永田は矢倍の顔面を素手で殴った。

「よせ!やめるんだ!」

 石倉は矢倍を羽交い締めした。

「博士!これは何だ!」

「感染者だ!彼は感染した!」

 永田は矢倍を蹴りつけた。

 矢倍は壁側にある部屋に倒れこんだ。

 永田はドアを閉め、鍵を掛けた。

 矢倍はドアの向こうから叩いていた。

「博士!一体何なんだ!」

 永田は再び襟を掴んだ。

「一体何の感染だ!」

「落ち着け」

「永田は5分前までは何ともなかった!何の感染だ!えっ!言ってみろ!」

「分かった。話すからまずは機動車に戻ろう。ここは危険だ」

「分かった…隊長!」

「行くぞ」

 永田は我先にと部屋を出た。

 石倉達も続いて部屋を出た。

 だが永田は呆然と1階を見ていた。

「どうした?」

 石倉は1階を見た。

 ショックが大きかった。

 1階に大勢の赤目の感染者が居た。

 感染者達は奇声を発しながら走ってきた。

 4人は階段を駆け上がった。

 目指す場所は最上階だ。

 4人は最上階に着くと、科学者の部屋に入り、ドアを閉めた。

 鍵を掛けたかったが、あいにく永田が壊してしまった。

 石倉はチェーンを掛け、ドアの横のタンスを倒した。

 玄関はタンスに塞がれた。

 全員無事か?

「ああ無事だ」

「はい…怪我はありません」

「私は大丈夫だ」

 石倉は返事に満足すると、座り込み、休憩を取った。

 そう言えば、まだ入ってないドアがあったな。何も無いと思うが、安全は確認しよう。

 石倉は立ち上がると、永田と尾崎を連れ、部屋の奥に向かった。

 部屋の奥は広間のように何も無かった。

 厳密には小さなテーブルの上に怪しげな医療器具しか置いていなかった。

 部屋の奥にドアがあった。

 古く錆付いた鉄製のドアが。

 石倉はドアノブを回した。

 だが錆付いて動かなかった。

 石倉は永田に「やれ」とばかりに睨みつけた。

 永田はドアを蹴った。

 鉄製のドアは外れた。

 ホコリが散る。3人は咳き込んだ。 

 良治が来た。

「まだ部屋があったのか?」

「ええ、安全確認のために」

 4人は入った。

 そこは狭い通路のような場所だ。

 慎重に進んだが、先は行き止まりだった。

「安全だな」

 永田はそう呟き、壁を見た。壁には資料が置いてあった。

 永田は資料を取り、中身を確認した。

「酷い…狂気の沙汰だ」

 中には血塗れの子供や頭蓋骨を切られた子供や脳を露出されている子供の写真ばかりだ。

「誰がこんなことを」

 石倉は呆然と資料を見ていた。尾崎は祈りの言葉を呟き始めた。

「これもお前らの研究か?」

「違う。私達ではない」

 資料に名前が書かれていた。

 黒木大輝

「黒木大輝…最低な研究者だな」

 永田は資料を良治に渡した。

研究所おまえらは資料が欲しいんだろ?くれてやるよ」

 良治は黙って受け取った。

 良治もこの資料を見て何かしらの感情を抱いていた。

 他にも資料があった。

 今度は写真は無い字だけの資料だ。

 永田は声に出して読んだ。

「タイプ2:眼球が黒く染まる、歯が生え変わる、体の細胞が変異し身体能力が上がる等の症状アリ

 タイプ3:脳の感情を司る部分は破壊され、狂暴性がむき出しになる、虹彩が赤くなる等の症状アリ

 タイプO:症状不明、毒性が強く、たいていの感染者は死に至る」

 どういう意味だ?石倉は理解できなかった。

「それもくれないか?」

「ほらよ」

 永田は渡した。

「とにかく、私が任務終了を告げるまで東京からは出られないからな」

 石倉はため息ついた。

 本当の戦場とゾンビのような連中だらけの場所とどっちがましだろう?

 俺だったら生きて食われるくらいなら、銃で撃たれたほうがいいな

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