再突入
石倉は眼を覚ました。目覚めの悪い朝だな。
だが、そこは自宅のベッドでも宿舎でもない。テントの中だ。テント内にベッドが並んであり、マスクをつけた白衣の男が立っていた。
「具合はどうですか?」
「24時間マラソンに出場した後みたいな気分だ」
つまり、くそって意味だ。
「それはいい」
石倉は頭を働かせようとした。
「ここは?」
「安心してください。東京都の外側、つまり安全地帯です」
だろうな。天国にしちゃあ、ちと殺風景だったしな。
「大変だったそうですよ。あなたが気絶していて仲間が必死になって運んだそうです」
気絶?はて、俺はどうなったんだっけ?今日1日の記憶が全部吹き飛んでる。
迷彩服を着た男が来た。
「あ、石倉さんは無事に目覚めました」
「そうか」
男はそう答えた。
石倉は訳が分からなかった。一体今日何があったんだ?
「石倉君、私は前原一等陸佐だ。今作戦の現場責任者で現場司令官だ」
「作戦?一体何の作戦ですか?」
前原は白衣の男に向いた。
「軽い記憶喪失です」
前原は再び石倉に向いた。
「では、順を追って説明しよう。今東京は封鎖中だ」
石倉は耳を疑った。東京は日本の首都だ。国会議事堂も東京にある。首都東京を封鎖するなんて前代未聞だ。日本はついにおかしくなったのか?
「封鎖って、何のためです?」
「特殊軍事機密作戦「真紅計画が発動された」
コードレッド?どこかで聞いた名前だな…確か…
思い出そうとすると、頭痛が走る。
「大丈夫か?」
「はい、たいしたことありません」
「よろしい。真紅計画は第3段階まで実行されたが、今は停止中だ」
「ちょっと待ってください」
石倉は止めた。意味の分からないまま話が進められて、頭が混乱していた。東京封鎖もコードレッドも第3段階も、全て理解していない。
「コードレッドって何ですか?そもそもなぜ東京が封鎖されたんです?」
「呆れたな。そこまで忘れたか」
前原は頭を抱えた。一体どこから説明すればいいのか迷っている。
「真紅計画は、政府の承諾済みの陸上自衛隊専用緊急作戦の暗号名だ」
政府の承諾済み?つまり、大規模な作戦か。
「正式作戦名は封じ込め作戦。陸自の全総力が結集される大規模な軍事作戦だ」
軍事ってのは聞きなれないな。自衛隊は軍隊じゃないし。
「この作戦の発動条件は、感染の発生だ」
石倉は感染と言う言葉を聴いて不安に襲われた。自衛隊が大規模な作戦を行うほどの危険な細菌が発生したと悟ったからだ。
「今、東京都内では、伝染病が流行ってる。感染者は人が変わったようになる」
「ある種じゃ、狂犬病に似てますね」白衣の男が付け足した。
石倉は頭の中で整理した。
今、陸自はコードレッドという大規模な軍事作戦を実行してる。東京で伝染病が流行ったから、東京は封鎖された。そしてその伝染病は狂犬病と酷似してる。
「事情は分かりましたが、私に何の用ですか?」
「用件を言う前に紹介したい人物がいる」
前原は横に一歩ずれた。そこには、30代後半から40代前半くらいの男が立っていた。
「厚生労働省から来た専門家の―――」
「坂本良治です」
厚生労働省から来た?よほどの大事件だな。
前原は咳払いをして言った。
「君の部隊に博士の護衛をしてもらいたい」
「護衛?」
「君の部下は君の判断を任せると」
「待ってください、何の護衛ですか?」
「東京都内に突入してもらう」
石倉は首を絞めたやりたかった。まだ状況が完全に把握し切れていないのに、突然護衛をしろと言われたら、断るのが通だ。だが、本人の意思関係なく答えてしまった。
「はい、任せてください」
自分でも不思議に思った。本心は行きたくないのに、口が勝手に答えたのだ。石倉は自分の声帯を潰してやりたかった。だが、痛いから辞めといた。
「いい返事だ。5分後に突入して貰うからな」
前原は石倉に敬意を込めて敬礼した。石倉も敬礼し返した。
「石倉陸曹長は誠に光栄であります」
もちろん本心ではなかった。やけくそに言ったのだ。
「うむ、期待してる」
前原はテントの外に出た。
「護衛、よろしくお願いします」
良治はそう言って外に出た。
石倉はベッドから降りて、ブーツを履いた。
「俺の装備は?」
「すぐ横です」
横に自分の装備がたたんで置いてあった。
石倉は装備をつけた。
テント外に出ると、軽装甲機動車:愛称ライトハンマーが停車していた。
―軽装甲機動車は陸上自衛隊と航空自衛隊に配備されている軽装甲車である。普通科などの隊員の防御力と移動力を向上させるのが目的の装甲車であり、固定武装は無いが、乗員が天井ハッチから身を乗り出して5.56mm機関銃MINIMIや01式軽対戦車誘導弾等の火器を使用できる設計になっている。車体は装甲化され、避弾経始も考慮されているが、具体的な防弾・防爆性能は公開されていない。小型かつ軽量であるためC-1輸送機、C-130H輸送機、CH-47J/JA輸送ヘリコプターなどで空輸することが可能となっている。
今回は5.56mm機関銃MINIMIを装備している。石倉は軽装甲機動車のドアを叩いた。
どうせなら、74式戦車か90式戦車でも乗せてもらいたいものだ。
石倉は89式小銃を装填した。
「結構やばそうだな」
これじゃもう、陸上自衛隊ではなく、陸軍に入隊してる気分だ。
今回の護衛、骨の1本や2本では済まなさそうだ。まったく、この世はユニークだこと
軽装甲機動車
武器学校の軽装甲機動車
基礎データ
全長 4.4 m
全幅 2.04 m
全高 1.85 m
重量 4.5 t
乗員数 4名(ターレットハッチを開け、後部座席間に機関銃手を座らせた場合は5名)
乗員配置 前席2名、後席2名(+1名)
装甲・武装
装甲 圧延鋼板・防弾ガラス
機動力
速度 約100 km/h
エンジン ディーゼル
160 ps / rpm
懸架・駆動 フロアシフトタイプ4速AT(運転席右端の操作パネル部分にはボタン式のATスイッチが装備されている)及びHi・Lo切替レバー装備、デフロック等(高機動車と同様の装備)
前輪:ダブルウィッシュボーン 後輪:セミトレーリングアーム
登坂能力:tanθ60%
行動距離 約500 km