処刑人
信二達は第1校長室に向かって走っていた。
だが、茜を連れ忘れているのを信二は気づいた。
「皆さんはさきに校長室へ!」
信二はそう言って、保健室に向かった。
「あ、どこに行くの?」真希は信二を追った。
保健室に信二は茜を抱き抱えた。
「どうしたの?お兄ちゃん」
「暴漢達が出てきたのさ」
亜矢子はすでに母親に連れて行かれていた。
「信二君、早く行こうよ」真希が入ってきた。
「ええ、そうしましょう」信二は茜を抱えながら走った。
が、保健室の出口に男子生徒感染者が現れた。
真希は感染者の頭を両手で掴み、感染者の頭を下げると同時に膝を勢いよく感染者の顔にぶつけた。
感染者は倒れこんだ。
「さ、行こう」
信二達は校長室に向かった。北校舎の1階は既に感染者だらけだ。信二は無我夢中で真希について行った。感染者と出会うたびに、股を蹴って走った。
「もうすぐ校長室よ!」
信二はその言葉に安心感を感じた。
感染者が信二を追っていた。掴まれそうになった。
「まずい!」
その時、感染者が突然倒れた。よく見ると、右目に矢が刺さっていた。
「早く入りな!」須田が和弓を構えながら言った。
信二達は校長室に入った。同時に扉が閉まった。
好調室内には、ある程度の生徒が居た。
信二は茜を下ろし、真人に話しかけた。
「ここに行き着いた人は?」
「えき…じゃなくて総統、雑賀、須田、蛸田、鳥山、猫田、俺、聖夜、トリエン、真斗、綾瀬、石川、小島、佐々木、五右衛門、武田、立花、吉川」
吉川?聞かない名前だな。
「最後の誰だ?」
「部屋の隅っこに座ってる男だ。クラスメートだが、空気みたいな奴だ」
信二は部屋の隅の男を見た。ニキビだらけの顔で、出っ歯だ。なるほど、確かにぱっと見た感じだと友達になりたくないほどの容姿だ。存在感も薄すぎるな。
「蛇谷先生と織邨さんは?」
「見かけてない。一番頼りになるけどな…どこだろうか?」
俺は拳銃を隠し持っている。信二はそう言い聞かせた。拳銃は万が一のときに使おう。
「武器は?」
「メリケンサック、弓、大鎌、斧、丸太、鎌、ナタ、金属バッド、彫刻刀、回転式拳銃」
「リボルバー?」
「あそこのカウボーイっぽい男が持ってる」
確かに中学生の癖に長い顎髭を生やしたコートを着た男が回転式拳銃を持ってる。最近の不良は怖いな。
「まあ、ここに居れば安全だな」
「事情が変わった」
部屋の中の人が信二を見た。
「どういう意味?」
「でっかいギロチン斧を持った巨漢が感染者を引き連れてきた。鉄製の玄関を壊すほどの攻撃力を誇ってる」
「あの頭巾野朗か」
「あのデブ頭巾野朗だ」
何人かはあの巨漢を見た。圧倒的な迫力を誇っていた存在だ。
「あいつは何者なんだ?」真人は信二に聞いた。
「分からない。だが、感染者であることは確かだ。名前を付けよう」
「名前なんか居るのかい?」
「いちいち巨漢って呼ぶのはなんかな」
校長席に座ってる液…ではなく総統が悪役っぽい声で言った。
「処刑人」
「くくく…さすがはボス、発想が早い」
「はっはっは、まったくだ」
「ボス、由来は?」
「ギロチンと言えば、昔の処刑で使われてた。それだけだ」
その時、感染者たちが校長室の扉を叩いた。
「ここも長くなさそうだな」
武田はそう言って、校長室の窓を開けた。
「どうする気だ?大佐」
武田はロープを落とした。
「ロープで脱出する」
信二、真人、立花はまたかとばかりに首を振った。
「俺が先だ。アディオス」
武田はロープで降りた。
総督を除く狐狩り幹部メンバーも全員降りた。
ほとんどの人物が降り、校長室はもう、信二、茜、総督しか残っていない。
総督は、校長席を扉の前に移動させた。
「お前達は先に行け」
信二は、茜を連れて降りようとした。
その時、何かが引きずる音が聞こえた。
「この音は?」
「きっと処刑人だ!」
総督は扉から離れた。
扉が木っ端微塵に破壊された。
処刑人が扉を破壊したのだった。
感染者が次々と室内に入ってきた。総督はメリケンサックで次々と感染者を殴りつけた。
信二は茜を背負った。
「しっかりつかまってろ!」
だが、感染者の1人が信二に抱きかかった。信二は茜を落とし、窓から落下した。
「お兄ちゃん!」
総督は茜を抱えた。
「掴まれ、お嬢さん」
総督はロープで滑り落ちた。
信二は無事だった。高さが2階だったのと、落下先が柔らかい土だったのが幸いだった。
「転校生、自分の妹はしっかり管理しろよ」
総督は茜を信二に渡した。
「あ、ありがとうございます」
その時、感染者たちが1階の窓から出た。
「礼はいらん!逃げるぞ!」
信二と総督は走り出した。先に下りた連中がどこに居るかは知らなかった。
校舎を曲がった先に、信二が誰かとぶつかった。
「あ、信二君」真希だった。
「皆はどこに?」
「体育館。窓に鉄格子があるから安全だって」
「今はな」
信二達は体育館に向かった。校舎内からまだ悲鳴が聞こえる。
体育館の正面扉が開いていた。信二達は飛び込んだ。
館内の真人と聖夜が即座に扉を閉めた。
信二は体育館の扉と窓を見た。
扉は鉄製、窓は鉄格子付き…ここは安全そうだな。処刑人が居なければ…