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感染者の沈黙  作者: 原案・文章:岡田健八郎 キャラクターアイディア:岡田健八郎の兄 
感染
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亜矢子と母の再会

信二は、茜と少女の様子を見るため、保健室に入った。

「よお、茜」

「お兄ちゃん」

茜はベッドで座っていた。少女は眠っていた。

「そう言えば、この子の名前は?」

「亜矢子」

信二は驚いた。看護婦の報告書で最重要危険患者に指定された人物じゃないか…

「何もされなかったか?」

「うん」茜は正直に答えた。自分は何もされなかった。むしろ、助けられた。

信二はその答えに安心した。

 亜矢子が目を覚ました。

「大丈夫かい?」

信二は亜矢子の近くに駆け寄った。

「…誰…?」

「俺は相沢信二。茜の兄だ」

「ここはどこ?」

「学校の保健室」

それを聞いて安心したのか、再び寝込んだ。

信二は保健室から出た。保健室前では、綾瀬が待っていた。

「相沢君…だったよね?」

「何でしょうか?」

「保健室にいるのは誰?」

「俺の妹の茜と亜矢子って少女だ」

「亜矢子!?」

突然、見知らぬ女性が聞き返した。30代後半くらいか……?

「亜矢子って、鬼塚亜矢子?」

「ええ、はい」

信二は困惑していた。この人どうしたんだ?

「会わせて!今すぐ!」

信二は仕方なく、案内した。

 亜矢子は、女性を見て、驚愕していた。

「亜矢子!!」

「…お母さん…」

信二は驚きはしなかった。だが、亜矢子の反応は興味深かった。亜矢子の母親は、再会を喜んでいた。だが、亜矢子はその反対だった。信二には、亜矢子が母との再会を嫌がってるように見える。

「お母さんはお前と会えて嬉しいよ」

「そう?あたしは嬉しくない」

やはり、そうか。信二は椅子に座った。

「亜矢子、どうしてそんなこと言うの?」

「あたしは、お母さんとお父さんが嫌いなの」

随分とストレートに言うな。

「あなた、本気で言ってるの?」

「ええ」

「なんでそういう言うの!私達があなたをどれだけ心配したか!」

亜矢子は母を睨みつけた。

「じゃあ!お母さんとお父さんはあたしに優しくしたことあるの!?」

母親ははっとした。

「毎日勉強勉強!友達と遊ぶ時間さえくれない!ちょっとした間違いで怒って怒って!正直、入院生活のほうがまだ良かったよ」

信二は納得した。なるほどな、この母親と父親は強制的に勉強させていたのか。

「…ごめんね、亜矢子」

「謝れば、あたしが許すと思う?2人とも死ねばいい」

母は、突然泣き出した。ハンカチで涙を拭いた。

「何で泣くの?きもい」

母は、震えた声で言い出した。

「亜矢子…お父さんとは…会いたくても…会えなくなったのよ」

「離婚でもしたの?好都合よ」

「違うわ…あなたの…私の…父さんは死んだの」

「死んだ?」

「ええ…今日、私を逃がすために…」

 こんな母子の対話をしている間に、信二は意外な事実に気づいた。それは、亜矢子の態度や言動で、まったく父の死を悲しんでいないことだった。眼にもまったく涙がたまっていない。表情ひとつ変えていない。それどころか、むしろ笑っていた。まるで面白い話を聞いてるように。

「いいざまね。うっとうしい糞爺が死んで清々した」

 その時信二は、偶然亜矢子の膝を見た。膝の上には、右手が乗っていた。勿論、ぱっと見ただけではたいした発見ではなかった。

 が、同時に、信二は亜矢子の右手が激しく震えているのに気づいた。感情の激動を強く抑えるためか、右手を強く握っていた。包帯が血で滲んでいた。

信二は悟った。顔こそ笑っていたが、実は全身で父の死を悲しんでいた。

この子も人だった。ただ強がるだけの少女だった。


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