取材
1時間目の数学が終わった。
紀子は信二の席へと向かった。信二は紀子を見た。眼鏡にカメラに手帳、いかにも取材陣らしい。そう信二は思った。
「どうも。クラスメートの石川紀子です」紀子は信二を握手した。
「ど、どうも・・・相沢信二です」
紀子は、胸にあるポケットから何かを取り出した。小型録音機だった。
「信二君、2,3質問します。まず、あなたの前に居た学校は?」
信二は首を横に振った。「すいません。それは言えません」
「では、転校理由は?」
「家庭内の事情です」
「どんな事情ですか?」
「それは、秘密です」
紀子は単刀直入に聞くことにした。
「あなたは<大羽中学校封鎖事件>の生還者ですか?」
信二は一瞬黙り込んだが、すぐに答えた。「いいえ」
「本当に?」
信二はため息をついた。「あなたは、あの事件の事実を知りたいのですか?」
「はっきり言えば、そうですね」
「なら、インターネットで<感染者の牙>を検索するといい」
紀子は、聞き返した。「感染者の牙?」
「大羽中学生が投稿した封鎖事件の真実ですよ」
紀子は録音機を止めた。「ありがとうございます」
「で?収穫は?」真人は呆れ声で言った。
「感染者の牙をネット検索しろ・・・だってさ」
真人は渋い顔した。「感染者の牙?帰って検索するか」
紀子は真人に笑顔を見せた。「別に、今でも検索できるわよ」
―第1技術室―
第1技術室は、いわばパソコンルームだ。
「ごめんね~真希ちゃん。いろいろコネを使ってもらって」紀子はそう言った。
「別にいいよ。私もちょっと気になるし♪」真希は愛想の良い声で答えた。
「ほんとに、お世話になるわ~」
技術室には、真人、紀子、真希、真斗、聖夜、トリエンが居た。
「何でお前らも居るの?」真人はそう聞いた。
「だって、気になるもん」全員、そう答えた。
紀子はパソコンの電源をつけ、インターネットを開いた。
「えっと、感染者の牙っと」紀子は検索した。
「あったあった」
紀子はクリックした。
聖夜は画面を見た。「どうやらネット小説らしい」
「題名が感染者の牙で、あらすじは、この物語は真実です。大羽中学校封鎖の真実を書きます。作者、和真・・・鳥円!」
全員、トリエンを見た。「違うよ!俺じゃないよ!俺ベトナム人!」
「分かってるわよ。それよりも小説を読もう」
全員、小説を読み始めた。
―数分後―
「こ、これって・・・」と紀子。
「明らかに・・・」と真人。
「いや絶対に・・・」と聖夜。
「フィクションだニャ♪」と真希。
真希を除いて、全員失望のムードになった。
「トリエン!てめー、ふざけたこと投稿するな!」聖夜はトリエンを殴った。
「違うよ!俺じゃないよ!俺はネット小説なんか書かないよ!」
「とにかく、教室に戻りましょう。時間の無駄だったわ」紀子はそう言った。
「そうかな~?私は結構、面白かったけど♪」
全員、技術室を出て、教室へと戻った。
「やっぱり本人から聞くのが一番ね」紀子は言った。
「でも、本人は否定してるぜ?」真人はそう答えた。
「分かってないわね~。嘘ついてるのよ」
「嘘?」
「そう・・・私は彼に、あの事件の生還者か?って聞いたの。違うなら普通即答なんだけど、彼は一瞬黙り込んだのよ」
「ああ!なるほど!」
「だから彼は絶対、あの事件の生還者で、事実を知っているはず」
「でもどうやって?」
紀子はウィンクした。「簡単よ!彼の友人になるのよ」
「友人?」
「そう・・・彼と友人になり、友情を深めていって、親しい仲になるの」
「なってどうする?」
「分かってないわね~。親友だから打ち明けられる秘密もあるもんでしょう?」
真人は目を丸くした。「じゃあ、あいつと親友になって、あの事件の真実を語らせようと?」
「そういう事」
「でも親友なんて、そうそうなれるもんじゃないぜ」
「そこで、あなた出番よ」
「お、俺!?」
「だってあなたは友情を大切にする人じゃない」
「でも、相手はまだ得体も知れない人物だぜ」
「そこを何とかしなさいよ」
「んな無茶な~」
「お願い・・・ふふふ」
真人はため息をついた。面倒な事になってきたぞ。
信二は、社会の歴史の教科書を忘れたことに気づいた。隣に座る真希に頼み込んだ。
「お願いします。教科書を見せてください」
真希は笑顔で答えた。「うん!いいよ♪」そう言って自分の席を信二にくっつけた。
「ありがとうございます!」
「お礼はいいよ。私は坂本真希。以後よろしく♪」
「こちらこそ、以後よろしくお願いします、坂本さん」
「敬語は使わなくていいよ。堅苦しいから。それに私のことは真希って呼んでね♪」
信二は真希の人柄を気に入った。この人とならうまくいきそう・・・。そう思った。




