決着
信二、真人、立花の3人は、茜の行方を探していた。
信二は不安になっていた。推測に過ぎないが、茜を連れ去ったのは恐らく、鬼塚亜矢子だろう…
だが、この階は全て調べつくした。
「他の階に居るのかしら?」
「1階はまずないな。感染者だらけだからな」
そう言えば、妨害者はどうなったんだろう?あの数の感染者相手に無事のはずがない。
信二達は、再びエレベーター付近の待機室に着いた。
「次はどの階を探索する?」真人は信二に聞いた。
どの階と言われてもな。
信二はちらっとモニターを見た。その時信二は絶句した。
1階のホールは感染者に埋め尽くされていた。
1階は完全に無理だな……まったく、茜はどこだ?
立花が近くのドアを開けてみた。
「信二君、来て」
信二と真人は立花の所に向かった。
立花が、部屋の中のある場所に懐中電灯を照らしていた。
そこには、天井に丸いマンホールほどの穴が開いてあり、ロープがぶら下がっていた。
「相沢、お前の考えを言ってみようか?」
「頼む」
「ロープに上ってみよう」
「残念、正解は茜を探そう」
信二はロープで上がってみた。
部屋の上は、理科室のような空間が広がっていた。
2つの扉が部屋の前と後ろにあった。
2人も上がって来た。
「驚いたな」
「ええ…」
信二は、前の中学校の理科室を思い出した。あの『化け物』との初交戦だったな。
信二は1つに扉に向かった。
扉はすでに壊れていた。
中は、傷だらけのマネキンが多くぶら下がっている部屋だったが、よく見ると、裸の女性の死体もぶら下がっていた。どれも無残だった……
床には大量の血が広まっており、血だらけの鋏が落ちていた。
よく見ると、何かが引きずった後があった。
信二は、前の出来事があってか、吐き気はしなかった。
立花は吐き気に襲われた。
真人は吐き気……ではなく吐いた。
「この部屋から出よう」
信二達は駆け足で出て行った。
もう1つの扉に向かった。こちらも壊れていた。
出てみると、狭い暗い廊下が奥まで広まっていた。
信二は暗い所に飽き飽きしていた。
「まあ、まっすぐ進んでみよう」
信二達は進んだ。
茜は亜矢子と共に屋上に居た。屋上は青空が広まっていた。
「ねえ、次は何して遊ぶ?」亜矢子は茜に尋ねた。
茜は、出来るだけ亜矢子を怒らせない遊びを考えた。
「かくれんぼ」
亜矢子は首を振った。「さっきやったじゃない」
茜は再び考え込んだ。確かにさっきやった。殺人系は出来るだけ遠ざけよう。
「じゃあ、おままごと」
亜矢子は力のない笑みを見せた。
「あたしはやったことないから」
亜矢子はあっと言った。
「じゃあ、拷問ごっこ」
茜は首を傾げた。
「ごうもん?」
「拷問とは、相手に肉体的苦痛を与え、無理矢理情報を聞き出すことである」
亜矢子はご丁寧に教えた。
「にくたいてきくつう?」
亜矢子は呆れた。
「肉体的苦痛とは、まあ、簡単に言えばすごく痛いこと」
茜は血の気が引いた。
「わ、私は、あんまし人を傷つけたくない…」
茜は今の発言に後悔した。もしかしたら今の発言で怒りを買ったかもしれない。
だが、亜矢子の反応は茜の予想を反するものだった。
「人を傷つけることや、殺すことが嫌いなの?」
「う、うん。でもあやこちゃんがやりたいなら…」
「じゃあやめる」
茜は驚いた。やめる?どういうことかしら?
「やめるって?どういう意味?」
「文字通りよ、人殺しも傷つけることもやめる」
また驚いた。
「どうしてやめるの?」
「だって、あかねちゃんは嫌いでしょう?」
「う、うん」
「だからやめる」
私が嫌いだからやめる?どうしてだろう?これは素直に喜ぶべきだろうか?
「じゃあ、部屋に戻ろうか?」
「う、うん」
亜矢子は車椅子を押そうとした。
その時、屋上の入り口である階段から、何か鉄のような物を引きずる音がした。
妨害者だった。
妨害者が、首に包帯を巻きながらやってきた。愛用のつるはしを持って…
残念な事に茜も亜矢子も丸腰だった。
「嘘でしょう…首を刺されて生きてるなんて…」
亜矢子は、初めて動揺を見せた。
妨害者は、悲鳴に思える奇声を発しながら、2人に近づいた。
再び、精神病質者と発狂者が対峙した。
妨害者は奇声を発しながら、つるはしを構えた。
亜矢子は茜を守るように立った。
妨害者は奇声を発しながらつるはしを振り下ろした。
亜矢子は後ろに下がることで避けた。
つるはしはコンクリート製の床に突き刺さった。
亜矢子はこの隙に、茜の車椅子を引っ張って入り口に向かった。
妨害者は左足で亜矢子の足を引っ掛けた。
亜矢子は転んでしまった。
茜の車椅子は出口とは違う方向に進み、フェンスにぶつかった。
妨害者は、亜矢子の腹部を思いっきり蹴った。
亜矢子はうめき声を漏らした。妨害者は両腕で、亜矢子の両肩を掴み、無理矢理立たせた。
そして、今度は腹部に右拳で殴った。そのまま右、左、右とフックを繰り出した。
だが、やられるばかりの亜矢子ではなかった。
亜矢子は、右足で妨害者の男の急所を思いっきり蹴った。
妨害者は情けない奇声を発した。
亜矢子は何度も男の急所を蹴りつけた。そのたびに妨害者は情けない奇声を発した。
妨害者が男の急所を抑えながら両膝をついた。
亜矢子は妨害者の横を通り過ぎて、つるはしを引っこ抜いた。
妨害者が振り向いた。
亜矢子は、妨害者の右脚目掛けてつるはしを振り下ろした。
つるはしは、右脚に突き刺さった。
「これで歩けないはず」
亜矢子はつるはしを放した。
だが、妨害者はつるはしを抜いた。
そして、普通にあるいた。普通に。
「嘘!」
妨害者は、つるはしで亜矢子の右脚を突き刺した。亜矢子の右脚の骨が砕けた。
亜矢子は苦痛のあまり、声も出せずに倒れこんだ。
今度は、右手を刺した。
次は右肩。
さすがに亜矢子も抵抗が出来なかった。
そして、頭を刺そうとした。
茜は車椅子を走らせて、妨害者に体当たりした。
妨害者は、ぶつかった衝撃で車椅子に座っている茜の腿の上に座ってしまった。
茜はすかさずフェンスに向かって走った。
車椅子はフェンスにぶつかった。
妨害者は、車椅子から離れるため、フェンスに上がった。
茜はそれを狙っていた。茜は妨害者を押し上げた。
妨害者はフェンスを越え、そのまま落下した。
屋上は7階の高さがあった。
妨害者は、地面にぶつかった。