亜矢子
これまでの発狂者
老婆
孫が感染したことで発狂。感染者に殺害される。
妨害者
正体不明の殺人鬼少年。顔を包帯で隠し、つるはしで信二達を殺そうとしたが、感染者に襲われ、生死不明。
「畜生!暗いな!」
信二達は、5階の廊下に居た。懐中電灯がなければ、進めない暗さだ。それに殺風景だ。幸い、信二達は懐中電灯を持参していた。茜には、廊下にあった非常用懐中電灯を渡した。
いくつもの病室の扉が閉まっていた。どれも、窓部分に鉄格子が取り付けられていて、まるで重大犯罪者が閉じ込められているようだ。
ここは明らかに危険な患者と閉じ込めるための階だった。
狭い廊下だったが、エレベーターのすぐ横に、オフィスと書かれた部屋があった。
中は意外に広く、大量の資料が散らばっていた。
机の上には、パソコンが置いてあり、画面には1部屋1部屋の映像が映っていた。
部屋の中心にあるテーブルに1つのファイルが置いてあった。
立花はファイルを取った。
「読んでくれ」
立花はファイルを読み始めた。
「鬼塚亜矢子12歳。心臓を患ったため緊急入院。心臓移植後、症状は良くなっていったが、人形などの破壊行為、他者をおもちゃと見なす精神、他者を傷つけることに喜びを感じる等、精神的に問題が発生、緊急隔離の措置を取った。なお、15歳未満の入院患者を見せたところ、3人の少女を気に入った。1人目は足立良子、壊し甲斐ある、2人目は小野翼、彼は脳に障害を持ってるため、彼のリアクションが受けるなどの問題発言した。3人目は相沢茜、先の2人と違い、彼女との面識はないと判明。気に入った理由は、一目惚れだと。彼女の精神は完全にサイコパス化しており、精神治療を受ける必要がある。なお、彼女の父親は暴走族だと判明、彼女の異常な性格が家庭環境に原因があると思われる」
信二は聞き終えた瞬間、一瞬恐怖に襲われた。俺の妹に一目惚れだと!?ふざけた患者だな。
ふと、信二は全員の顔を見た。
「茜はどうした?」
いつの間にか、茜が居なくなっていた。
「そういえばいない」
「どこへ行ったのかしら?」
まさか……な……いや、もしかして―――
茜は目を覚ました。そこは、見知らぬ部屋だった。学校の教室くらいの広さはあったが、天井には傷だらけのマネキンや人形がぶら下がっていた。
「目、覚めた?」
茜はベッドに寝かされており、ベッドの横に、見知らぬ少女が座っていた。
肌は白く、髪は長く生えており、顔は少女らしい可愛らしさがあった。声も幼い甘えん坊らしい声だった。ただ、唯一おかしい所といえば、目が猫のように黄色だった。ピンク色のワンピースを着ていた。
「ふふふ、実際に見ると可愛い子ね、うん」からかうような口調で言った。
茜は恐怖よりも不思議さを感じた。この少女から人間らしい生気が感じられなかった。
「あなたは誰?」
「あたし?そう……あなたはあたしを知らないのね。でも、あたしはあなたを知ってる」
「会ったこともないのに?」
「あいざわあかね、それがあなたの名前でしょ?」
茜は驚いた。と言うより喜んだ。
「すごい!よく知ってるね。私、病室からあまり出たことないのに!どうやって分かったの?」
「ふふふ、ひ・み・つ」
茜ははっと思い出した。
「私、どうしてここにいるの?」
「あたしが連れてきたの」
茜は驚いた。と言うより不思議に思った。
「どうやって?」
「あなただけ廊下にいたから、後ろから、睡眠薬を染み込ませたハンカチを口につけて眠らせたの」
「睡眠薬?」
「眠れる薬のこと」
少女は、薬の入ったビンを見せた。
「そういえば、あなたの名前は?」
「亜矢子」
「苗字は?」
「教えたくない」
茜は首を傾げた。「なんで?」
「だって、苗字を馬鹿にされたことあるから」
「私は馬鹿にしない」
「本当に?」
「うん」
「約束する?」
「うん」
「あたしの苗字は鬼塚」
「おにつか?どこがおかしいの?」
「鬼塚の鬼は、桃太郎に出てくる鬼と同じだって言われた」
「血から強そうでいいじゃん」
亜矢子はくすくす笑った。
「やっぱり、思ったとおりの性格ね」
「何が?」
その瞬間、マネキンのひとつが動いた。
「ちょっと黙らせてくる」
亜矢子は鋏を持って、マネキンの所へ行った。茜は動いたマネキンを良く見た。その時は、冗談抜きで驚いた。動いたのはマネキンではなく、裸の若い女性だった。女性は、両手を縄で縛り付けられていて、宙吊り状態だった。全身に沢山切り傷があり、どれも痛々しいものだ。
他にも3人、若い女性が両腕を縛られ、宙吊り状態になっていた。
「その人たちは?」
「あたしをいじめてた看護婦。ちょっと懲らしめてるの」
亜矢子は、鋏で、若い女性の右乳首を切り落とした。女性は、絶叫を上げた。だが、口をガムテープで塞がれているため、声はあまり出なかった。
茜は自分の右胸を両腕で抑えた。「なんで看護婦さんをいじめるの?」
「あたしをいじめた仕返し。正直見てて気持ちいいのよね」
亜矢子は、鋏で椅子に縛られている看護婦の喉に突きつけた。
「やめて!!」茜は思わず叫んだ。
亜矢子は不思議そうに茜を見た。亜矢子にとって、殺しを静止させた茜がおかしくて仕方がないのだろう。「なぜ?赤の他人でしょう?」
「でも、でも、人殺しは良くない、と思う」
「あのね、今は人々が次々と殺人鬼に変貌してるの。この人達だってそうなるかも。そうなる前に殺す、いわゆる、正当防衛って奴よ」
「せいとうぼうえい?」
「相手が殺しに掛かって来る時、自分の身を守るために殺すことよ」
亜矢子は、鋏の刃で、椅子に縛り付けている看護婦の首を切り裂いた。首の皮が引き裂かれ、筋肉が露出した。
「う~ん、まだまだね」
亜矢子は深く首を切り裂いた。首から大量の血が噴出した。
茜は吐き気に襲われた。動脈を切られた看護婦は約3秒で意識がなくなった。
「人の体は不便よね。動脈を切ったら3秒で意識がなくなるんだから」
亜矢子は、水道に行き、鋏に付いた血を洗い流した。
そして、茜の方向を見た。
「あかねちゃん、一緒に遊ぼっ。おもちゃで遊ぶ?」
茜は顔を覆い隠しながら聞いた。「おもちゃ?」
「看護婦のことよ」
茜は怒りと恐怖に支配された。「人をおもちゃにするなんて!あなたは、えっと~悪魔よ!」
亜矢子は微笑んだ。「お父さんが言ってたよ。人間の本質は悪魔と変わりないって」
そして、鋏を力一杯握った。
「なら、鬼ごっこしよう。あたしが鬼ね」
亜矢子は目を瞑った。
「い~ち、に~い、さ~―――」
茜は危機感を感じてベッドから立ち上がろうとした。だが、長い間ベッドの上で寝ていたため、歩く感覚を忘れていた。茜は立つこと出来ず、床を這いずりながら出口を目指した。
「よ~ん、ご~お、30秒数えるよ?」
茜は手を思いっきり伸ばし、ドアノブを捻ってドアを開けた。ドアを開けた先には、学校の理科室のような風景が広がっていた。沢山の縦長テーブルが並んでおり、テーブルの上には薬品が入った試験管がずらりと並んでいた。
「にじゅう!にじゅういち!にじゅうに!―――」
茜は残り時間で部屋から出ることは不可能と判断し、近くのテーブルの下に隠れた。
「30!もういいかい?」
答えたらこちらの位置を悟られるため、答えなかった。
「じゃあ、いくよ」
茜は両手で口を塞いだ。足音が近づいてくる。
「あかねちゃ~ん、どこ?」
鋏の音が聞こえた。
足音が止まった。
神様お願いします、どうか見つかりませんように!茜は心の底から願った。
亜矢子は再び歩き始めた。
ほっと安心した
そして、理科室の扉が開き、亜矢子が出て行くのを確認した。
茜は、テーブルから出た。
そして、亜矢子が出た出口から廊下に出た。
廊下は暗く、狭かった。
茜は座り込んだ。
早くお兄ちゃん来ないかな?それにしても、この病院は怖いわね。
茜は、廊下の奥から来た。
「あやかちゃんじゃない人こないかな?」
そう願った瞬間、聞き覚えのある音が聞こえた。
何か、硬くて重いものを引きずる音が、廊下の奥からする。
茜は音のする方向を向いた。
音の主が、姿を現した。
妨害者だった。感染者との交戦を逃れ、はるばるこの階に来たのだ。つるはしを持って……
妨害者はつるはしを引きずりながら、茜に近づいた
ドアを閉め、鍵を掛けた。
そして、亜矢子と出会った部屋の戻った。
ここのドアも閉め、鍵を掛けた。
そして、ベッドの下に隠れた。
理科室のドアが壊れるの音を聞いた。
その数十秒後、亜矢子の部屋の扉が壊れ始めた。
神様!仏様!天使様!お兄ちゃん!助けて!
ドアが壊れた。茜は口を塞いだ。
妨害者は室内に入った。
茜の隠れてるベッドを素通りし、宙吊りの看護婦に近づいた。
看護婦達は、悲鳴を上げた。妨害者は、つるはしで、看護婦の1人の腹を刺し、引き裂いた。胃や腸が露出し、大きく裂けた腹から垂れ落ちた。
妨害者は、2人目に近づいた。今度は背骨を砕いた。
3人目は、滅茶苦茶に刺した。
茜は見てないが、音を聞くだけで吐き気に襲われた。
音が止んだ。
もう行ったのかな?
そう思った瞬間、妨害者が、ベッドの下を覗き込んだ。
茜は思わず悲鳴を上げた。
妨害者は、腕を伸ばしてきた。
茜は奥に詰めたが、とうとう、妨害者に腕をつかまれた。
そして、引っ張り出された。
茜は、短い人生の終わりを悟った。
【追加登場人物】
鬼塚亜矢子
職員から問題視されていた少女。性格は残酷かつ攻撃的。精神異常者であって、発狂者ではない。