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感染者の沈黙  作者: 原案・文章:岡田健八郎 キャラクターアイディア:岡田健八郎の兄 
感染
21/84

老婆

信二は玄関を開けようとした。

「どこへ行くの?」

立花がいつの間にか後ろに居た。

「……病院…だけど?」

「じゃあ、私も行く」

信二は驚いた。

「危ないぜ、外は感染者だらけだ」

「感染者なら、嫌ってほど会ったから」

信二は困った。こいつは案外頑固だからな。

「よ、お二人さん」

2人は声の主を見た。真人だった。

「2人でどこへ行くんだ?」

「病院」

「丁度いい、実は俺達も病院へ行く必要があるんだ」

信二は驚いた。

「どういう意味だ?」

「実はクラスメートの何人かが高熱を出して。この学校の保健室には薬がないからね」

なるほどね。

「なら、俺が行くついでにとってきますよ」

「1人じゃ危険だ。1人より2人。2人より3人の方が心強い」

「でも……」

「大丈夫だ。足手まといにはならない」

信二は立花を見た。

「どう思う?」

「彼の言い分にも一理あるわ」

信二は決心した。

「分かりました。けど、僕は足手まといだと思ったら捨てますから」

「上等だ」

3人は玄関を出て、校門を通った。

外は驚くほど沈黙を守っている。

「静かだな」信二はつぶやいた。

「感染者が全員殺されたのかしら?」

「あるいは狙撃手が全員死んだか」

信二は歩き始めた。

「どこの病院に行くんだよ?」

「黙って付いて来い」

2人は信二に付いていった。

それにしても本当に静かだ。嵐の前の静けさか?

だが、沈黙を破る声が聞こえた。

この声は老婆か?

信二は、声のする方向を向いた。

1人の老婆が、自宅の玄関の前をほおきで掃いていた。

「幸せは~歩いてこない♪だ~から、歩いてゆくんだね~♪」

信二は信じられなかった。この老婆正気か?

「2人との隠れてろ」

2人は近くに停車していたワゴン車と壁の間に隠れた。

信二は老婆に近づいた。

「おばあさん、何してるんですか?」

「何って、見てのとおり掃除だよ!」老婆は大声で怒鳴った。

「おばあさん落ち着いて!大きな声を出さないで!」

「うるさい!掃除の邪魔をするな!」

老婆は、ほうきで信二を叩いた。

「おばさんやめて!」

その時、恐ろしい奇声が聞こえた。

信二は奇声のする方向を向いた。

感染者7人が奇声を発しながら走ってきた。

信二は玄関のドアが開いていることに気づいた。

「2人とも!来い!」

2人は玄関から老婆の家に入った。

信二もドアの前に立った。

「おばあさん!早く入って!」

老婆は鼻歌しながらほうきを掃いた。信二は老婆を連れ込もうとしたが、もう目の前まで来ていた。

信二はすぐに玄関のドアを閉めた。そして、覗き穴で外の様子を見た。

感染者が老婆を取り囲んで殴る、蹴るなどの暴行をしていた。

「あんた達!何様のつもりだい?やめなさい!やめて!やめておくれ!」

倒れこんだ老婆をまだ感染者は蹴っていた。

そして、1人の感染者が老婆に乗っかり、首筋を噛み付いた。

老婆は絶叫を上げた。

感染者達はドアを向いて、体当たりを始めた。

信二はドアの鍵を閉め、チェーンをかけた。

階段を駆け上がり、2階の部屋に入った。

部屋には2人が居た。

信二は部屋のドアを閉めて、鍵を閉めた。

「信二君どうしたの!?」

「感染者だ!」

「数は?」

「7人」

信二は、ドアの横に棚があることを気づいた。タンスを倒し、ドアのバリケードにした。

何分経っただろうか・・・

玄関を叩く音が聞こえなくなった。

「あきらめて帰ってくれたかな?」

信二は、タンスをドアから退け、廊下に出た。

「もう安全だ」

2人はほっとした。

信二は、部屋の横にもう1つ部屋があることに気づいた。

その部屋のドアを開けてみた。

部屋の真ん中に、少年が椅子に縛られていた。

「大丈夫か!」

信二が駆け寄ってみると、少年が顔を上げた。

目は赤かった。

少年の足元に、ノートが落ちていた。

小学2年生。俺より年下じゃないか。

少年は奇声を発した。

なるほど、状況が読めた。こいつは、あの婆さんの孫か何かで、孫が感染したことで、発狂したんだ。

信二は、静かに部屋を出て、ドアを閉めた。


2人は、庭の物置に居た。

「すげーな、これ」真人はナタを出した。

立花は、アイスピックを取り出した。

信二が、物置に着いた。物置の中には、斧や鋤やなどがあった。

信二は斧だけをもらった。

立花は、リュックに缶詰などの食料を詰めていた。

信二は、包丁をベルトに挟んだ。「じゃあ、そろそろ行くぞ」

そう言って玄関に出た。玄関前では、老婆が首から大量の血を流して死んでいた。

真人と立花が後から出てきた。

「じゃあ、行こうぜ」真人は陽気言った。

緊張感のない奴だな。頼りになるだろうか?


 信二達は、目的地である病院に着いた。

「不思議だな」

「何が?」

「ここまで来るのに感染者と一回と出会わなかった」

「運が良いな」

「そういう問題かな?」

信二は2人を向いた。「じゃあ、2人は薬を集めて」

「あなたは?」

「病院内を探索してくる」

信二はそう言って、個室棟に向かった。

そして、ある病室に入った。

病室内には誰も居なかった。

「やっぱりな」

信二はそう言って、病室を出ようとした。だが、物音がした。

信二は振り向いた。ベッドの下から何かが這い出てきた。

「お兄ちゃん!」

茜だった。

「茜!」

信二は茜をベッドに寝かせた。

「どうしてまだここに?」

「変な兵隊さんが皆を連れて行くから、怖くなってベッドの下に隠れたの」

安心するべきだか、しないべきだか?

「歩けるか?」

茜は立ち上がろうとしたが、すぐに倒れた。

「いつもベッドに寝てたからな」

信二は、茜を抱きかかえた。廊下を出ると、車椅子が丁度目の前にあった。

「こいつはありがたい」

「うん」

信二は茜を車椅子に座らせた。

「じゃあ、行くぞ」

そう言って車椅子を押した。

しかし、自衛隊の連行に逃れたことで安否の確認が出来たのは安心できたが、危険極まりない街に残されたことで余計心配だな。複雑な気分だ。

2人がやって来た。

「信二、そいつ誰だ?」

「俺の妹だ」

「これが、病院に行きたがっていた理由ね」

「相沢茜です。よろしくお願いします」

茜は礼儀正しく挨拶した。

「自己紹介する状況じゃないが、俺は安藤真人」

「立花裕香、よろしくね」

「じゃあ、学校に―――」

信二が言い終える前に、何か鉄のような物を引きずる音がした。

廊下の奥からだ。

音が段々近づいてくる。

3人は武器を構えた。

音の正体が現した。

つるはしだった。つるはしを持った少年・・・と思う人物が信二達に近寄った。

夏用のポールシャツを着て、黒い制服のズボンを履き、頭を包帯で肌を露出しないくらいに巻いていた。

「何だよ……あいつ」真人はつぶやいた。

つるはしを持った少年が、人間か感染者か分からない中途半端な奇声を上げながら、信二達に向かって走った。


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