選別不能
【追加登場人物】
相沢信也
信二、信一、茜の実の父親。陸上自衛隊に入隊しており、階級は陸将。冷静冷酷。
織邨直人
陸上自衛隊天才狙撃手。階級は1等陸曹。
山根冬樹
陸上自衛隊ヘリコプターパイロット。専用ヘリはニンジャ。
織邨直人は、20階建てマンションの屋上から対人狙撃銃レミトンM24SWSのライフルスコープで地上を覗いていた。
『まったく、つまらない戦闘だぜ』
同僚の声が無線から流れた。
「かったるい訓練よりましだろ?」
直人はそう返事した。
『だけどよ、ずっと狙撃銃で地上を見張ってると、訓練の方がましに思えてくる』
いつもは、訓練よりじっとしてるほうがいいって言ってるのにな……
「そんなに敵がほしいなら、俺の場所の正面にあるマンション13階の一番端の部屋を見ろよ」
しばらく沈黙が続く。
『あのデブオナニーしてやがる!』
無線から同僚の声が響いた。
すると、別の同僚の声が流れた。『マジかよ、俺達が汗流して皆から狂暴な男達から街を守ってるのにね』
また別の声が。『なら、あのデブの1発撃ちこみましょうか?』
「よせよ、裁判所に送られるぞ」
『心配しないでください先輩。凄腕弁護士を雇いますから』
『そんな金あるのかよ?』
『おい皆、また外出している奴が居る』
『どこだ?』
『直人のマンションから見て、12時の方向の駐車所に止めてある車に隠れている』
直人は面倒くさそうに見た。確かに男が居た。
「本当だな」
『ちゃんとテレビとラジオで外出禁止令を出したから、あいつは感染者だな』
『直人、お前の獲物だ。手柄は譲るよ』
直人はスコープで外出者の顔を見た。普通の顔だ。
「あいつは感染者じゃない。撃ったら裁判所行きだ」
『マジかよ!未感染者かよ!つまんね~な!』
『お前は人を殺したいのか?』
『先輩、悪趣味ですね』
『うるせー!!』
直人は呆れて笑った。
「1発脅してみるか?」
『おう、やってくれ』
直人は1発撃った。銃弾は男の足元のコンクリートに当たった。
男は一目散にどこかへ逃げた。
『ははは!あいつだせ~』
『確かに今の逃げる姿は傑作だな』
『吹いてしまいました』
すると、また別の声が聞こえた。
『よう、直人。お前が良く見えるぜ』
「山根か!今どこだ?」
『上を見ろ』
上空を見ると、UH-60JA愛称ブラックホークが飛んでいた。
「お前の愛車は今日も元気だな」
『ああ、このプロペラが人を切り裂きたいって俺に泣き叫んでるぜ』
『こえ~』
『てか、どうやって引き裂くんだ?』
『やろうと思えば出来るんじゃないですか?』
直人は苦笑いした。だは、さっきから不思議に思うのだが、なぜ、ずっとこの地区は沈黙を守っているのだ?不気味なくらい静かだ。
『そういえば……』
「どうした、山根?」
『大勢の市民がどこかの小学校の体育館に逃げ込んだってな』
「今は関係なし」
直人は狙撃銃で正面のマンションの一部屋一部屋を覗いた。
この部屋は留守かな?
お、隣の部屋は若い男女が熱い性交をしてるな。
隣は勉強中。
その隣は着替えている。スカートを脱ぎ、下着姿だ。ブラジャーをはずそうとしてる。早く!早く!
だが、直人は覗くをやめた。かわいそうだ。そっとしておこう・・・
すると、無線から焦った同僚の声が聞こえた。
『おい皆!大勢の市民が走ってくる!』
同僚の言うとおり、大勢の市民が無茶苦茶に逃げていた。
よく見ると、血まみれの市民も何人か居た。
『みんな聞け!市民が避難していたどこかの体育館で感染者が出てきたらしい!』
無線から、司令部の男の声が流れた。
『全狙撃手に告ぐ!真紅計画第2段階実行だ!感染者のみを狙撃しろ!非感染者や味方は撃つな!』
直人は狙撃銃を構えた。
大勢の市民の中から、目の赤い市民を見つけた。そして、狙いを定め、引き金を引いた。
銃声が響くと共に、感染者の頭部から血と肉片が飛び散った。
「1人射殺」
他の狙撃手も銃撃を開始した。
『2名殺した!』
『こっちは3人だ!』
『4名射殺』
『まだまだ獲物は沢山居るぜ!』
『いいから撃て!』
直人は2人目の感染者を見つけた。そして撃ち殺した。
「2人射殺」
『5名射殺!』
『先輩!あなたは未感染者を撃ったんですよ!』
銃声が少なくなってきた。
『くそ!どれが感染者か分からない!』
『早く撃て!感染者が増えてるぞ!』
大勢の狙撃手は撃ちまくった。だが、撃たれた市民の中には、未感染者が紛れていた……
作戦司令部にて信也は狙撃手の会話を聞いていた。
『誰が感染者だ!』
『市民が多すぎる!』
『駄目だ!狙いが定まらない!』
司令部のモニターに、街中の監視カメラの映像が流れてきた。
映像には、逃げ惑う人々と感染者が映っていたが、どれが感染者か見分けが付かなかった。
「全狙撃手、なぜ発砲しない?」
『どれが感染者か分かりません!』
選別が困難になっているのか……なら、こういうときのための措置は1つ……
信也は口を開いた。
「総員に通達せよ、目標の選別を中止。地上の全市民が目標だ」
現地隊員に指示を出す自衛官が戸惑った。「それって、あの―――」
信也は冷静な声で言った。「もう1度言う。選別中止。全市民を射殺せよ」
「それって、あの―――」
「もう1度言う。選別中止。全市民を射殺せよ」
「それって、あの―――」
「早くしろ!!」
「り、了解!」
自衛官はマイクを握った。
信也はその様子に満足した。
『全狙撃手に通達。目標の選別を中止、地上レベルの全市民を射殺せよ』
直人は耳を疑った。選別中止って、まさか・・・
「もう1度お願いします」
『繰り返す!地上の全市民が目標だ!例外はなしだ!繰り返す!例外はなしだ!』
「それって無差別発砲じゃないか!!」
直人は狙撃銃を構えた。俺は目標を選別する!
だが、市民が多すぎて、感染者が見つからなかった。
同僚の声が無線から流れた。
『直人!なぜ撃たない!無差別発砲しろと命令されたろ!?』
「俺達は自衛隊だ!軍隊じゃない!」
『甘ったれるな!こっちの命が危ない!』
直人を除く全狙撃手が発砲を始めた。
直人は感染者を発見した。
「見つけたぜ」
感染者を射殺した。
逃げ惑う女性が見えた。何してる?早く逃げろ!そう心の中で叫んだ。
だが、女性の後頭部から血が噴出した。
直人は驚いた。
何してるんだ!彼女は感染者じゃないんだぞ!
よく見ると、感染者、非感染者関係なく、次々と人が撃たれている。
直人はスコープで感染者を探した。
すると、1人の幼女が見えた。制服を着ているから幼稚園児だな。
幼女は自分の家族を探しているかのように彷徨っていた。
幼女めがけて感染者2人が走っていた。
危ない!そう思った直人は反射的に引き金を引いた。1人死んだ。
もう1人も即座に射殺した。
直人は狙撃銃で幼女を探した。
「居た!」
幼女を発見した。
と同時に幼女の頭が撃ちぬかれた。
直人は思わずスコープから目を離した。
地上では、銃声と共に次々と市民が射殺されていた。
まるで戦争のように・・・
『本部!本部!俺は弾薬が尽きそうだ!』
『弾丸が持たない!』
『市民が多すぎる!』
『了解、GH-47J/JAを飛ばす。撤退の準備をしろ』
撤退用のチヌークが来るって?
数分しないうちに6機のチヌークが飛んできた。
『こちらチヌークパイロット。着陸の場所を確保してほしい』
『了解、では広場の感染者を射殺する』
銃声と共に、マンションとマンションの間にある広場の市民が射殺されていった。
『こちらチヌーク。着陸する』
チヌークは着陸し後ろのハッチが開いた。
狙撃手達が次々とチヌークに乗り込んだ。
『これで全員か?』
『まだ1人足りない』
『直人!返事しろ!直人!』
直人はあえて返信ボタンを押さなかった。
『まずい!市民の軍勢が来る!離陸しろ!』
チヌークは離陸し、上空へと飛んだ。
真人は、目の前に広がる死体の山を見て絶句していた。
「畜生!何が自衛隊だ!そこらの軍隊と変わらないじゃないか!ここが本当に日本か!!」
すると、1人の少女が目に入った。白いワンピース姿の少女。何かを求めるかのように走っていた。
「……美人だな……」
真人は屋上から1階に降りようと、エレベーターに乗った。
まだ生存者は大勢居るはずだ。彼らを見殺しには出来ない。
そう思って、彼は生存者を求めて1階を押した。
「負傷死者は?」信也は自衛官に尋ねた。
「行方不明者が1人」
「誰か分かるか?」
「織邨直人1等陸曹です」
信也は少し失望した。彼はかなりの天才狙撃手だ。彼を失ったことは大きい。
「まあいい。真紅計画第3段階実行の準備をしろ」