あなただから話せること
真人は国語の授業を受けていた。後ろでは聖夜が不機嫌そうにペン回していて、隣では真斗が真剣にノートを書いていた。まったく、いつも通りだな。唯一変わったこと言えば、信二君と真希がお互いに分からないことを教えあっていた。楽しそうだな・・・
遂に授業が終わった。もうすぐお昼ご飯だ。楽しみだな。
スライドドアが開き、誰かが入ってきた。
「よう!真人」
「尾田か」
尾田は今日も赤いコンタクトレンズをしていた。
真人はいい加減呆れてきた。「その悪趣味なコンタクトはずせよ」
「ああ、悪い悪い」そう言いながらはずさなかった。
「今日は妙に機嫌がいいな」
「実は、学校の登校中に女の子とすれ違ったんだ」
聖夜と武田とトリエンが近づいてきた。
「どんな女の子?」トリエンは興味津々だった。
「白いワンピースを着た外国人。同年齢だと思うけどその子無茶苦茶美人で思わず見とれちまって」
トリエンは羨ましがった。「いいな~俺も会いたい」
聖夜も珍しく興味津々だった。「言葉で表すとどのくらい美人だ?」
「綾瀬さん以上だよ!!」
綾瀬は勢い良く席を立った。「私以上ですって!?」
「ああ。そうだな~お前を言葉で表すと天使、だが俺が今日会った人を言葉で表すと女神」
綾瀬は明らかに苛立った。「お前の目は節穴か!何ならなぜ同年齢の奴が学校サボってるんだ!ああ」
「す、すいません」
女子ってこえ~。真人ははっきりそう思った。その瞬間、何者かに肩を竹刀で叩かれた。
「いてえ!」
「隙だらけだぞ」
「奈々子!いい加減にしてくれ!」
奈々子は余裕な顔を見せた。「いい加減にしてるぞ。本気で叩いたら肩が外れる」
「五右衛門!真の武道の道を教えてやれ!」
「油断は死を招くぞ」
畜生!何で俺の友人はろくなのがいないんだ!?
真人は真斗を見た。微かだが笑っていた。
「黒崎真斗!人の不幸を笑うな!」
「……ごめんなさい……」少し泣き目だった。
「い、いや俺が悪かった。ごめん・・・怒鳴ったりして」
聖夜は上機嫌になった。「おっと、真人が女を泣けせている。これはどう思いますか、大佐?」
「紳士として最低だな。真人」
真人は焦り始めた。「悪かった!俺が悪かった!」
またスライドドアが開いた。
真希が開けた主を見た。「小島ちゃんがアメリカ旅行から帰ってきたニャ♪」
全員、驚いた。
真人は小島香美に話しかけた。「香美、帰国はもう1ヵ月後じゃなかったけ?」
「予定が変更になって、今日になりましたわ」
小島香美は美しく長い黒髪を持ち、アイドルスターのように愛くるしい容姿で、中学生らしからぬ威圧感があった。
彼女は信二に気づき、近づいてきた。
「あなた、転入生?」
「はい」
「わたくしは小島香美ですわ」
信二はこういうタイプの女性は苦手だ。たぶん
「わたくしが友達になって差し上げますわ」
信二は耳を疑った。「今何て?」
「この学校でエリート中のエリートであるこのわたくしが、あなたの友達になって差し上げると言ってるのですわ」
やっぱり苦手なタイプだ。今の日本は男尊女卑が弱まってきてるから、女子が段々生意気になってきてるんだよな。こいつも結構なんつーか、自信溢れすぎていて苦手だ。
あの申し出を断っておこう。「いえ結構です」
その瞬間、クラス中が「やっちゃったよ」と言うムードに包まれた。
「あっあっあなたねえ!?このわたくしの申し出を断ると!?」
「ああ」きっぱり言った。
「きい~~~!!なんと言う侮辱!屈辱!許しませんわ!」
香美は信二を引っかき始めた。
「やめろ!おかしいぞお前!」
真希は信二の腕を引っ張って、廊下に逃げた。
「待ちなさい!」
香美は信二と真希を追いかけた。「思いっきり逃げるよ!信二君!」
「は、はい!」
気づけば小島は追いかけていなかった。信二と真希は屋上で休憩していた。
「彼女はプライドが高いニャ。プライドを傷つける言動は控えめに・・・」
「はい、以後気をつけます」
信二は、座り込んだ。
「それにしても君、逃げ足速いね」
「前の学校で散々逃げ回ったんです」
「一体何があったニャ?」
信二はしばらく考え込んだ。この人ならもしかして・・・
「秘密を守ってくれるなら、前の学校のこと話します」
真希は首を縦に振った。「秘密は漏らさないニャ」
信二は深く息を吸った。「僕は……」
次の言葉を出そうとするたびに、頭の中で恐ろしい奇声が聞こえた。
「大丈夫?」
「僕は……」
「深呼吸して」
「僕は……!」
「落ち着いて」
「僕は……元大羽中学校生徒です」
「………!!」真希は明らかに驚いていた。
「あの事件の生還者です」
「まさか、噂が本当だったなんて……」
「これから話すことは全部真実です」
「話して。あそこで何があったの?」
「感染と殺戮です」
信二は、立花の事を伏せながら、事件のことを話した。未知のウイルス、感染者、狂暴化、無差別殺戮、学校の秘密、友人の死・・・
聞き終えた真希はまだ全てを鵜呑みできなかった。「まさか……ね」
「今すぐ信じろとは言いませんが、事実です」
真希は眼鏡をはずした。「ちょっとショッキングだね・・・」
「ええ、とても」
「私以外に誰か話した?」
「まだ誰も」
真希は一瞬黙り込んだが口を開いた。「なぜ私だけに話したの?」
信二は答えた。「昔の友人に似ていたんです。外見的ではなく中身が。僕の最初の親友で、あの事件で何度も僕達を助けてくれた。けど死んでしまった……」
「理由はそれだけ?」
「後、僕に優しく接してくれたから。一番信頼できるから。だから、あなただけに話せたんです」
真希は眼鏡を掛けた。その瞬間チャイムが鳴った。
真希は信二に手を差し出した。「じゃあ、この事は他言無用でね。信二君」とても易しい声で言った。
「ええ、そちらもね」
真希は微笑んだ。「改めてよろしく♪」
「こちらこそ」
信二は手を握った。
本当に信頼できる、新たな親友ができた。