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【短編集】青春小説

金魚すくい

作者: 仁井暦 晴人

 去年の夏、金魚すくいで手に入れた金魚を水槽に入れ、出窓に置いた。

 全部で六匹いた金魚は全部死んでしまったが、中三になった俺は、今年は夏祭りに行くつもりはない。

 塾で志望校への合格診断をしたところ、俺は合格ボーダーラインなのだ。みんなが遊んでいる時間こそ、自分の勉強時間に充てないと志望校に合格できない。


 金魚すくいでゲットした金魚は全部で六匹だ。金魚を飼うにあたっては、水槽の底に敷く砂利やプラスチック製の水草、アクアポンプまで用意して、小指の先ほどの大きさの金魚たちがどこまで大きくなるのか楽しみにしながら、最初のうちは毎日観察していたものだ。

 その後、エサは毎日欠かさずやっていたが、いつ頃からか水を換えるのが面倒になり、週に一度だったのが二週間に一度、一か月に一度と、どんどん間隔が長くなっていった。


 汚い水の中で、最初の一匹が死んだ時には反省した。

 死んだ金魚を庭の土に埋め、それからしばらくは週に二度、水槽の水を交換した。

 しかしそれも長くは続かず、気付くと水を交換する頻度は再び月に一度に戻っていた。


 やがて半年が過ぎ、金魚は三匹に減っていた。

 だんだん、水槽を眺めることがなくなり、そこに金魚がいることを意識する時間がどんどん減っていった。


 先月、最後の一匹を土に埋めた。

 三匹目までは埋めた後に手を合わせていたような気がする。

 最後の一匹は、埋めるのさえ面倒に感じていた。


 歳の離れた弟と妹が一人ずついるが、小学生の彼らは夏祭りに行きたがるし、帰ってきてからも興奮して騒ぐことだろう。今年も金魚すくいに挑戦するだろうが、あいつらのウデでは金魚を一匹もゲットできず、必ずこういうのだ。

「お兄ちゃんが金魚すくいしてくれればよかったのに!」

 俺に気を遣った両親は、弟たちを祖父の家に連れて行き、今夜はそこで泊まるという。

 理想的な環境で勉強していた俺だが、夜中の勉強がはかどらず、こんなことなら夏祭りを覗きに行っても良かったかな、と思い始めていた。


 ぴちゃん。


 ああ、また金魚がはねている。

 いや待て。六匹とも死んだはずだ。


 おそるおそる出窓を振り向くと、片付けたはずの水槽の中、元気に泳ぐ金魚の姿が。

 目を擦った。

 再び目を懲らすと、出窓には風に揺れるカーテン以外、何もなかった。


 また、金魚すくいしてこようか。今度こそ、途中で飽きたりせず、きちんと面倒を見るから。

 ……いや。中三になった俺は、今年は夏祭りに行くつもりはない。

 俺は出窓に向かい、今はもういない六匹の金魚のために、手を合わせた。


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