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ピアス  作者: このごろ
3/3

ロブ

高木さんと連絡先を交換して、必要のないような内容のメッセージを送って、高木さんからの二言の返信に心臓が大きく跳ね上がった日から2週間が経とうとしていました。この2週間、私は本当に努力をしました。

あのメッセージを送って次の日、この日も私はシフトも入っていたので、バイト先に行くと、その日はなんと、高木さんのシフトが入っていなくて会えなかったのです。高木さんは毎日のようにシフトを入れていたので、まさか会えない日がある、なんて考えたことがなかったのでショックがとても大きかったです。

それから4日後、最後に高木さんに会った日から、一応、毎日、「今日は月が綺麗に見えますよ」とか、「今日はシフトが入っていなかったのに、散歩をしていたら、ばったり店長に会ったんです」とか、必要のないようなメッセージを送ったり、シフトが入っていなくても、何かをコンビニに買いに行ったりなど、高木さんと関わる理由を探して、見つけては行動するを繰り返していました。

そして今日はそんな4日間を過ごして、はじめて高木さんとシフトが被ってる日です。少し気まづい気もしなくもないですが、何より、理由がなくても高木さんに関われるという喜びの方が大きかったので、そんなことは気にせず、いつも通りコンビニに行き、コンビニに着いたら、店長と高木さんに「おはようございます」と挨拶をしました。

エプロンをつけて高木さんの近くに行きました。さすがに少し距離が近すぎて気まづい空気になってしまったので、私から口を開きました。「あのっ、」

「ん?」この1文字の返事にすら愛おしさを覚えます。

「っ、えっと、その、高木さんのお家ってここから近いんですか?」何を話そうか悩んだ私は焦りすぎて、少しプライベートすぎる話題を出してしまいました。

「うん。歩いて3分ぐらい」「へぇ、近いですね。私も歩いて五分ぐらいのところにあ住んでるんです。」「そうなんだ。」

私の家と高木さんの家の距離は遠くないとわかって、私はすごく嬉しい気持ちになりました。この日は、その嬉しさを糧に1日バイトを頑張って、家に帰りました。

それから次のバイトまで3日間あったので、その3日間は毎日また、必要のないような内容のメッセージを高木さんに送り続けました。

そしてバイトの日。また私は高木さんの近くに行きました。すると今度は高木さんから話しかけてくれました。

「佐々木さんさ」「はい」

「最近ピアス開けてないでしょ」「え?」「え?開けた?俺の見間違い?」「いやっ、開けてないです」

そうなんです。ついこないだまでは、どうにも言葉にも表せないような気持ちを心に抱える度にピアスを開けていましたが、最近は、高木さんにアタックすることで心が満たされているのか、そんな気持ちを抱えることが少なくなり、ピアスを開けていないのです。そんな些細なことに気づいてれた高木さん。この時、私は、高木さんはもしかして私のことが少し気になっているのかもしれない。そう思い始めてました。

「でも、そんな小さなこと、よく気づきましたね。」

高木さんは優しげ表情を浮かべ、「物体がいくら細くても、体に何かを刺すのは痛いからね」と言いました。こんな私の小さな変化、実の両親でも私がピアスを開けすぎてもう私がピアスの穴を開けても気づかなくなった私の変化、その変化を片思いしているこの人が気づいてくれた。その事実だけが本当に嬉しくて、私はこの人が好きだと再確認しました。そして、家に帰り、お風呂に入ってふと、鏡の中に映る自分の耳を見ました。いくら耳が腫れても塞ごうとせずに何個もピアスの穴を開け続けた耳、しばらく痛めつけることの無くなった耳、そして好きな人が小さな変化に気づいてくれた耳。私にとって、あの変化に気づいてくれたのは、私の心の穴にも気づいてくれたような気がして本当に嬉しかったのです。そしてもう一度耳を見ました。急に、その耳が痛々しく見えてきたのです。高木さんが折角、心の穴を埋めてきてくれているのに、私がピアスを外さない限り、決して塞がらない穴がたくさんある耳が痛々しく思えたのです。お風呂から上がるとピアスを全部外し、塞ぐことを決めました。

それから5日後、この日は珍しく、開店時間から閉店時間まで、1日中バイトの日でした。私はこの日、ある決断をしていました。それは高木さんが私の小さな変化に気づいてくれたあの日に決断したものでした。そう、高木さんに告白するのです。もう心臓が跳ねがる勢いで、口の中のすぐ側まで上がってきてしまった思いを伝えようとしていました。でも、今日のシフトは閉店までなので、閉店して帰る時に伝えようと思っていました。そんなことを考えてると、高木さんに声をかけられ、私の気持ちがポロッと落ちてしまいそうになりましたが、それをしっかり受け止めて振り返りました。「なんですか?」「ピアス、全部とったの?」「はい。なんかもういいかなって。」「そう」高木さんは今まで見たことのないような嬉しそうな顔、でもどこか静かで切なそうな顔で答えてくれました。やっぱり私はこの人のことが好きです。そんな、変化に気づいてくれるこの人のことがどうしようもなく好きです。

私の頭の中は好きという言葉で溢れかえり、お客さんが入電した時に、「いらっしゃいませ」ではなくて、「好き」と言ってしまいそうなほどになりました。早く閉店して高木さんに告白しないと、心臓と脳みそがもちません。私は一刻も早く、閉店の時間になることを願っていました。

それから閉店の時間までは、これから私は告白するんだという緊張と、溢れかえる思いとで、何をして過ごしたかは覚えてないいません。ただ、さっきまで遠く感じていたその時間にいつの間にかなっていたことを覚えています。私は締めの作業をし、エプロンを着替え、外で高木さんを待っていました。

店長はまだ店に残ってるようで、高木さんだけが、意外とすぐ出てきました。

「あれ?まだ帰ってなかったの?」「はい」「そっか、、お疲れ様」その言葉を待っていましたかと言うように私は高木さんを引き止めました。「あのっ、!」「ん?」「あの、高木さんのことが好きです。付き合ってください」ついに言えた2文字。私は達成感に満たされていて、その後の高木さんの返事なんて考えてもいませんでした。

私はふと高木さんからの返事がないことに気づき、少し高木さんの顔を覗きました。すると高木さんが口を開いてくれました。「あの、ちょっと考える時間、もらっても、いいですか?」私は告白をしたらすぐに承諾されるか振られるかの2択だと思っていたので思いもよらない返事にさっきまでふわふわしていた身体が急に地面に投げ落とされた感覚になりました。

「あっ、はい」私は少し気まずそうにそう言うと「じゃあ、お疲れ様」と言って高木さんは帰っていきました。

私はその後、当たり前だけど家に帰ったことしか覚えていなくて、その後の記憶は本当に覚えていません。

次の日、私は高木さんからの返事を待つようにしてずっとスマホをいじっていました。そしてある動画サイトを開き、動画の長さが短いものをほとんど流し見出みていました。何分くらいだったのでしょう。体感ではそんなに経っていませんが、そういう時こそ時間は経っているものです。私はある動画に目が止まりました。その動画は3年前の事件を詳しく解説している動画で、当時中学3年生の男子が当時高校1年生だった男女4人を1人は重傷、その他3人を殺したという事件でした。そこまではいつものように流すように見ていたのですが、私が目に止まったのはその後です。当時中学3年生だった犯人は普通顔写真は出ていないはずなのに、今の時代は怖いもので、そこには誰かが見つけ出した顔写真が写ってました。その顔写真がどう見ても高木さんにしか見えないのです。名前はさすがに誤魔化されていましたが、顔はどう見ても高木さんなのです。私は何度も自分の目を疑いましたが、何度疑っても、疑うほどその顔は高木さんなのです。私は動揺しました。

「私が好きだった人は元殺人犯だったの?私が昨日告白した人は人殺しだったの?」私は考えを巡らせました。けれど、高木さんがまだ高校3年生のはずなのに学校に行ってないところとか、他人から見えるか見えないかの瀬戸際まで伸ばした高木さんの前髪とか、毎日のようにシフトを入れて働いているところとか、元殺人犯だと言われると納得できるのです。

私は私の心の穴を埋めてくれた人を信じたくてその写真は自分の勘違いということで、自分の脳内で処理しました。けれど、ずっとそのことを考えてしまうのが人間で、私はその日、一晩中考えて、眠れなかったことを覚えています。

そして、今になります。私は何故かベッドから起き上がなくて、半分癖で半分習慣のような動きでSNSを開きました。この日は昨日のことがまた思い出すのではないかと、動画サイトを見るのが怖くて、友達としか繋がっていない、写真をアップするためのサイトを開きました。私は何気なく写真を流しながら見ていると、高校に入学してから3日程で会わなくなった友達が「彼氏が出来ました」とコメントをつけて彼氏との写真をアップしていました。

私は今、好きな人から告白の返事が来なくて苛立っているのに。私は今、好きな人が元犯罪者かもしれなくてどうしようもない気持ちに襲われているのに。私は今、好きだった人との日常や言動が信じられなくなっているのに。普通に学校似通っている子達は彼氏が出来て。

それは半分寂しさに似ている感情だったのかもしれません。私の心にはまたぽっかりと大きな穴が開きました。

そしてその穴を誤魔化すように私はまた、ロブといわれる位置にピアスを両耳に開けました。

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