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コミュニケーション塾

作者: 雉白書屋

「こんにちは! やっとお会いできましたね! とっても嬉しいです! さあ、はい!」


「こんにちは! やっとお会いできましたね! とっても嬉しいです!」「こんにちは! やっとお会いできましたね! とっても嬉しいです!」「こんにちは! やっとお会いできましたね! とっても嬉しいです!」


「私は日本人です! さあ、はい!」


「私は日本人です!」「私は日本人です!」「私は日本人です!」


「ぜひ、私と仲良くしてください! さあ、はい!」


「ぜひ、私と仲良くしてください!」「ぜひ、私と仲良くしてください!」「ぜひ、私と仲良くしてください!」


「欲しいものがあればなんでも言ってください! 喜んで差し上げます! はい!」


「欲しいものがあればなんでも言ってください! 喜んで差し上げます!」「欲しいものがあればなんでも言ってください! 喜んで差し上げます!」「欲しいものがあればなんでも言ってください! 喜んで差し上げます!」


「遠慮なさらず、ぜひ受け取ってください! お近づきのしるしです! はい!」


「遠慮なさらず、ぜひ受け取ってください! お近づきのしるしです!」「遠慮なさらず、ぜひ受け取ってください! お近づきのしるしです!」「遠慮なさらず、ぜひ受け取ってください! お近づきのしるしです!」


「地球はみんなのもの。同じ時を生きる私たちは仲間です!」


「地球はみんなのもの。同じ時を生きる私たちは仲間です!」「地球はみんなのもの。同じ時を生きる私たちは仲間です!」「地球はみんなのもの。同じ時を生きる私たちは仲間です!」


「はーい、オッケー! いい感じだねえ。じゃあ標語の発声はここまでにして、次は二人一組になってみようか。今日あったことを話し合ってごらん。楽しかったことでも、つらかったことでも、なんでもいいよお。構成は自由! 自分で考えてみよう! オチはあってもなくてもいいからね。じゃあ、始め!」


「はーい!」「はーい!」「はーい!」


 現代。この社会で生き抜くために求められる力は何か。武力か、学力か、それとも根性か――否。今もっとも重視されているのはコミュニケーション能力である。

 社会に揉まれ、誰もが遅かれ早かれ気づく。いや、認めざるを得ないのだ。人間関係を円滑にし、衝突を避け、集団の中で生き残るために必要な武器なのだと。

 そしてあるとき、『コミュニケーション塾』が誕生した。

 親たちは我が子の将来を案じ、こぞって入塾を希望した。


「おっとお! ティーチャー、うっかりしてたよ。てへぺろりーぬ! マグワンダスヌポポ! あははは!」


「あははは!」「あははは!」「あははは!」


 幼少期から基本的なコミュニケーションスキルを身につけ、社会に適応する力を養う。

 正しい挨拶と発声法、相手の目を見て話す訓練、丁寧語・尊敬語の習得。英語をはじめとする外国語の学習。声のトーンや間の取り方を学び、自己主張を抑え、相手に合わせる術を体に染み込ませていくのだ。

 演劇やロールプレイも導入され、子供たちは遊びの延長のように社会性を身につけていく。塾で学んだスキルはやがて、就職活動や職場、さらには国際舞台においても絶大な効果を発揮する。

 コミュニケーション塾が全国に広がってから数十年。今やこの国では、喧嘩やいじめはおろか、犯罪までもが減少傾向にある。

 かつてコミュニケーション能力は曖昧な評価軸で、持つ者が羨望されるだけの才能だった。しかし今では、歯列矯正や予防接種と同様に、幼少期から矯正すべき資質として扱われている。


「マーティンをオフにするのを忘れずに。地力を鍛えておくことが大切なのさ!」


「はーい!」「はーい!」「はーい!」


 AI搭載のイヤホン型会話補助機――『マーティン』。それは現代人にとって、なくてはならないツールだ。

 自動翻訳はもちろん、雑談の流れに沿った相槌やジョークまで熟知し、即座に会話の最適解を耳元で囁いてくれる。

 テクノロジーは弱者の味方であると同時に、弱者のままでいることを許さない。


「でもお……」


「ん、どうしたんだい?」


「先生はマーティンをつけてていいんですかあ?」


「はははは! おっと、これは痛いところを突かれちゃったね……なーんてね! ほら、先生の耳を見てごらん。何もついてないだろう?」


「ほんとだー!」「ほんとだー!」「ほんとだー!」


 最近では、“見栄え”を気にする人向けに、脳に直接埋め込む『ニューロ版』が登場し、人々は徐々に移行し始めている。


「よーし、今日の授業はここまで! いいかい、コミュ力は相手を気持ちよくさせるために身につけるものなんだ。そうすれば、相手も君を気持ちよくしてくれる。つまり、みんなが幸せになれるってことさ!」


「はい!」「はい!」「はい!」


「さて、いよいよだ……みんな、明日は何の日か分かるかなあ?」


「はーい!」「はーい!」「はーい!」


「ははは! 当然のトーリオだよね! じゃあ、せーので言ってみよう! せーの!」


「明日は地球に、ボノボブ星からの使者が来る日です!」


「ザッツラアーイト! ブバブスト! ハヌーン!」


「ハヌーン! マッカライチ!」「ハヌーン! マッカライチ!」「ハヌーン! マッカライチ!」


「いいねえ! みんな、ちゃんとボノボブ語を覚えてるじゃないか! 明日は塾生全員で現地に行って、お出迎えだ! 君たちの先輩にあたる日本政府の政治家の方々に、最高のコミュ力を見せてやろうぜ! さあ、みんな、言うべき言葉はもう分かってるよね? 順番に、さん、はい!」


「地球へようこそ!」

「ボノボブ星人と地球人は!」

「同じ未来を見ています!」

「私たちは仲間です!」

「私たちと仲良くしてください!」

「未来をともに拓いていきましょう!」

「地球はみんなのもの!」

「すべて差し上げます!」

「ぜひ受け取ってください!」

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