航路を決めろ
第6話
山の麓に着くと、なぜか警察がいた。
親が心配しすぎて、警察に相談→スマホの位置情報→警察麓付近をパトロール。
らしい。
蒼じゃなくて、やっぱり親と話すべきだった。
タクシー代わりにパトカーに乗せられ、最寄りの交番に連行。
親と「感動の対面」かつ、お叱りを受けた。
母親は泣きながら俺にしがみついて謝ってきた。
俺はアホだな。
母親をこんなに泣かせるなんて思わなかった。
蒼も俺もアホ。
中学生男子はみんなアホ。
いや、そうじゃないやつもいるか。
主語が大きかった。
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「ごめん、道に迷ってた」
言い訳にならない言い訳を言って、警察に頭を下げた。
それから両親と三人で家に帰った。
とりあえず、山はやめよう。
こんなに泣かせるべきじゃない。
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次の日にでも日向の家に行こうと思っていたが、疲れていたのか起きたら夕方だった。
リビングに降りていくと、テーブルの上にクッキーと小さなメモが置いてあった。
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「今日、引っ越しですって。
日向ちゃんが置いていったわ。
あんたを起こそうかと思ったけど、日向ちゃんがもう時間がないからって……」
母親が心配そうに俺を見上げた。
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「さんきゅー」
そう言って、クッキーの袋を開けて食べながらメモを読んだ。
母親はホッとした顔で「お茶入れるわね」とキッチンに向かった。
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『あんたが画像を消せって、怒ってくれたこと知ってた
ありがとう
多分二度と会わないけど、あんたはずっと友達
新しい学校で私は素敵な彼氏を見つけるから
あんたも頑張ってね
ばいばい』
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クッキーを食べながら泣いた。
初恋だったかもしれない女に、俺は二回も振られた。
そんな気持ちだった。
母親は何も言わずに、俺にお茶を差し出した。
クッキーとお茶を流し込んで、「寝るわ」と言って自室に戻った。
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次の日の朝。
俺は制服に袖を通して、リビングに降りていった。
母親は驚いた顔をして、
「先生に連絡しようか?」と尋ねた。
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「そんな大したことじゃないでしょ。
普通に中学生は学校に行きますよ?
来年は受験ですし」
適当に軽口を返す。
まだ三年生は在学中だ。
殴られるかもしれない。
助けるはずの姫様は、自力で逃げ出した。
勇者になれなかった俺だが、まあ教室の扉くらいは開けるべきだろう。
自分のために。
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「行ってきます」
家の玄関を開けた。
何があっても、好きな女に振られるほどのダメージは食らわないだろう。
そんな気持ちだった。