素直は最大の武器
第4話
ダムに向かう山道を歩く。
あのときは、先頭に先生がいて、周りに友達や日向がいた。
静かな山道をひとり進む。
何も話さないのが不自然なくらい、あの頃は一日中くだらない話をしていた。
2人でよく怒られたな。
山の中腹にある案内看板を見つめる。
昔はもっと大きく感じたのに。
体は大きくなったけど、できないことも増えた気がする。
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川沿いの道が薄暗くなる。
中学1年生の夏、花火大会の日を思い出す。
街を抜ける川沿いを、いつもの5人組で歩いた。
日向の浴衣姿を初めて見た。
可愛いと思った。
でも口から出たのは――
「気合入ってるー」
茶化した俺に、日向はむくれて黙った。
あのとき、部活の先輩に声をかけられて、日向と蒼は出会ったんだ。
……俺がキューピッドってわけだ。
蒼は、日向に「可愛い」を連呼していた。
周りの部活仲間は白い目で見てたけど、日向はどこか嬉しそうだった。
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ダムが近づく。
俺がずっと源流に立ち止まってる間に、
日向は蒼と一緒に川を下って、海まで行ってしまったのかもしれない。
気づけば、あたりはすっかり暗い。
着いたダムは、記憶の中ののどかな景色とは違って、
どこまでも黒い水面が不気味だった。
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ダムのそばの広場に腰を下ろす。
たぶん、小学校の遠足で弁当を食べた場所だ。
夜の闇を見つめながら、中学1年生の体育祭を思い出す。
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バスケ部の奴らが体育祭のバスケ決勝に出るって言うから、
暇な数人で試合を見に行った。
日向は一人で二階の観覧席にいた。
俺は仲間に断って、声をかけた。
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「おい、お前のクラス、決勝残ってないだろ?」
日向はちょっと恥ずかしそうに目を伏せた。
「彼氏の応援だよ。
言ってなかった? あの赤の10番が彼氏だよ。」
赤の10番――蒼だ。
「趣味わりー」
思わず口に出た。
日向は不機嫌そうに俺の頭をはたいた。
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「子供っぽくて、褒め言葉の一つも囁けない誰かさんよりは、
よっぽど良いわよ。
女心をわかってくれてるわ。」
日向は夢見るように蒼を見つめていた。
「お邪魔しましたー」
俺には茶化す言葉しか出なかった。
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どうしたら良かったんだろうな。
蒼が嫌な奴なのは知ってたよ。
でも――
あんな顔してる日向、初めて見たんだ。
何も言えなかった。
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ダムから聞こえる水音をかき消すように、
俺のスマホが鳴った。
取る気になれず、
「山奥でも電波あるの便利だな」
なんて、どうでもいいことを考えていた。