衝動は身を滅ぼす
第3話
酢を台所に置いて、自室に戻ろうとした時に、母親が問いかけてきた。
「直哉、あんた日向ちゃん引っ越すんだって。
知ってた?
まぁ仕方ないのかもねぇ
ここにいたんじゃ、噂は消えないものね」
知らなかった。
さっきもそんな素振りは一切無かった。
日向は俺に何も言わずに、消えるつもりだったのだろうか?
日向にとって俺は……
「直哉!?」
母親の声を背中で聞きながら、
俺は玄関を飛び出して、日向の家に向かって走った。
日向に引っ越しについてなんで教えないんだと、言うつもりだった。
でもさっき別れた角まで来た時にふと立ち止まった。
俺だって、何も日向に言ってない。
裸の写真をみたことも、
日向が生きていてくれて嬉しかったことも
「何のことだか」
って言って誤魔化して、顔も見れずに帰ったんだ。
俺は日向の家でも、自分の家でもない方向に、とぼとぼ歩き出した。
日向の顔を、見れなかったのは
俺を軽蔑の目で見る日向を見たくなかったからだ。
傷つきたくなくて、俺は逃げたんだ。
小学校の頃はそうではなかった。
俺は思ったことをすぐに言えた。
日向に対して、素直に可愛いと言えなくなったのはいつごろだろう?
小学3年生の頃までは、普通に言っていた気がする。
気恥ずかしくなったんだ、キザで気取っていて、嫌なやつだと、友達に思われたくなかった。
だから、似合わないとか、すげー変みたいなことしか言えなくなった。
小学生に戻りたいかもな、ブラブラと当てもなく遊歩道を歩く。
そういえばこの遊歩道の先は川の上流に続く道とぶつかる。
上流のダムは小学校の遠足の時に、一緒に登った思い出の場所だ。
思えばあのときが、一番日向と仲が良かった気がする。
ダムに行ってみよう。
唐突にそう思った。
夕方になる時間だが、今は日が長い。ダムに行って帰るぐらいできるだろう。
小学生の遠足でも行けるのだから。
俺は、特に理由もなく、ただなんとなくダムに向かって歩き出した。