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45時間 … 君を想う

伊織が決断してハチの元へ帰るまでのお話し

俺のことを焚き付けた2人には最後まで責任とってもらわないとな。


でも、ほんとどうやってハチに伝えよう…。

ベッドにゴロンと転がりながら考えるけど、疲れもあって頭が回らない。


明日のランチの時にでも相談するか。




「花束でも持ってストレートに告白したら良いんじゃない?」


「日本人はあんまりそういう事はしないんだよ…。っていうか、恥ずかしすぎる」


ディエゴが手に持ったフォークを振り回しながらドヤ顔をしているが、想像しただけで恥ずかしくなる。


ここ数日定番になっているトラットリアでランチをしながら話しを持ち出したが、俺は真剣なのにディエゴは明らかに面白がっている…。


まぁ、逆だったら俺も面白がっているだろうしな。でも、こっちは本当に悩んでるんだよ…。


「そもそも、向こうは伊織のことどう思ってるの?なんとなく分かるでしょ」


ディエゴとは反対にレオナルドは真剣に考えてくれる。


「う〜ん、ハチの家に同居してる時点で嫌われてはいないと思う。でも、ただ単に幼馴染としか思ってないのかも…」


「なるほどね。で、伊織はもう告白するってことは決めてるんだろ?」


「うん、もしダメでハチの家を出ていくことになっても、前の生活に戻るだけだし。それに、このまま隠して一緒に生活するのはキツイ…」


溜息と共に視線もまだパスタが残っている皿に落ちる…。

けど、もう食欲なんて残ってない。


「まぁ、そうだよね。となると、どう告白するか。やっぱり花束でしょ。って言うのは無しで…何かプレゼントするのは?アクセサリーとか」


花束に反応してディエゴを睨むと、レオナルドにウインクをする瞬間を目撃してしまった。イタリアの男の人がすると様になるのはなんでだろう…。


「それ良いね!今日の撮影が終わったらショップにおいでよ。プレゼント選び手伝うから」


え?俺が関係ないことを考えている間に話しが纏まってる?

でも、いいアイデアかも。


「アクセサリーか。アリだね!ありがとう、二人とも」




「アクセサリーって言っても色々あるから。とりあえず一通り見て気になるものがあったら言ってよ」


「ありがとう」


ハチに贈るもの…。ネックレス?指輪?うーん、ピアス…は穴空いてないし…。


スーツ着ないからカフスボタンやネクタイピンも無しだな。


キーリングに財布…。革製品もいいけど…う〜ん、やっぱり身につけられるものが良いよな。


店内を見て回っていると、ある一点に目が留まった。


「あっ、これ…」


ショーケースには赤、白、緑のコードが並べてあって、真ん中には石がセットしてある。

シンプルなんだけど不思議と目を惹く。


「レオナルド、これってこの組み合わせだけ?」


赤のコードには透明の石。ダイヤかな?

白のコードには緑色の石、緑のコードには赤色の石が合わせてあった。


「基本はその並べてある3色なんだけど、違う組み合わせが良いの?」


「真ん中の石を変えることって出来る?」


「オーダーもやってるから可能だけど、石はその三色以外は在庫を見てみないとなんとも…」


ショーケースの裏に周り、カタログを取り出し見せてくれる。

どうやらオーダーも受けているようで、ここに載っている石なら組み合わせられるみたい。


「これ、赤はガーネットか…。じゃあ…」


他になんの石があるのかを指で追っていく。


「あった…」


「そうそう。赤はガーネット、緑はペリドット、透明はダイヤ。って、アクアマリンか。ちょっと確認してくる」


俺の手元を見てニコッと笑うと、そのままバックヤードへ消えていった。



「お待たせ、あったよ。で、どう組み合わせたいの?早く取り掛からないとIORIが持って帰れないからね」


「コードは両方とも赤で、ガーネットとアクアマリンのものが欲しい。ガーネットの方をプレゼントにしようかと」


「了解。ねえ、IORI。組み合わせとか色々とこだわりがあるみたいだけど、何かあるの?」


レオナルドがオーダーシートを書きながら不思議そうに首を傾げている。


「あ〜…。そっか、日本だと『運命の赤い糸』って、相手とは小指と小指が繋がっているって言われてるんだ。で、石の色は誕生石」


「誕生石?それって確か…アメリカとかでもあるあれかい?」


「そうそう。日本でも各月にちなんで宝石が設定されているんだ。で、俺がガーネットでハチがアクアマリン」


「なるほど、そう言うことね。IORIってイタリア人並みにロマンチックだね」


書き終わったオーダーシートをヒラヒラと振りながら俺の顔を覗き込んでニヤッとしている。


「…そんなことは」


急に恥ずかしくなって視線を逸らす。それに、顔が火照っているような気がして余計に恥ずかしい。


「って、話し込んでたらダメだね。指定通りに作るよう頼んでくる。帰国するまでには渡せるようにしておくから」





最終日。飛行機の時間ギリギリまで撮影をしていて、ブレスレットのことはすっかり頭から追いやられていた。


「IORI、忘れ物ない?まぁ、あってもIORIならすぐに戻ってきてくれてもいいよ?」


帰りはどうしても外せない予定があるらしく、空港まではルチアが送ってくれることになった。


レオナルドとディエゴとはここでお別れだ。


「また来たいですけどね。勉強になったし楽しかったです!」


「こちらこそ、IORIを選んで良かったよ。次は東京で」


「はい、お待ちしております」


硬く握手をしていると、目の前に小さな紙袋が現れびっくりした。


「これを渡しておかないとね。私が最終確認したから大丈夫だと思うけど、IORIにも確認してもらって良いかな?」


「あっ!忘れてた」


それぞれの箱を開けると指定した通りの組み合わせで輪を描くように綺麗に収められていた。

片方を取り出し、早速手首に付ける。


それだけでまだ告白もしていないのに、ハチと繋がっている気がして顔がニヤける。


「レオナルド、ありがとう!こんなにも素敵なものがあれば絶対に大丈夫な気がしてきた」


「報告待ってるから」


レオナルドとディエゴにハグをして車に乗り込んだ。




「あ〜っ、やっと着いた」


無事着陸し、駐機スポットへ向かっている飛行機の中で大きく伸びをする。


アナウンスでは定刻通りっていっていたな。とりあえず無事に日本へ戻ってきてホッとした。


機内は降りる準備をする人達でザワザワとしている。


「とりあえず飛行機から降りたら荷物をピックアップするんだけど、その間に入国の手続きを全部済ませてゲートを通るだけにしておくこと」


「その辺りは大丈夫、昨日webで済ませたからQRコードを読み込ませるだけにしてある」


「その後は荷物の時間次第だけど、すぐに電車で品川まで移動。新幹線の中で番組の打ち合わせ。間に合わなければ電話でってことになってるから」


説明を聞いていて、ハチに会えるまでが遠いな…と大きな溜息が漏れた。


「聞いてる?」


「聞いてる聞いてる、大丈夫だって」


隣から大きな溜息が聞こえてくるが、スルーして降りる準備をするため立ち上がった。


流れに乗って飛行機を降り、無事に入国を済ませゲートを出てきた。


隣から「後5分」と聞こえ少し早足になるが、多分間に合うだろう。


「荷物に思った以上に時間取られちゃったわね。ギリギリ間に合うかどうか…」


「まぁ、なんとかなるって」


急ぎながらも会話をしてるあたり、お互い楽観主義というか何というか…余裕あるよな。




走れるところは走って、ようやく新幹線に乗れホッとした。

この荷物を持って走るのはかなり大変だったけど、隣の戸田はケロッとしている。


俺も結構鍛えてるんだけどな。


何気なくスマホを見ると…。


「え?これ、絶対に間に合わないやつじゃ…」


11時20分という表示を見て固まった。


「とりあえず打ち合わせもあるから、個室ブースに移動するわよ」


「ちょっとぐらい休憩させてよ…」


「打ち合わせが終わったらね」


「はいはい…」


戸田がノートPCを立ち上げ、瀬田から送られてきたアドレスをクリックする。


すぐに繋がった画面には満面の笑みの瀬田が映し出された。


「IORIさん、多分間に合いませんよね」


「瀬田くん、挨拶より先にそれ?」


久しぶりのやり取りに日常が戻ってきた感じがして嬉しかった。


「IORIさん、お帰りなさい。無事に帰ってきてくれて良かったです」


「ただいま。なんか久しぶりに瀬田くんの顔を見てホッとしたよ」


「それは何よりです。で、今日ですが…」


瀬田から送られてきたキューシートや原稿をタブレットで表示しながら、今日のメッセージテーマやコーナーの原稿などの確認をしていく。


「で、頭ですけど…。多分間に合わないと思うので電話繋ぎます。遅延の関係でビデオ通話ではなく電話回線になりますので。今井さんからはOKもらってます」


ん?なんか引っ掛かるな…。

最近はビデオ通話で番組出演は当たり前になってきた。以前ほど遅延にもこだわらなくなってきたはずなのに…。


ダメだ、時差ボケもあって上手く頭が回らない。

とりあえずスルーしよう。


「それはいいんだけど、キューはどうやって?勝手に喋っていいの?」


「その辺りは大丈夫です。IORIさんに気にしていただかなくても」


なんだか嫌な予感がするが、今聞いたところで教えてくれないだろう。

瀬田は面白いと思えばなんでもやるからな…。


「あと、帰国直後で疲れてるところ申し訳ないんですが、番組後にゲスト収録一本と来週のパブリシティーのことで営業さんが直接説明をしたいそうです」


「マジか…。分かった」



席に戻り、ようやくホッと一息つける。


と思ったのだが…


「とりあえず新幹線降りたらタクシーで移動するけど、多分タクシーに乗った直後ぐらいで番組が始まると思うから」


「うわ〜、20分ぐらい遅刻か…」


「駅に着く前に起こすから寝ちゃっていいわよ」


その言葉を聞いて安心したのか。すぐに睡魔がやって来た。




「伊織、起きて」


声が聞こえ、肩もゆすられ、状況が分からないままとりあえず目を開ける。

聞き慣れた新幹線のアナウンスも同時に耳に入ってきた。


「…あれ? あ、そうか…移動中だった」


大きく伸びをする。

その時、チラッとブレスレットが目に入り口元が緩む。

もうひと頑張りしたらハチに会える。心の中で気合を入れた。




タクシーに乗り込もうとしたタイミングでスマホに着信があった。瀬田からだ。


『IORIさん、5分前ですのでお願いします。とりあえずオープニングは7分みてますが、多少伸びても大丈夫です。オンエアに切り替えると俺の指示行かなくなるんで、後は聞こえたことに反応して下さい』


「了解」


なんか、瀬田の声が楽しそうだったな。嫌な予感が頭をよぎる。それでも番組に集中するため、通話したままリュックからストップウォッチを取り出す。


表示されている時刻を見ながら耳に入ってくる音に集中すると…


聞き慣れたオープニングジングル、テーマが流れてくる。


大きく深呼吸をして喋り出そうとしたら…。


『1時〜!「colorful buzz」今日もカラフルに始めますよ〜!』


「ちょっと待って!なんでさくら姐さんがそこにいるんですか」


『え?だって瀬田くんから…あ、瀬田くんってこの番組のディレクターさんね。IORIくんが番組に間に合わないんでさくらさんお願いできませんか?って』


やられた…。

リスナーにも秘密にしてたんだろう。SNSをチェックしていたが、誰もこの事について触れてなかったのは確認している。


『それよりもIORIくん、思いっきり素になってるけど大丈夫?』


「…大丈夫じゃないです…。はぁ〜…。改めまして、colorful buzz 今日もカラフルに始めます!DJのIORIです」


『あ、強引に仕切り直してる。DJのさくらです』


「実はですね…。番組に間に合いませんでした。イタリアでの撮影が押して帰国がギリギリになってしまって。でも、そのお詫びというか、リスナーのみんなにはお土産を買って来たのでメッセージをくれた人の中から抽選で10名にプレゼントします!」


『え?IORIくん、私には?』


「ありませんよ?だって、さくらさんが代わりにスタジオにいるなんて聞かされてませんでしたからね」


『酷い!まぁ、それはいいとして。どうだった?イタリア。美味しいもの食べた?』


「えーと、仕事の詳細はまだ言えないんですけど、撮影は楽しかったですね。美味しいものもいっぱい食べたし、刺激ももらえて今日からまた頑張ろうって思いました」


『そうか、そうか〜。今度私の番組に来てイタリア話ししてよ。さて、IORIくんが来るまでもう少し時間がかかるみたいなので、それまでは私、さくらにお付き合いお願いします!IORIくん、気をつけて来てね』


「了解です!では1曲目?で良かったっけ?あ、NEWSか。HEADLINE NEWS!」



はぁ〜。


隣で笑いを堪えている戸田の姿が目に入って、思わずジロッと睨む。


知っていて教えてくれなかったな…。


『IORIさん、お疲れ様です。瀬田さんから聞いていると思いますが、この後はIORIさんが到着するまでさくらさんに番組を進行してもらいますので電話切りますね。気を付けて来て下さい』


「うん、ありがとう。じゃあ、また後で」


瀬田からの説明はもちろんなかったので、ADからこの後のことを聞き、通話を切るのと同時にイヤフォンを外す。


「一花さん、なんで教えてくれなかったんですか…」


「だって瀬田さんから口止めされていたし」


まさかこんな所でドッキリを仕掛けられるなんて思ってもみなかったが、いい感じに肩の力が抜けた気がする。


シートに身体を預け、ボーッとこの後のことを考えるため目を閉じた。




予想通り20分遅れで到着し、その後はいつも通り進んで行った。

SBステブレに入ったのを確認すると、すぐにブースを出た。


「IORIさん、お疲れ様でした」


「うん、お疲れさま…。瀬田くんのおかげで移動の疲れがどこかへ飛んで行ったよ。って、姐さんは?」


副調に移動し周りを見渡すが、さくらの姿はどこにも見えない。


「用事があるからって帰りましたよ。それよりも、今度本当に番組出てくださいね」


「あっ、姐さんの番組も瀬田くんか…」


通りで姐さんが動いたわけだ。瀬田のこと気に入っているからな。

それに、よく考えたら簡単に想像できたことだった。万が一に備え、スタジオに誰か代役を置いておくことは当たり前だし、そうなると週末に番組をやっている人に絞られる。

瀬田との相性を考え、急なことにも対応できる…ってなると…。


溜め息しか出ない。


多分、時差ボケやハチのことで頭がいっぱいになっていたからだろうな。


思わずテーブルに突っ伏し瀬田を睨む。そんなの気にせずケラケラと楽しそうに笑っている。


「ねぇ、瀬田くん、もう帰っちゃいたい」


ハチの笑顔に癒されたい。でもその前に今日一番の大仕事が待っている…。

リュックの中にはハチに渡すプレゼント。


あれを渡したらどんな顔をするんだろう。


ビックリするのかな、それとも笑顔になるのかな。


想像するだけで心が温かくなる。


「何言ってるんですか。休んでた分、ちゃんと働いてくださいね。それにまだゲスト収録あるんですから」


「瀬田くん、俺に厳しくない?まぁ、いつもか…」


くすくすと笑っている瀬田の顔を見て大きな溜め息が漏れた。






玄関の前で大きく深呼吸をする。


あんなに会いたいと思っていたのに、いざその時になると急に心臓がバクバクして指先も冷たい。


この後のことをもう一度頭の中でシミュレーションしてみるが、何をどうしたらいいのか分からなくなってきた。


頭の中がグチャグチャのまま立ち尽くす俺の背中を、一瞬、北風が強く押した。



もう一度深呼吸し、ドアを開ける。


中に入ると足音が聞こえ、待ち焦がれていた顔が目に飛び込んできた。


「ハチ、ただいま」


「……」


「ハチ?」


なんか、はにかんだまま固まってるけど。

でも…ハチの笑顔はいいな。


「あ…。おかえりなさい」


「うん、ただいま」


あぁ、やっぱり…ハチのこと…大好きだ。



「ラジオの裏側で」を読んでいない方もいると思うので、伊織が仕事しているところを少しだけ書きたかったんです!

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