9/9
9. 送別
河原に出て、ユエは薪を積み、火を起こした。
戯子猿が被っていた皮と着物に火が回り、煙が立つ。
クォンと二人並んで煙を見送り、ユエは弔いの言葉を唇に乗せた。
「総て生けるものは、死せるときまた旅立つものなり。煙は天に、灰は地上に、骨は土に。彼の夜からこの世ひとつと産まれ出にければ、また彼の夜の中に還らん。願わくはまた何れかの世の夜を祝ぎ朝に出逢わんことを」
ホァの山笠は後日、父親の所へ届けるつもりだ。あの猿は死ぬまで演じきるだろう。
ホァの魂も、父親の魂も、彼の夜からまた別の世へ旅立って、また再会できたらいいと思う。それぐらいは、願っていいと思う。
燃え尽きた炭と灰を川へ流すと、ユエは夫を振り返った。
「帰ろう、クォン。お腹すいたよ」
「お疲れ様です。帰ったら平麺茹でますよ」
「ほんと? 楽しみ」
河原から上がって、クォンがモンチャンの端綱とユエの手を取る。
耳長馬が一声鳴いて、荷車の車輪が回りだした。
〈化け猫おくる 完〉