3-7 その剣技。もはや、厄災
【セシル王国。ユラ村】
「酷い……」
ユミルとソフィアは、セシル王国にある、ユラ村に辿り着いた。
「魔物の襲撃があったと聞いていましたけど、わたくしが想像していた以上に、悲惨な状態ですわ」
村内の家の殆どが壊されていた。怪我を負って倒れている者も何人かいた。
「ユミル様。余り見ない方が……」
(このような状況でも、ソフィアさんは冷静ですわ。表情も一つも変えていないのですわ)
「わたくしは……大丈夫ですのよ……」
ユミルの体はガタガタと震わせていた。
「……無理はしないでください」
(やはり、見破られてしまわれましたわ。ソフィアさんには嘘は付けませんですわ)
(ですが、この国に限ったことではありませんが、治癒術を扱える者は少ないですわ。だからこそ、治癒術を扱えるわたくしが怪我を負った方々の治癒をしなければなりませんわ。だから、怯えるわけには……)
「お待ちしていました。ユミル様」
ユミルは声がする方へ、顔を振り向けて見ると、そこには、鎧を身に着けた一人のセシル王国兵だった
しかし、ユミルは。
「いやぁぁぁぁぁぁーーーーー!!! 鎧を着た、魔物ですわぁぁぁぁぁーーーーー!!! 誰か!!! 助けてくださぁぁぁぁぁいーーーーー!!!」
ユミルは大声で叫び出してしまった。
「あの……私は……」
「きっと! これは、鎧だけの魔物よ!!! そうに違いありませんわぁぁぁぁぁ!!!」
「いいえ、私は鎧を着た、ただの王国兵です」
叫び出していたユミルは静かになった。
(兜の中をよく見たら、人の顔がありましたわ。背中辺りには、翼もありましたのよ。よかったですわ。魔物ではなかったようですわ)
ユミルは鞘に納めている刀を抜こうとしていたが、すぐに手を離した。
(危なかったですわ。魔物だと思って、斬るところでしたのよ)
「それで状況は? 王国兵殿?」
「あの~。スルーですか? それに『王国兵殿』だと、まるで私の名前は王国兵殿になりますよ」
「なんか、言いましたか?」
「い! いいえ! 何でもないです!」
(いつも思いますのよ。ソフィアさんは、なぜか、特に怒った顔をしているわけではないのに、物凄く寒気がしてきますのよ。その表情を一つも変えていない顔をですわ)
「魔物の方は、我々が退けました。……ただ」
「ただ?」
(王国兵さん。なんだか歯切れが悪いですわ。何か、問題があったのでしょうか?)
「あそこに、ある魔物の死骸を見てください」
王国兵の指を指した方角には、魔物の死骸があった。その、殆どが狼型の魔物の死骸だった。
さらに、村の周りにも、狼型の魔物の死骸が大量にあった。
「襲って来た魔物は狼型の魔物でしたのね。でも、何か問題でも、ありますの? 魔物が現れた以上に問題があるとは思いませんのよ」
「……成程。確かに妙ですね」
ソフィアは、魔物の死骸を見て、納得したかのように頷いた。
「ソフィアさんは、何かに気づいた見たいですわね。どうなのですか?」
「襲ってきた魔物は全く種類の違う魔物なのです」
「え?」
ユミルは魔物の死骸をジッと見つめていた。
「よく見ると、魔物の死骸は全て同じ種類ではなく、何種類かの異なる魔物ですわ。同じ狼型でも、わたくしがよく知る四足歩行の狼型の魔物に、二本足で歩くマナーガルム。そして、これ……ありえないですわ。死骸の中にはフリーズガルムもいますわ。……確かに妙ですわ」
(フリーズガルムって、確か、寒い地方にしかいないはずですのよ。だから、暑いのが苦手なフリーズガルムが、暖かいセシル王国で活動する魔物ではありませんわ)
「魔物化は、接種した魔石の属性と型の種類によって異なります。寒さに強い狼でも、火属性の魔石を摂取すれば、火属性の狼型の魔物になりますが、体質的には相性が悪いので、強い魔石ではない限り下級系の魔物になってしまいます。そもそも、その地形にできる魔石は環境によって属性が決まりますので、火山地帯でもない寒冷地には火属性の魔石が見つかることはないのです」
「それなのに、なんでここにいるのでしょうか? 考えれば、考えるほど、頭が痛くなりますのよ……あれ?」
ユミルは怪我を負った人に目が入った。
「あ! そうですわ! 村を襲ってきた魔物のことは、気になるところではありますが、怪我人の治癒をしないと、なりませんわ!」
ユミルは、怪我を負った者の元へ駆けつけ、治癒術を掛けた。
ユミルは次々と怪我人の治癒を始めた
(普段のわたくしは人見知りのせいで、自分から進んで、人と接することはしませんわ。本当にわたくしは、情けないですわ。接するにしても体を震わせているのですのよ。ソフィアさんといった、ある程度慣れている人には、普通に話せますのよ。でも、人見知りだからと言って、怪我をしている人を放置は許されませんのよ。しっかりと、お勤めを果たさないと、いけませんわ)
「これで最後ですわ」
ユミルは 最後の一人に治癒を掛け、傷が塞がった。
「おお、ありがとうございます。助かりました」
この村の村長さんがお辞儀をしました。
(時間は掛かりましたけど、ようやく、村人さん達の怪我の治癒が終わりましたのよ。取り敢えず、死人がいなくって、よかったですわ)
「お疲れ様です」
背後から、セシル王国兵が声を掛けてきた。しかし、急に声を掛けたためか、ユミルは。
「いやぁぁぁぁぁぁー------!! 魔物ですかぁぁぁぁーーーーーー!!!? 助けてくださいぃぃぃぃぃぃーーーーーー!!!」
ユミルは大声で叫び出してしまった。
「あの~ユミル様。わ、私です」
「……あら? よく見たら」
相手が魔物ではないと分かったら、ピタリと大人しくなった。
「さっきの鎧さん、ではなくって、国境兵さんでしたのね。あ! あ! す、すみません! 魔物だと思いましたわよ!」
「あの~ユミル様。一応私にはちゃんとした名前があります。生まれてから職業を決められたような名前ですけど。その前に、刀を抜こうとしないでください。怖いであります」
ユミルは、また鞘に収めている刀を抜こうとしていた。
(危なかったですわ。もう少しで、王国兵さんを斬るところでしたわ)
「うちの姫様を怖がらせないでください」
「あの……私が悪いのでしょうか?」
「何か言った?」
「……いいえ。何でもないです……」
(王国兵さんは、ソフィアさんに注意されています。兵士は、何も、悪いことをしていませんですのよ。絶対に。王国兵さんには申し訳ないことしてしまいましたわ)
ソフィアは急に武器であるナイフを持って構えた。
「ユミル様、お疲れのところすみませんが、何か来ます!」
「え?」
「……後ろの方ですね」
シュ!!
ソフィアが後ろへ振り向くと同時に、四本のナイフを投げつけた。
ユミルも、後ろを振り向くと、そこには、体全体が燃えている狼がいた。
六匹はいたが、そのうちの、四匹は既に死んでいた。その四匹は、ソフィアが投げた四本のナイフが、四匹同時に額に命中し、さらに、ナイフは額に突き刺さっただけでなく、ナイフは狼の体を貫通していった。
狼の体を貫通したナイフ四本は、既に地面に突き刺さっていた。ナイフはまだ、「バチバチ」と音を立てていた。
「四本同時に投げて、四本とも、当てるなんて、ソフィアさんのナイフ投げの腕前は凄いですのよ」
(この魔物のサイズから見て、下級系の魔物ですから、魔術を纏ったナイフで体を貫通はできたのです。これが普通のナイフや拳なら、いくら相手が下級系の魔物でも体を通すことは不可能ですわ)
「これは狼型の火属性魔物、デッドガルム。気を付けてください」
残っているデッドウルフのうち一匹が、ユミルに目掛けて、襲い掛かってきた。
「い!」
慌てて、鞘から刀を抜くと。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!! こっち、来ないでくださぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!」
シュッパ! シュッパ! シュッパ! シュッパ! シュッパ! シュッパ! シュッパ!
ユミルはデットウルフに対して、刀を連続で斬りるけていた。刀の刃が見えない程。
「言うまででも、なかったですね」
「いやだぁぁぁ! いやだぁぁぁぁ!! いやだぁぁぁぁぁ!!! 来ないでくださいぃぃぃぃぃぃーーーーー!!!」
デッドウルフの肉塊が、さらに細かく刻まれていった。
「あの……。ユミル様~~」
「もうぉぉぉ!!! やだぁ! やだぁぁぁぁぁーーーーー! やだぁぁぁぁぁーーーーーー!!!」
「ユミル様ーーあの~もしもーし~」
「やぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!! やぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!」
「ユミル様~~それを解体しても、魔物の肉は毒なので食べれません」
「はぁぁ!!」
ソフィアの声で、我に帰ったユミル。ユミルは刀を収めた。デッドウルフはというと、肉塊すら残っていなかった。
「わたくし、また、いつもの、あれになっていたのですわ。恥ずかしいかったわ~!」
(わたくしは、同様すると、もう無我夢中で刀を振り回してしまう、癖がありますのよ)
「ユミル様、怖いです」
王国兵達が、ユミルの光景を見て動揺してしまった。
(もしかして、引いてしまったのでしょうか?)
「いいえ、逞しいの間違えでは?」
ソフィアは王国兵達を睨みつけた。
「あ……すいません」
ソフィアの一言で、国王兵の体がより一層、震えていた。
ユミルが、ふっとソフィアを見ると。
「あ! 危ないです! ソフィアさん!」
まだ一匹残っていたデットウルフが、ソフィアの真横から襲い掛かってきた。
(危ないですわ! ……デッドウルフの方が)
ソフィアは、デッドウルフの方へ振り向かずに、ナイフを投げた。
ナイフは、デッドウルフの体を貫通した。
投げつけたナイフは地面に突き刺さった。そのナイフは「バチバチ」と音を立てていた。
(命中しましたわ。相手を見ないで、当てられるなんて、凄すぎます、ソフィアさん)
「何がですか?」
ソフィアは、爽やかな笑顔を浮かべて、ユミルの方へ振り向けた。
「いいえ。何でも、ありませんですわ……」
(ソフィアさんは、普段はナイフを武器として扱いますのよ。それに加えて、雷系の魔術も扱えるのですわ。さっきのナイフには、電気を付着させていたのですのよ)
「さすがですわ」
「ユミル様。奴らが、また来るかもしれません。急ぎましょう。取り敢えず、村人を連れて、この近くにあるアレル村へ行きましょう。今、ポポッポ便で応援要請をしました。ただ、国中、同じ騒動ですので、期待はできません」
ポポッポというのは、通称、伝書鳥と呼ばれている小鳥。ポポッポは、手紙などの届け物を届けたい相手に、確実に配達してくれる不思議な鳥。
「分かりましたわ。わたくし達も、そこへ向かいましょう」
ユミル達は、ユラ村の人達を引き連れ、セシル王国内にあるアレル村へ向かっていった。
「この国は、戦闘部族の国だったのかな?」
セシル王国兵がぼそりと呟いた。
(あら? 薄っすらですけど、何か聞こえたような、気がしましたわ。……気のせいでしょうか?)




