3ー5 凶悪な技
【セシル王国。真夜中の森林内】
地面には大きな円が描かれる。円の中には、星型のような不思議な模様が刻み込まれていた。
その描かれた円を囲むように、黒いロープを着た怪しげな者達が立っていた。
「それでは、始める前に……私の目の前にいるお前」
「は! ヘンリー殿!」
「作戦の確認だ。我々の任務は危険だ。一つのミスが死に至る。そして、死体だけでも貴重な情報を握られてしまう。つまり、死さえ許さない」
「は! 我々の任務は二つ! 一つは、噂されているセシル王国内にあると言われている、妖精の里の在処の情報を獲ること。もう一つは、取引先に提供する魔物の仕様のテストですね」
「そうだ。セシル王は妖精族を匿っていると噂されている。しかし、それはあくまで噂だ、根拠はない。その在処を突き止め、帝国の貴族らに情報を提供すれば、帝国内の貴族共は妖精族を捕らえるため、攻めていくだろう」
「そして、もう一つの任務。近々、大掛かりな魔物の取引が始まります。その取引に出す魔物のデータを集めるため、セシルでテストをするってことですね? 魔物の襲撃でセシル内に打撃を与えれば、帝国内の貴族共が攻めやすくなる」
「ふむ、完璧だな。これは一族の祈願に掛かっている作戦だ。あの忌まわしき解放軍の手によって、当時にメリオダスの残した禁書の研究をしていた我々錬金術の一族は壊滅した。現代の我々が一族に復活のために動き出すべきだ」
「「「我ら、一族の祈願を」」」
地面に描かれた円が光り出し、その描かれた円の中から狼らしき姿が現れた。
それから二日後。
【正午のセシル城】
カチュア達がセシル王国へ向かう、一方。
訓練場で、ユミルがソフィアに稽古を付けて貰っていた。
「それでは、ユミル様。あの訓練用の人形に目掛けて、技を繰り出してください!」
「分かりましたですわ」
ユミルは大きく深呼吸し。腰に掛かてある鞘に納めている刀の持ち手を掴んだ。
「行きますわ! 抜刀・瞬裂氷爆斬!!」
大きな声を出しつつ、鞘に納めた刀を抜いた。
ヒューーーーーン!
シュッパン! シュッパン! シュッパン! シュッパン! シュッパン!
カチーーーーーン!!!
パッキーーーーーーン!!!
訓練人形から五か所の切れ目ができ、その切れ目から氷が出現した。
さらに、氷が爆発して、訓練人形は粉々に砕け散った。
「お見事です。ユミル様」
ソフィアが拍手をした。
「……あの~ソフィアさん……」
「どうしたんですか? 顔を赤らめて? 風邪ですか?」
「この技名を、叫ぶの恥ずかしいですのよ」
「ん~~……いいネーミングだと思っていたんだけどね~」
(ソフィアさんって、意外と、技名を付けるの好きな所がありますわ)
(それにしても、使っといてなんですけど、この技はえげつないですわ。氷の魔術と剣術を組み合わせた技で、切り傷口から凍結させて、さらにその凍結から爆発する技なんですわ。この技を考えたのはソフィアさんなんですけど、ネーミングの割には凶悪な技を考えますよ。それ教わった、わたくしも倫理としては、どうなんでしょうか?)
「あ! いたいた! ソフィアくん。それにユミルちゃぁんも居たんだね~~」
そこにセシル王が、発情した猿のような表情をしながら駆けつけて来た。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!! 知らないおじさんですわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 誰か、助けてくださいわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ユミルは叫び出してしまった。咄嗟に鞘に納めていた刀を抜いてしまった。
「ちょっと! ユミルちゃん!? わしだよ! わし! 君のパッパだよ! だから、刀を抜か……」
ドーーーーーーン!!! メキ、メキ、メキ!
「おい! その汚ねぇ顔を、ユミル様の前に出すなよ」
「あ……はい……すみませんでした」
「落ち着いてください、ユミル様。汚物は潰して置きましたから。そのせいで、私の靴が汚れましたが」
ソフィアはセシル王の脳天に足を乗せ、そのまま、地面目掛けて、叩きつけた。
セシル王の顔面は、床に減り込んでしまった。
「あ! はい! すみませんでした……」
ユミルは刀を鞘に収めた。
「ソフィアくん……わしはソフィアくんに用があって、探しておったのじゃが……」
「早く言え! 緊急事態ではないのか?」
ソフィアはセシル王の頭に足を乗せながら怒鳴った。
「あ……すいません。ユミルちゃんを見かけたから、つい……」
「全く。汚物じじぃが、ユミル様を見るまで、緊急性を感じていましたが、やはりですが。余計な仕事を増やさないでくださいよ。汚物を潰すと言う」
「本当に、すみません。実は、セシル王国内で大変なことが起きているんだ……」
顔を床に減り込んだ状態のまま、話を続けるセシル王。
「何があったんですか?」
「凶暴な魔物がセシル王国全体に現れて、多くの村が、その魔物達に襲われている報告があったんだ」
「ま、魔物がですか! それで、村は?」
「現在、対処中で、それ以降の報告はまだ来ておらん。ソフィアくんには、救援をお願いしたいのだ。既に王国兵は出陣しているが、魔物相手では苦戦を強いられる……」
「そうですか。じじいの命令を聞くのは尺ですが、分かりました」
(魔物は怖い、怖いですけど、襲われている人がいるなら助けにいかないとですわ。治癒を使える人は数えるぐらいの人しか、いないという話を聞きましたわ。ここは、治癒術を扱えるわかくしが行かないとですわ)
「ソフィアさん。わたくしも連れてっていいですか?」
「ユミル様?」
「魔物が襲い掛かってきたということは、怪我をしている人がいると思いますわ。だからこそ、人手不足の治癒術の扱えるわたくしが向かわないとですわ」
「そうですか。それなら、分かりました」
「あれ? てっきり、反対されると思いましたわ」
「主の意見は尊重させなければ。それに、一人でも多く治癒を扱える者がいなければ、助かる命も助かりませんから」
「ありがとうございます」
「ユミル様は私が護衛しますから、治癒の方は任せました」
「分かりましたわ」
「ユミルちゃんが行くなら、わしも……」
「顔のないじじいは、留守番がてら城で引き籠もっていろよ」
「あ! ……はい、すみません」
「では、行きましょうか」
「はい!」
ユミルとソフィアは訓練場から出て行った。
そして、一人、訓練所の床に顔を減り込んだまま放置された、セシル王の姿が
「そうだ! 今日、アルヴスくん達の妹達が来るんだ……早く、国境兵に伝令をしなければ……。今来ては、あの子ら巻き込まれてしまう……」




