2-5 四つの実りが、湯に浮かぶ
【アヴァルの宿屋。浴場】
「ふぅ~。いいわね~お風呂~。癒されるわ~」
宿内の銭湯で、カチュアとエドナは湯の中に入り、ゆったりしている。
(お風呂、暖かそうね。入れたら、気持ちいいのに。今の私には、この感覚が感じられないんだ。……本当に残念ね。……残念だ。……残念だ! くぅ、涙を出したいよ! この凶器。そう、女性の精神を抉る凶器は凄まじい)
『わー。デカいと浮くってホントなんだねー』
「どーしたの~? 元気がないようだけど~」
『いや~。何でもなーい。何でもなーい。大きいからって、羨ましくなんてないもん。そんなに要らないしー』
(くぅ。何だろ。涙が出て来る。実際には、出ていないけど。心の中で、泣いているんだよ)
「そーいえば。さっきまで、わたしの中でも喋らなかったのよね~。とても、静かだったわね~」
『カチュアの口を使って、喋ると、かなり体力が消費するのよ』
(やっと、表に出て、喋れるようになったのに、体力が消耗するデメリット付きとは。これでは、私の声を聞こえない人達には、カチュアに伝言して貰うしかないじゃないか。でも、何だか、カチュアの意思を乗っ取っている気がするんだが、気のせいかな?)
「お待たせしました!」
やっと、頭にタオルを巻いたエドナが、浴場に入ってきた。
エドナは、まず湯につかる前に、体を洗うようだ。
(……頭を流す時でも、タオル巻いたままか。てか、どうやって、髪を洗うのかな? タオル外さないのか? タオル?)
『そう言えば、カチュア』
「どーしたの?」
『エドナが頭にタオルに、巻いているところを見ていると、ふっと思ったことがあるんだが、あの子の頭辺り見たことがないような……』
エドナは普段、頭にスカーフを付けている。しかし、この街に着くまでの、カチュアとエドナの旅の中でも、あのスカーフを、取っていなかった。
『何か隠し事をしているかのように、頭を隠している気がするんだよね』
「ん~~……乙女には秘密があるのよ~」
『まあ、人は誰しも、何かしらのコンプレックスを持っている思う。エドナの場合、それを隠すために、頭にスカーフを付けるのは頷ける』
(でも、気には、なるよね。……しかし)
『あなたは、あの子が何を隠しているか、わかるのでは?』
(前回のカチュアの戦い方を見ると。まるで、相手の考えていることを読んで、攻撃を躱わしているように見えていた。呑気そうに見えて、意外と勘が鋭いところがあるんだ、カチュアは)
「そんな~。わたしは超能力者じゃないから、わからないよ~」
『ほんとかな?』
「でも、いつかは話してくれるから、それまで待っても、いいじゃないかな~? 心の準備もあると思うから~」
「それって……」
「あ! エドナちゃん、背中流すよ~」
(私はエドナの隠し事よりも、カチュア同等、エドナの持つ、あの凶器が気になる。なんで、小柄なのに大人顔負けの大きさまで育ったのか? ここまで、大きな胸に憎悪を抱くのは、以前の私は胸が小さかったのかな? この二人がお風呂に入るたび、精神にダメージを受けてしまう。もう、物理ダメージを受けてもいないのに、私の生命力がなくなっていく)
「え? ありがとうございます。では、お願いします」
(そういえば、ここって、浴場だよね? 足元は濡れて滑りやすいから、このドジっ子エドナちゃんなんか、転びそうな展開があったりして)
ツルーーーーーン!!!
「はわわ!?」
(うん、この子なら期待を裏切らないわね)
エドナは足を滑らせてしまう。そして、カチュア目掛けて飛んでいった。
ドボーーーーーン!!!
滑った拍子で飛んでいったエドナは、カチュアが入っている湯舟へ、落ちて行った。
(エドナの唇の動きを見ると「あれ? カチュアさーん、どこ? カチュアさーん」と聞き取れる。……てか。もしもーし! エドナさーん! 早く退かないと、カチュアが息できなくなって、死んじゃうよ!)
今、カチュアは、エドナが滑ったことでカチュアにぶつかり、そしてカチュアは、エドナの下敷きになって湯の中で溺れていたんだ。
(気づけよ! カチュアが溺れちゃうよ! てか、カチュアもカチュアで、何で、エドナをどかさないんだよ! あんた、このままじゃ、死ぬぞ!)
【アヴァルの宿屋。カチュアとエドナの部屋】
浴場から出た、カチュア達は自分達の部屋へ戻ってきた。
「は~。いい湯だったわ~」
『いや、何呑気なことを言っているんだよ! 危うく、エドナによって、殺されるところだったんだよ!?』
「はう~。疲れたんだよ!」
エドナはベットに入り、すぐに寝てしまう。
(ぐっすり寝ているね。さすがに、疲れているよな。あんなことが、あったんだから。無理もないか)
「あらあら~。エドナちゃん、寝ちゃったわね~。お休み~」
トントン。
ドアを叩く音が。
(誰かが、ノックしているのかな?)
トントン。
また、ドアを叩く音が。
トントン。
(てか、何で、カチュアは返事しないんだ?)
「あら? ドアを叩いて遊んでいるのかしら~?」
『いや、それ、本当にやっていたら迷惑な客だから。カチュア。恐らく、お部屋の外にいる人は、入っていいかの、返事を待っているんだと思うんだが』
「あら? そーなの~? じゃあ、入っていいわよ~」
カチュアが返事すると、ドアが開いた。
「失礼します」
ドアが開くと、この宿屋を案内してくれたピンク色の髪の猫目の女の子の姿があった。
(確か名前は、ルナだったような。自分のことを「ルナ」って、言っていたし)
「あっ! さっきの女の子だわ~! ありがとね~」
「あ! いいえ! ……しかし、出会って、ビックリしましたよ! ルナが話しかけたお二人方が、まさかのお胸……じゃなかった!」
(今、「お胸がデカい」と言いそうだったよね?)
「……その内一人が、蒼炎伝説の女将軍みたいな容姿の方なんて!」
「よく言われるわ~」
(蒼炎伝説の女将軍ね……。エドナにも、カチュアが、その女将軍に似ているって言っていた記憶があったね。その女将軍はいったい何者だろうか? 私は記憶を失っているから、カチュアがその伝説の女将軍に似ているって言われても、ピンっとこないんだ)
「ところで、あなた方は旅の方ですよね? お名前は……?」
「ん? カチュアよ~。そこに、寝ているのはエドナちゃんよ~」
「……」
ルナは沈黙してしまった。
「どーしたのかしら~?」
「え!? いいえ! てっきり、会ったばかりの人に名前を聞きかれても、尋ねた側が先に、答えるものだと、言うものだと」
(だよね。でも、カチュアはお人好しだから。エドナもだけど。出会った頃も、出会ったばかりなのに、仲良くしていたし)
「なんで~?」
「いいえ!? なんでもないです!」
「ん~?」
(本当にお人好しですね。だからこそ、ほって置けないのです)
「改めて、ルナはルナです。今年で十三歳ですが、これでも帝国の魔術研究員です」
「研究員?」
「ご存じないですか? 魔術関連の研究をする人達のことです。ルナは、現在この宿一部屋を借りて研究しているんです」
(魔術というと、エドナが風の矢を作っていた、あれのことか。その魔術関係の研究している人ってことか。こんな小さな子が研究員? かなりの優等生というか、もしかして神童? 相変わらず「神童」とか、意味は説明できないけど、なんとなく、使う場面はわかる)
「ルナのことは、もういいです。……ところで、あなた達は何者でどこから来たのですか? 結構、ボロボロな恰好でしたよね? 何かあったんですか?」
「えーと~……。確か、ライムの村だったわね~」
『お前は住人ではないけどな』
(あっさり答えてくれるんですね)
「この街に着くまでの道中で、迷子になったのよ~。それでね、本来の目的地はアウルだったんだけどね~。成り行きで、この街に着いたのよ~」
「ライム村……そうですか……」
「あら? どーしたのかしら~?」
「あ! いいえ! 何でもないです! ……そうだ! これも何かの縁だし、明日、ルナがこの街を案内しましょうか?」
(さっきの沈黙は何だったんだろう?)
「ん~。そーね~。エドナちゃんは街に入るのは、初めてらしいわ~。わたしも、しばらくは街でゆっくりしようかな~。分かったわ~」
「いいんですか? ルナ達は会ったばかりですよ?」
「ん? 何か問題があるのかしら~?」
「……いいえ! 何でもないです!」
「決まりね~」
「では、ルナはこれで。待ち合わせは、十時に、この宿屋入口でいいですか?」
「うん。だいじょぶだよ。それで」
ルナが、部屋から出て行った。と思ったら、また部屋に入ってきて。
「あっ! そうそう、カチュアさんは、明日はこれを上から着てください」
ルナは黒い布切れをカチュアに渡した。
「絶対に、ですよ!」
そう言うと、ルナは部屋から出て行った。
「むにゅ~~」
え? 何? この声は? どこかで、聞いたことがあるんだけど。
「むにゃ~~」
それはエドナの寝言だった。
(そう言えば、この子、寝言が多かったんだよな。アヴァルに到着する前の道中、この寝言で、危険種が寄ってきたんだよね。カチュアが殆ど返り討ちにしたけど)
「むにゃ~~。お父さん、どこですか? エドナを置いていかないでくださいなんだよ~~」




