蒼炎伝説の始まり
戦場を見渡すシェリアの元に、伝令兵から駆け付けてきた。
「伝令! 伝令!」
「来たわね。それで、状況は?」
「は! 敵軍は、骸骨兵だけでも、軽く万単位を超えます。後は竜兵がいます。目視できる範囲内ではありますが、約十体となります」
「竜兵が約十体。……多いい方ね」
「いかがなさりますか? シェリア殿」
「そんなの決まっている!」
シェリアの蒼い髪と瞳から、蒼い炎が出現した。
集結している兵達の方へ振り向く。シェリアは、この軍の将を任せられている身。大きく深呼吸をした後に。
「皆のものー! 聞けー! 我が名はシェリア! この軍の将軍を任せられた者! いいか! これが私達の最後の戦いになる! ここで破られたら、私達の大切な人達が、無惨に虐殺されてしまうだろう! だから、私達は、この戦いは絶対に負けられない! もし、お前らに守りたい者がいるなら、戦え! そして、生きて帰っていくんだ! その人達のために! 今から、戦う相手は私の兄だが、戦争を起こした張本人だ! たとえ自分の兄でも、私は兄を討ち取る! 皆の者! 覚悟はできているかぁぁぁぁぁぁぁ!?」
一軍の将として、シェリアは激励の言葉をかける。
兵達は自分の武器を持った手を挙げて、「おーー!!」と声をあげる。
シェリアは、自分の背丈以上の大きさもある、二本の大剣を片手ずつ構えた。
「皆の覚悟、聞き入れた! なら、迷うことはない! 進軍せよ!!!」
陣地で指揮するだけなのは、性に合わないシェリアは、将軍という立場のはずだが、自ら前線に立ち敵陣へと向かっていく。
シェリアに続いて、兵達も前進する。
シェリア達の進軍で、最初に立ち塞がってきたのは、骸骨兵。別名スケルトンと言われる魔物達だ。
(ほんと、悪趣味ね。スケルトンと呼ばれる魔物は、元々は人間で、その亡骸を再利用しているのだから。亡骸が動く原理は分からないが、それを可能にしてしまったのが奴だ!)
シェリアは、目の前に立つスケルトンを次々と二本の大剣で前進しながら斬り付けていく。
(今の私には「止まる」という言葉はない)
しかし、敵も黙っていなかった。
「空を見ろ! 何だ! あれは?」
空から、剣のような形をした黒い物体が、雨のように降り注ぐ。
(あれは、兄の魔術!)
剣のような形をした黒い物体が突き刺さった場所から、大爆発した後、大きな穴が開いた。
爆発音に紛れ『ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』と兵達の悲鳴が響き渡った。
「ぐぅ!」
(しかし、私は振り向かない。ただ進むだけ。戦いに犠牲者は付きもの。それは割り切っている。けど……。いや、これ以上の犠牲者を出さないためにも、兄を倒す)
「何かが、こっちに向かってくる!!?」
空から大きな生物が降りて来た。
「ギギャアアアアアアア!!!」
姿を現したのは目の前に竜兵。別名、ドラゴンと呼ばれている魔物が空を飛びながら、現れた。
パッと見た感じ、ドラゴンの大きさは十メートル以上あるようだ。
しかし、そんな体の大きい相手でも、シェリアは。
シュパーーーーーン!!!
「ギギャアアアアアアア!!!?」
真正面に突っ込みながら、シェリアの剣技で、ドラゴンの体を真二つに斬りつけた。
ドラゴンは倒したが、気がつくと、周りにはスケルトンに囲まれてしまった。そして、さらに、増援のドラゴンもシェリアの方へ向かってくる。
(これはピンチ。……いや、私にとってはチャンスだ。傍から見れば、私の行動は、かなりの無謀見えるだろうね。私は敵軍に向かって突っ込んでいっているから。だけど、私は、ただ突っ込んでいるわけではない。敵将に近づく、そして、犠牲者を減らすなら敵を多く減らす)
「見てなさい! この蒼い炎は、こんな使い方もできるのよ!!」
シェリアは勢いよくジャンプした。空高くまで。
そして、蒼い炎は右手に持っている大剣を包み込む。それを上空から急降下していき、最終的には地面に突き刺す。
ぼおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
そして、剣で突き刺した地面から、忽ち蒼い炎が、勢いよく燃え広がっていった。その周囲にいたスケルトンとドラゴンは砂のように崩れていく。
だが、燃え広がる蒼い炎は味方も巻き込んでしまった。しかし、不思議なことに、この蒼い炎は普通の人に触れても無害だった。
「はあ……はあ……」
息を切らすシェリア。
(大分、無茶をしたかな? ……息がしにくくなっている。しかし、ここで立ち留まるわけにはいかない)
再度、走り出す。邪魔するものを斬りつけながら。
「とにかく、前進あるのみ!」
進軍し続けてシェリア。ようやく、義理の兄メリオダスの元へたどり着いた。
ただ突っ立ているメリオダス。しかし。
(禍々しい気を感じる。まるで、人間ではないようだ)
「……兄さん」
「……久しぶりだな。まさか、ここまで来るとは」
「兄さん。一つだけ聞かせて。なぜ、こんな戦いを? あんなに、優しかった兄さんが、なぜ?」
「……そんなことか。それは、お前には関係はないことだ」
「やはり、答えてくれないのね。分かっていたけど」
「何でも、質問すれば答えてくれると思うなよ。……といいたいところだけど、少し答えてやろう。強いていうなら、この世界を俺が支配することだ。そう、俺の思いのままの世界に」
「その言葉、聞き飽きているわ」
(「世界の支配」それは、人が変わって、しまってからの、兄の口癖だ)
「まるで創造主のセルフね。……神にでも、なるつもり?」
「神か……案外そうかもしれないな。俺は神にも等しい力を手にした。……と言いたいところだが、悉く、お前に邪魔をされて、今はまだ、その力を完全には手にしていない。だがな、手にしようと思えば、いつでも手に入れられる。お前を倒してからでも、遅くはない」
メリオダスの体から、禍々しい黒い煙みたいのが、現れた。その黒い煙は、メリオダスの体を纏っていった。
「血の繋がりはなくとも、お前は俺の妹だ。だが、俺の邪魔をするなら、たとえ妹でも容赦しない」
(やはり、だめだったか……。いや、わかっていた。今更、何を迷っていた? あいつは、私の兄だが、それと同時に倒さないといけない敵だ。そう割り切ったはずだ)
シェリアは深呼吸をして。
「仕方がない……なら」
さらに、シェリアの全身から、蒼い炎が激しく燃え上がってきた。
「私が兄さんを殺す!」
右手に持っていた大剣の先を、メリオダスのいる方へ向けた。
「殺せるならな。お前の蒼き炎のせいで、俺の勇能力は使えなくなってしまった。しかし、俺にはまだネクロマンサーとしての魔術の力がある。もはや、英雄の力と言われる勇能力なんて比べ物にならないほどの力をなー!」
メリオダスは、腰に掛けてあった鞘から禍々しい黒い煙を纏った剣を抜いた。
「……いざ!」
シェリアに向かって、その剣で突き刺そうとする。しかし、シェリアはそれを素早く躱した。シェリアは素早く斬り下ろす。しかし、メリオダスは自分の剣で、シェリアの剣技を受け止める。
それからは、素早い剣と剣との激しくぶつけ合いが始まる。
(とにかく、魔術の達人である兄に、魔術を使わせる余裕を作らせたりしない。剣だけなら、私は誰にも負けない!!)
「ぐう! 強い! 相変わらず剣技だけならシェリアの方が上手か。……だが!」
メリオダスの左手から黒い球を放つ。
シェリアは左手に持っていた剣で防い。だが、黒い球に当たった衝撃で剣は弾き飛ばされてしまった。そのまま、左手で持っていた剣は、空高くまで飛ばされてしまった。
(兄は勇能力を持っていた頃よりも、魔術の発動は遅くなっている。しかし、それでも発動は早い方だ)
武器を一本飛ばされたからといって、シェリアは動じなかった。怯まず、メリオダスに剣を向ける。
再度、剣と剣との激しいぶつけ合い。
そして。
(これで、けりを付ける!)
少し後ろに下がった後、メリオダスの懐に入り剣先を向ける。しかし、メリオダスはシェリアに向かって剣を斬り下げようとする。
一歩、シェリアの方が遅かった。確実にシェリアが斬られてしまう。
「これで、終わりだー!!! シェリア!!!」
この時、メリオダスは自分の勝利を確信したと思っただろう。
そして、決着が着いた。
「ふぅ。……ぐぅはあぁぁぁぁ!!?」
メリオダスは吐血した。
「バカな……俺の野望は……ここまでなのか……?」
シェリアの蒼い炎で纏った剣が、メリオダスの胸を貫いていた。
シェリアは斬られるところだった。だけど、斬られなかった。それは、剣を持っていたメリオダスの右腕が切断されていたからだ。
勝ったことを確信していたメリオダスは驚いただろう。いつの間にか、自分の右腕がなくなっていたから。
メリオダスの右腕を切断したのは。切断されたメリオダスの右腕の隣に、突き刺さった大剣だ。
あの剣はシェリアの持っていた剣の内一本。そう、先程メリオダスによって弾き飛ばされてしまった剣だった。
(上手く行ったか。あの時、私は態と剣を手放した。私は兄に空高く弾き飛ばされていた剣に視点を向かわせないために、とにかく兄に対して剣を向けていた。自分の手によって飛ばされた剣が自分目掛けて落下してくることに気が付かせないために。そして、落下した剣で兄の右腕を切断させた)
シェリアはメリオダスの腹に刺さった剣を抜き取った。メリオダスは後方へ倒れていく。
「……兄さん、ごめんなさい。こんな方法しかなくって」
倒れた兄が地面に着くと、同時に兄が率いていたスケルトンの体は崩れていった。ドラゴンも動かなくなり。次々と倒れていった。
「……終わったようね」
シェリアは軍の前に立つ。そして。
「敵将は討ち取った! 戦争は終わった!!」
剣を持ちながら右手を上げ、勝利の宣言をすると、兵達は「わぁーーーーーーー!!」と歓声をあげた。
「おおおおおお!! シェリア様!!」
「将軍様!!」
「蒼炎のシェリア様!!」
「シェリア様! ばんざい!! ばんざい!!」
(結局、なぜ兄は人が変わってしまったのか? なんで、こんな戦いを起こしたのか? 最後まで分からないままだった。ただ、一時かもしれないが、平和が訪れた。今はそれを喜ぶべきだと。でも、できれば、厄災という存在が今後、出てこないことを祈りたいわ)




