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第2話 暗夜(5)

 強い日差しに照らされ、白茶けた街路を、足を引きずるように歩く。


 後ろに従えた老女中のスタニョイカが、怪訝そうに窺っているのがわかる。いつものわたしなら、彼女がついてくるのがやっとなほど、方々に走ってはしゃぎまわるのだから。

 いまは、とてもそんな気分になれない。あまり外出もしたくないのだが、邸にいるのも苦痛だった。


(また、あの絵を見に行ってしまう)


 アルディラーンの私室に飾られた肖像画。彼の過去の影。


(本当に、過去だけの話?)


 疑い始めると、どんどん深いところに落ち込んでしまう。少しでも気分を変えるため、思い切って街へ出たのだが。


(……面白くない)


 無口な老女中は話し相手にならず、ひとりで歩いているのと変わらない。目的なく歩き回るのに飽いて、そろそろ帰ろうかと思ったとき、それが目に入った。


「なんの行列かしら……」


 男たちが、台の上に白い布で覆った大きな物を載せて担ぎ、その後ろからヴェールをまとった黒ずくめの女たちが従っている。行列はゆっくりした歩調で、どこかへ向かって続いていた。


「ムスリムの葬列です」


 なまりの強い太い声で、スタニョイカがぶっきらぼうに教える。


「お葬式……」


 胸の奥が、とくん、と疼いた。


「――見に行くわ」


 スタニョイカが咎めるように呻いたが、構わずわたしは葬列の最後尾から少し距離を置いてついていった。


 やがて葬列は小さなジャーミイの墓地に着いた。

 新しく掘られた墓穴の脇に遺体を載せた棺台が下ろされ、導師が聖典の聖句を唱える。その独特の韻律に重ねるように、女たちが泣き始めた。


 どくん。


 鼓動がひとつ、大きく響く。


(なに、これ)


 波のような興奮が、わたしに押し寄せてきた。朗誦が、女たちの泣き声が、うねりとなってわたしを包み、沈めていく。


(ああ――そうか、こういうことだったのだ)


 冷たい塊がすっと落ちて、心が急速に醒めた。


 ずっと抱いていた、得体の知れない薄暗い不安。

 いまそれが、確かな形となって、わたしの前に姿を現したのだ。

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