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メリークリスマス ~届けたいメッセージ~

作者: 葦桜 紫苑

「つかまえた。」


 そう言い男の子がしがみ付いた相手は、トナカイだった。沢山の大きな袋を積んだソリを引くトナカイ、普通のトナカイではない事は一目で分かる。


 しがみ付かれたトナカイは、何が起こったのか分からず、一瞬動きを止めたが、直に状況を飲み込めたのか、一つため息を付いて体を震わせて男の子を振り落とした。


 それでも男の子は諦めずにしがみ付いて来る、その度に振るい落とすトナカイ、男の子の姿も見ず立ち去ろうとするとしがみ付かれる、そのしつこいと言いたくなるほどに、同じ事を繰り返す男の子にイラっときたのか、蹴り飛ばしてやろうと、首だけを動かし男の子の姿を見た、そしてまたため息を付く。


 頑として譲らないと言う眼をしていた。


「うっとーしーわー。」


 町中に響き渡る大きな声で、怒鳴るように言うトナカイ。驚いたのか、男の子は目を大きく開き、絶対離そうとしなかった手も離してしまっている。


「なんつー生意気なガキだ、うっとうしいわ、こっちは忙しいんだ、あっち行け、しっしっ。」


 大きい体に厳つい顔、普通のトナカイの何倍もあるうえに、性格も悪い。普通の子供だったら近づく所か、見ただけで泣き喚くだろう、でもこの男の子は、怒鳴り声にはビックリしたものの、恐れている様子は無かった、それがまたトナカイの感情を逆撫でする。


 トナカイの前に立ち、真っ赤になった手で手紙を差し出す。落とさないように握り締めていたのか、グシャグシャになっていた、すがる様な男の子の眼に、呆れた様な、見下す様な目にも取れる目で、男の子を見下ろした。


「わざわざ届けなくても、こっちから回収に行くんだよ、これだからガキはめんどくせい。後ろの袋に入れろ、ちゃんと届けてやるから。」


 そう言われ手紙を袋の中に入れる、そして男の子はトナカイに一つ頭を下げて、トナカイとは反対方向へ歩き出した。


「なんつーませたガキだ。」


 一歩歩いては振り向き、一歩歩いては振り向く、とぼとぼと歩く男の子の後姿が、どうしても気になってしまう。


「バカな事考えるなよ俺、忙しんだよこの季節は、寒いし寝てないし、死ぬほど扱き使われてるんだ、ガキの相手なんかしてられるか・・・・・・。」


 だが、目は男の子の背中を離してはいなかった、そしてため息を付く、もうこれ以上幸せは逃がしたくないから、ため息は付かないと心に誓いながら。


「おいガキ、送ってやるから乗れ。」


 男の子は振り向いたが、首を横に振り、またお辞儀をし歩き出した。そしてトナカイの機嫌は見ても分かるように悪くなった。チリンと澄み切った空気に鈴の音が響くと、トナカイは男の子の目の前にいた。


「ませガキ、勘違いするな、お前の為じゃない、このまま俺がお前を見捨てて仕事に戻って、お前が凍死したりなんだりして、死なれたら俺のせい見たいじゃないか、怒られるのは俺なんだよ、分かったら乗れ。」


 突然現れたトナカイに、反論する事も出来ない位の言葉に、ただ頭を立てに振り、沢山の袋が乗ってあるソリに乗った。


「行くぞ、落ちないようにしっかり捕まってろよ。」


「はい。」


 冷たい空気に響く鈴の音、トナカイが一歩一歩歩くと、体とソリは宙に浮き、まるで空中に道があるかのように、トナカイは歩く。


「寒かったらそこにある毛布にでも包まってろ。」


「はい、ありがとうございます。」


 近くにあった毛布に包まり、冷え切った体を温める、上に行けば行くほど、空気は冷たく風は強い、耳は千切れるほど痛いが、そんな事を忘れさせるほど、目を奪う光景が下に広がっていた。光り輝く大地、普通に生きていれば見ることの出来ない景色、空に輝く星と同じぐらい美しい。


「何でこんな夜中に一人で出歩いたんだ。」


 トナカイの質問に、少し微笑んで男の子は答えた。


「トナカイさんを、さがすため。」


「んな事は分かってる、わざわざ来なくても取りに行くんだ、嫌でもな。」


「ちょくせつ、渡したかったから。」


「家で待ってればよかっただろ。」


 その質問には答えず、男の子は下に目を背けた。


「あいたかった。」


「まぁどうでもいいけどな。」


 トナカイは顔を背た、柄にも無く赤くなった顔を見られない為に。


 季節は冬、十二月はクリスマス、凍えるような季節に素敵なプレゼントを届けてくれるサンタさん。サンタさんとトナカイはこの時期が一番忙しい、真っ白に染まった町に、美しい鈴の音が響き渡れば、それはプレゼントを持ってきた、サンタさんとトナカイが町にやって来た証、良い子の皆は直に寝ようね、起きてると後回しにされた上に、忘れられる可能性があるから・・・・・・。


「何をニヤニヤしてるんだい、そんなにあの子からの手紙が嬉しかった?」


「うるせい、サンタは黙ってプレゼントを配ってりゃいいんだよ。」


「まったく、相変わらず口が悪いなぁ、何故あの子は恐がらなかったか、不思議でたまらない。」


「お前も相当悪い方だぞ。」


「まぁいいさ、確かにあんなに暖かい手紙を貰ったら、心まで温かくなってニヤニヤしてしまうね。これで君の子供嫌いも治ればいいんだけど。」


「ガキは嫌いだ、自分勝手で生意気で・・・・・・。」


 サンタはクスクスと笑い地上の光を見た、明日の朝には、この町は子供たちの笑顔で溢れる、この仕事の何よりの遣り甲斐はそこにある、子供たちの欲を叶える、このトナカイはそれを嫌がっていたが、たまぁに届く小さなメッセージは、悪くないと思っているみたいだ。


「笑うな。」


「さぁトナカイ、仕事を始めるよ、今日は一年で一番忙しく、一番素晴しい日だ。」


「うるせぇなぁ、分かってるよ。」


 体に当たる風は冷たく、体温をさらって行くが、サンタとトナカイの心は、体をぽかぽかに温めるほど暖かかった。






「ありがとう、本当にありがとう、今日はいままでで、いちばん幸せな一日だったよ。」


 そう言い笑顔で手を振りながら、トナカイを見送った男の子。トナカイは振り向くことも無く空へと消えていった、素っ気無かったと思うが、それでも振り向くことが出来なかった。


 今でもあの笑顔は忘れられない。


「だからガキは嫌いだ、俺の感情を勝手に動かすな。」


 手紙は二通、一つはサンタに、そしてもう一つは・・・・・・トナカイさんへ。


 トナカイはサンタに言われ、しぶしぶ、でも少し嬉しそうに返事を書いていた。




 


 

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