私は『何』で、破壊する?
あなたは破壊するとしたら、『何』で破壊する?
「こんな世界、私が壊す」
私がそう言ったのは昼休み。友達と親友の狭間くらいの仲の高倉美園の目の前だった。
2人で机を突き合わせてお弁当を開いている平和な風景の中で私、結平風凛は美園に言った。
「え…何言ってるの?ふーり」
ぽかんとした顔をしている美園に、風凛はもう一度言った。
「私が全部壊す、いや、破壊する」
再び沈黙。美園はお弁当を食べる手を止めて目の前の風凛をもう一度見た。箸を置いて、真顔で風凛を見つめながら言う。
「もしかして、厨二病?ふーり、今高2でしょ?」
風凛は首を振った。厨二病などではない。本気で言っているのだ。
「厨二病とかじゃなくて、まじで、破壊する」
美園はついにため息をついた。昨日まで普通だったのになぜ今日の、今になってそんな幼稚なことを言うのだろうか。美園は苦笑いをしながら「そっか」と言うと、食べかけのお弁当を閉じて、立ち上がった。
「じゃあ、その『破壊』っていうの、聞かせて?」
風凛は静かに頷くと、もう食べ終わっていたお弁当を閉じて立ち上がった。2人はクラスの中でお弁当を食べていたが、クラスの中には誰もいない。静かな昼の光が差し込んでいるだけだった。
「…みんなもお昼ご飯食べ終わった頃かな」
風凛が呟くと、美園も頷いた。
「きっとそうだよ、今みんな、修学旅行なんだからさ」
静かな教室に美園のふわふわした声が響いた。
2人で廊下を歩いている時、美園はさっきのことを聞いた。
「さっき『破壊する』って言ってたよね。何を考えてるの?」
美園はどうせ厨二病をこじらせただけだろう、と思っていたが、聞かないのは可哀想なのでとりあえず聞いてみた。
風凛はボブカットの黒髪を揺らしながら言った。
「私、飽きた。全部にね?だったら一回リセットしてさ、私の思う通りにやってみたい」
リセット、ね…と美園が苦笑いで相槌を打つと、風凛は
怪訝な顔をした。
「冗談じゃないからね?でも私は『何』で破壊するか、決めてないの」
こりゃまた凝った話だな…と美園が思っていると、不意に風凛が止まった。美園も驚きながらも止まる。
また沈黙。廊下の掲示板の紙がバサバサと風で煽られる音だけが場に響く。
「美園、私本気で壊すつもり。壊せないかもしれないせど、理論上でもなんでも、とりあえず破壊する」
美園はさらにわからなくなってきた。なんなら頭が痛くなってきた。風凛とは幼なじみで、たまに変なことを言うちょっと抜けた人だと思っていたが、ここまでとは。
でも、親友だからこそ、ここは応援しよう。美園はそう思った。
「そ…っか。頑張って…私も応援してるからさ!」
美園が両手をぐっと握ってがんばれ!と言うと風凛は満足したように頷いた。
「じゃあ私帰る」
「えっ、まだ学校の時間だよ?」
クラスのみんなが修学旅行とはいえ、まだ昼をちょっと過ぎたくらいだ。そしていつもは風凛はそんなことを言わない。不可解なことの連続に美園はもう疲れてきていた。
「じゃあ…私職員室に行って言っとくね。その後1人で図書室で勉強してるから」
美園はなんだか気味が悪くなり「またね」と言って階段のある方へ走って行った。
「……………。」
階段をバタバタ登って行った美園を見送ってから、風凛は教室に戻った。
そこには1人の青年が窓辺に寄りかかっていた。風凛より背が高く、すらりとした青年だった。
風凛はその青年を見つめた。青年も風凛のことを見つめた。2人で見つめ合っていると、青年が口を開いた。
「なにやってんだ?お前…」
風凛は真顔のまま先ほどまで座ってお弁当を食べていた席に座って青年を見上げた。
「なにもしてない。」
青年は大きなため息をつくと、寄りかかるのをやめて、風凛に近づいた。
「今2年B組は、修学旅行のはずだ。なぜここにいる」
風凛はだるそうに首を傾けると、「さあ」と言った。それは青年を怒らせるのにはちょうど良かった。
「ああそうか。罰されたいんだな?」
風凛は問いに答えず真顔のまま青年を見た。それから机の中にてを入れると、手紙の封筒の様なものを取り出した。青年が「なにしてんだ」と咎めるが、風凛はそれを青年に突きつけた。
「これを読め。読んだら私の所に来い。どうするかはお前が決めろ。」
圧倒的な覇気を纏いながら風凛は青年に言った。青年は少し気圧されたが、また風凛を睨みつけた。
「すごい上から目線だな。まあいい。受け取るから家に帰れ。」
青年は封筒を奪い取る様に取ると、無言で教室を出て行った。
また教室は静かになった。そしてその中で風凛は薄く微笑んだ。
「よーし、がんばっちゃうぞー。」
読んでくれてありがとうです⭐︎