話の始まり
カランと軽快な音が鳴り店の戸が開く。
私を見ると彼女はいつものようにこう言った。
「いらっしゃい。今日も来たわね」…と
店の準備をしながら彼女は私を出迎えた。
この店は私の行きつけの喫茶店だ。
昔ながらのレトロな店内に沢山の観葉植物。
緑と茶色でできたどこか心を落ち着かせる作りがここの売りだ。
私が住む街はビルなどの建造物がきれいに並んでいることから白い町としても有名であるが、
私はこの茶色い店が好きだ。
この白い街の早朝にわざわざ店を開くのは彼女のポリシーらしい。
私はいつも通り席に座るとミルクを頼んだ。
情けない話私は紅茶や珈琲が苦手でね、ミルクしか飲めないわけだ。
マスターと他愛もない会話をしているといつもの如く運命に招かれた客が訪れる。
その客を見るにどうやら迷い人のようだ。
迷い人とは人生に何かしら悩みや迷いを抱えている人間だ。
ここにはそういった人間が集まるらしい。
その客に寄り添い悩みや迷いの道標を施すのもまた、マスターの仕事だ。
私はその仕事を観察するために毎朝ここに来ているのだ。
さてここからプロの仕事だ。じっくりと観察させてもらおう。
「どうぞ、初回来店のサービスです」とマスターは珈琲を差し出した。
客人は両手で受け取ると一口それを飲んだ…