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童話

作者: 村上有リ

「おめでとう」

 女は心からお祝いを述べました

「頑張ったね」

「これからだよ」

 男は照れて笑いました

「もっと売れて、恩返しするから」

「いいよ」

 女は首を振りました

 今ならまだ引き返せるけど

 見守ろうと思います。


 男はたくさんの時間を夢に費やしていました

 名もない端役のために

 バイトで食いつないで

 上京して七年

 これで最後にしよう

 そう思って受けたオーディションで

 小さいながら主役をもらいました

 男の夢は伸びました。


 周りはどんどん脱落していきました

 地元に帰り、就職して

 平凡な道を歩みつつあります

 ぬか喜びさせるくらいなら

 突き放してくれた方がいい

 男の夢は悪夢でした

 もう少し、もう少し粘れば売れるかもしれない

 思わせぶりな態度で

 男の時間を食い潰します


「今なら後戻りできるけど。今辞めたら意味ないんだよな」

 男にもよくわかっていました

 今ならまだやり直せるけど

 今まで費やした時間と努力が

 見返りを求めて

 男を縛ります

「とことんやればいいんだよ」

 女は言いました

「できるだけ支えるから」

 行けるところまで行こう。

 女には諦めがありました

 今のままでも

 変っても

 男を好きでいられたらいいと思います。


「結婚しようか」

「いいよ」

 女は笑いました

「しなくてもいいよ」

「どっちだよ」

 どっちでもいいと笑います。

「就職してないとダメか」

「してなくていいよ」

 親類は失っていました

「紙だけ出せばいいよ」

「ドレス着ろよ」

「やだよ」

 女は照れて笑います。

 女はいつも今が一番幸せだと思いました

 男はこれからもっと幸せにしたいと思いました

 女は無理しなくていいのにと思いました

「良い子を見つけたら乗り換えるんだよ」

「慰謝料狙いかよ」

「金は要らないよ」

 女は缶コーヒーを飲みほしました

「幸せならいいんだよ」

 私といても、いなくても。

 女には冷めたところがあると男は思いました

 冷めた目でバイト男を養っている

 女は馬鹿なのかもしれないと男は思いました

「帰ろうか」

 明日も仕事がありますように。

 女は笑って

 細い缶をくずかごへ入れました。

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