とある少女の泡沫
練習作品、フラグぶん投げモノ。
「好き」
そんな言葉を初めて口にしたのはいつの時だっただろうか。
物心ついた時から、私と彼は一緒に居ることが多かった。
幼馴染。
世間一般ではそういうのであろうことはわかっていた。
他人でありながら、多少なりとも知り合い以上の関係で、
なんとなくお互いのことが分かっていて、知り合い以上の関係ではあるけど、
なんだかぎこちない。
そんな幼馴染。
異性ではあっても、異性として意識をしたことなんかほとんどなかった。
だけど、あの時からだろう。
うん、理解はできてる。
だから、多分あの時から、同じ好きでも意味は違ってしまったのだろう。
そして、それがもう。
かなわないものだと知ってもいる。
勇者。
人類の救世主。
そして、幼馴染の呼ばれている称号。
そう。
彼は勇者になって、この村を去った。
「俺って勇者だったらしいわ。だからさ、ちと魔王倒しに行ってくるわ」
「だから、シアは待っててくれ。必ず平和な世界にしてくる」
彼はもうここにはいない。
そう。もういない。
涙は、その時に一生分こぼしたのだと思う。
最初は時々顔を見せてくれて、今は音沙汰なし。
活躍していることは聞いてるから、心配ではあっても、大丈夫なのはわかってる。
ほっとすると同時に胸にモヤモヤが残った。
でも、仕方がない。
彼と私は違うんだって、それは理解できてきていたから。
そう思ってたのに、久しぶりに帰ってきた彼は。
「悪い」
体中傷だらけで、
「踏ん切りがつかなかったけど、これだけは言いに来た」
全身ボロボロで。
「俺のことは忘れてくれ」
すごく顔が苦痛に歪んでいて。
「だから、すまない」
私も彼も変わったんだと思いたかった。
彼はそれだけ言って、村を去った。
ほどなく、勇者はお姫様との婚約話が出て、なんだかよくわからなくなった。
結局のところ、私は彼をなんだと思っていた?
幼馴染で、同じ村出身の……。
うん、好きだった人だ。
もう世界が違うんだってことは勇者として旅に出たときからわかっていた。
「俺のことは忘れてくれ」
けど。
「俺のことは忘れてくれ」
忘れられる?
「俺のことは忘れてくれ」
無理だよね。
「俺のことは忘れてくれ」
君の声がただただ、響いてくる。
いままでの支えがポッキリ折れた気がした。
誰モ信ジナケレバイイ
そう言葉にして。首を振った。
それができるなら苦労はしない。
せめて、思い出にしよう。
そう思って、忘れようと願っていく。
でも、彼の活躍は何度も聞いて、君がだんだんまた大きくなった。
忘れられない。
忘れたくない?
だけど、忘れなきゃ、彼の重しになりたくはなかった。
「命令する。愚かなものどもを根絶やしにせよ」
唐突に聞いた死の号令と、なだれ込んでくる魔王軍と呼ばれる存在。
私は長老様にすぐさま隠された。
「いいかい。シア。絶対に出てきてはいけないよ? いいね」
長老様の言葉にうなづいて、私は隠れていた。
怖かった。
ただ、ただ怖くて。
泣きそうになって、ただ君に助けを求めた。
「貴様が?」
理解できてなかったんだと思う。
「殺せ!」
無理なのはわかっていたつもりだ。
彼はここにはいない。
私を助けてくれる幼馴染はもういない。
迫りくる凶刃を前に強く目をつむり、来ない衝撃に恐る恐ると目を開いた。
目に映ったのは、不思議な光だ。
ほんのりと暖かくて、なんだか怖い不思議な光。
それと同時に、ただ唐突に聞こえた。
コロセ。
「が、ぐ。あ」
ぴちゃぴちゃと頬にナニカがはねた。
うっとおしい。
目の前のモノを払いのけた。
ただ、邪魔だ。
「きさ」
ひょいと首を撫でて、ゆっくりと歩いた。
鉄臭くて、外に出たくなった。
ああ、ほんと邪魔だな。
「おまえ、が。ゆ」
村は燃えていた。
私の家も、彼の家も。全部。全部。
ゼンブ。
「あ、ああ。ああああ」
鎧を着込んだ人たちはゆっくりと後ずさった。
うるさいなあ。
「うぁあああああああああああああ!!!」
走って切りかかってきた。
トンっと強く押した。
ゴミが散らばってすごくうっとおしく思えた。
ゴミを蹴飛ばして、落ちていた剣を拾った。
「隊列を崩さず囲め! 敵はたった一人だぞ!」
奥で豪華な鎧を着た人が叫んでいた。
指揮官だね。
じゃあ。
シネ。
「が、ひゅ……」
崩れ落ちていくゴミから剣を抜いて、ゆっくりと振り返った。
コロセ。
「あああああ!」
「死にたくない! 死にたくなぁい!!」
「許して、お願いだ。僕は」
「どぼじ」
「あが、あがあああああ」
ああ、気持ち悪い。
吐き気がする。
どうして、こんなことになったのだろう。
「シア! シア!!」
唐突に衝撃が走った。
強く握りこぶしを握って振りぬいた。
両手で抑えられて、ぐっとさらに力を込めた。
数十mにわたって飛んだが、そのゴミは立ち上がってきた。
敵。
そう認識できた。
「まって、くれ。シア。俺。だ。」
剣を走らせた。
上段から体重を乗せて切りつけたが、盾で器用に受け止めてきた。
間髪入れず、横薙ぎを行ったが、この敵は後ろに逃げることで避けた。
「お願いだシア。返事をしてくれ」
ぶれて見えた。
敵が、走ってくるのに、どうして彼に見える?
あいつらはみんなを殺したんだ。
だから、コロセ。
「ノーリ!」
「やめろ! リル!!」
後ろから炎が迫ってきた。
火炎魔法か魔術か。
どっちでもいい。すっと振りぬいて、切り潰す。
一気に前に出て、魔術師をコロセ。
「させるかっての」
鎧を着た人が割り込んできた。
先ほどのゴミとは違うと明確にわかる。
「神の加護か!?」
ぐっと力を込めて切りかかるが、鎧の人はただ無造作に受け止めた。
どうして? どうして。コロセナイノ。
「シア。目を覚ましてくれ。お願いだ。」
後ろから抱きしめられた。
気持ち悪い!
振り払おうとしても、すごい力で振り払えない。
彼の顔が浮かぶ。
じわりと涙が出てくる。
強く言葉が出てくる。
ナラコロセ。
「し、あ? まて、待ってくれアース!!」
強い光にあふれた。
振り払って、一気に上段から切り下した。
変態は距離を取って逃げた。
息を強く吐いて、ぐっと力を込めた。
「あ」
唐突に力が入らなくなる。
鎧を着た人が私を見下ろした。
いやだ。いやだ。
「のー、り」
光が見えない。
どんどん体が冷たくなっていく。
目の前で、幼馴染が泣いている。
なんで、泣いてるの。
私が忘れられなかったから?
ごめんね。やっぱり忘れるのは、無理。かなー。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
もうなにも聞こえなかった。
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