いい夜を
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ボーン、という音と共に壁時計が深い夜の訪れを告げる頃。
「よし、では今夜はそろそろ解散ということにして、各自が次のテーマ『空中都市ラピュータに潜むフウイヌム』について考える時間を設けることとしましょう!」
ウィスキーが低い声で会議の閉幕を宣言し、ウィルとクレアを含めたメンバーたちはそれぞれが席を立つ。
「いやー。今回も、なかなか良い議論でしたな」
「そうですね。私たちほど英知でウィットに飛んだ、それでいて白熱した議論展開ができる人間はいないでしょう」
「ふ、それも当然、なんせ我等は」
「「特別な身分(NOBLILITY)ですから」」
なんとも嫌味な連中だ、そんなことを内心思いながらウィルとクレアが、事前に渡されていた鍵番号の部屋に向かおうとしていた時。
「あっ、皆さん、お帰りになる足を止めて、少しお聞きくださいませ」
不意に、メイドであるアカリの声がホール全体にこだました。
当然のごとく兄妹はもちろん、貴族たちも足を止めてそちらを振り返る。
と、いつの間にか先ほどの机の上には串付きフランクフルトの乗った皿が人数分だけ用意されていた。
この地方ではよく食べられている郷土料理のようだ。
「えー。今回は特別にオーナーとわたしとで全員分のお夜食をご用意させていただきました。見ての通り、この地域では一般的な郷土料理、フランクフルトです。小腹がすくような時には、自室でぜひお召し上がりくださいませ。なお、わたしとオーナーも含めてちょうど全員分ということで、一人につき一皿ずつお持ち帰りください」
そんなアカリの言葉に次いで、隣にいたオーナーは、
「普段はこのようなことはありませんが、今宵は満員御礼のサービスとさせていただきます。さ、お帰りになる前にどうぞ」
そう言って微笑み、近くにいた背の高い男と帽子の男。シャンパンとウォッカに夜食の皿を手渡した。
「おお、すみませんな! これは酒の摘つまみに良さそうだ」
「ふ、用意がいいですね。俺も部屋に戻って、スコッチ一杯やるかな」
それに続いて、他の貴族たちにも支給が始まり、最終的にはアカリとオーナーも含めて全員の手元に夜食が行き渡った。
そして。
「では、皆さん良い夜をお過ごしください」
アカリのそんな声を最後に宿泊客たちは散らばっていった。