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永遠に刹那に

 ◆◆◆










 さて、外の雨が激しさを増してきたため、兄妹はオーナーの了承を得て空き部屋の鍵を貰い、団体客たちと同じく今夜はこの館に泊まらせてもらうことにした。

 しかし、それは同時に、二人が貴族たちの長く退屈な談笑に夜遅くまで付き合わされるという前提でもあった。

 まるでアーサー王に仕える騎士のように、オーナーとメイドを除いた八人が円卓を囲む光景。

 並んで座る兄妹の傍らから時折、ブラックな冗談が飛んだかと思うと、今度は別の方向から高い笑い声が聞こえてくるような時間は人付き合いを得意としないウィルたちにとっては、あまり居心地の良いものではなかった。

 そんな貴族たちの談笑に、ようやく一段落ついた折。

「あ、あの」

 全員の中で一番小柄なメロンソーダが口を開いた。

 そして、ウィルに対して突然、畏敬の眼差しを向けて。

「……あなた、確かウィルさんっていいましたよね? 先ほどから言おうと思っていたんですけど、絶対に、あのウィル・ホーカーさんですよね!?」

「ん、メロン? この方々を知っているのか?」

 彼女の傍らにいるテキーラが細い目をさらに細めて訝しげに尋ねる。

「ええ、街に住んでいるミステリファンで、ウィル・ホーカーさんの小説を読まない人間は、いないわ。私、ウィル・ホーカーさんの書いた小説は全部目を通しました。前作の『永遠に刹那に』も素晴らしかったですねぇ。不老不死の細胞を持つ人間をまさかあんなトリックで殺すことが出来るだなんて誰も考えません。一体どうしたら、ああいうアイデアが次々に浮かんでくるんですか?」

 突然、注目のまとになったウィルは返答に困ったが、相手が見ず知らずの自分のファンを名乗ってくれている人物だということで、少しだけ自作のヒントを教えてあげることにした。

「えーと……、そうですね。僕の場合、書くことに悩むことがあったら旅をして着想を得るようにしています。ところで、ここにお集まりになった皆様は、一体どのようなご関係で?」

 すると、レモネードと称する女性が、赤いフレームの眼鏡を指で持ちあげながら。

「我々は所謂、森羅万象の不可思議なことを語り合うサロンを、狩猟の後などに定期的に開いているのです。もちろん特別な身分の貴族にしか参加する資格はありませんが、あなたがウィル・ホーカーさんと分かったならば話は別です。それにしても、こんなにお若い男性だったなんて。ワイルドな作風から、どちらかといえばウィスキーのような容姿を想像しておりましたわ」

 話のネタにされたウィスキーは、こほんと咳払いをして大袈裟な声で言った。

「さて皆さん、談義を続けましょう。今宵、ウィル・ホーカーさん兄妹をお迎えしてのテーマは、ずばり『永久機関』です。このティーハウスの灯りから鉄道まで、様々なものが『永久機関』のもたらす奇跡を利用して作られていますが一部の関係者以外、誰も永久機関の正体を知らない。これは、現代を生きる者としては最大の不思議ですぞ」

 永久機関という新たな話題が投下されたことにより、貴族たちは次々とそれに対する持論を展開し始めた。

「永久機関とは、宇宙エネルギーに違いない。王室や一部関係者のお屋敷には、それこそ謎の飛行体が出入りしていると、最新の雑誌記事に載っていたぞ」

「いや、永久機関は魔法の力です。私が古本屋で買ったオカルト本には魔法の記述が確かにあります」

「史上最高の天才と謳われる国王『オルフィレウスⅠ世』自らが発明したといわれる永久機関の秘密を知ってしまったものは、王室の刺客に命を狙われるという噂はちらほらと聞きますな。ここで語りすぎるのもよくないのではないかね?」

「ふ、噂は噂にすぎません。こういったミステリアスなものを解明していく過程にこそロマンがある。ところでわたしは未知の発光プラズマを利用した発明ではないかと推測しています」

「へ、へぇ。皆さんの持論はどれも興味深いですね」

 貴族たちの熱の篭もった語りに気圧されて、さすがのウィルも、苦笑を浮かべるしかない。

「ふん、真実を知ることが必ずしも良いことだとは思いませんわ」

 一方、クレアはというとそ知らぬ顔でカップに注がれたミルクを啜っていた。



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