自己紹介
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「えー、僕はウィル・ホーカーと申します。年齢は十八歳でいまの仕事は一応、文筆業に近いことをやっております。趣味はもちろん執筆なのですが、銃も好きでしてコレクションとはいかないまでも何丁か所持してます。まぁ、射撃に関してはたまにリヴォルバーの練習をしたりする程度ですが……。さて、心優しい皆さんのおかげで、この濡れた服も乾かせましたし、こんなに美味しいご馳走までいただいて、感激のあまり返す言葉がないとはまさにこのこと。では、これくらいで……。すみませんね、短くて」
自己紹介は、十人目。つまりはウィルを最後にして終了した。
周囲の席からパチパチと拍手の音が響く。
「ふぅ……」
自らの席についた彼は思わず嘆息する。
兄の対面席に座る義妹は、面白そうにその様子を見つめながら。
「おつかれさまですの」
ねぎらいの言葉をかけてきた。
「ああ、ありがとう」
これにウィルは短く返事をする。
と、クレアは兄の手に何やら小さな紙片が握られているのを見つけた。
「あれ、それなんです?」
握られている紙片を見つめて、とても不思議そうに尋ねる義妹。こういう時の彼女の瞳は無垢な青色で満ちている。
そんなクレアに、ウィルは苦笑しつつ教えた。
「ああ、これか? いや、クレアを除いた八人の自己紹介を要約したものだよ。ほら、僕らって結構、人覚えが悪いだろ? 後々、忘れたときが不安だから念のためメモを取っておいたのさ」
「なるほど。便利なことしますね。どれどれ、わたしにも見せてください。特徴ない奴らは一秒後には忘れちゃっても不思議ではありません」
他の客に聞こえぬよう冗談を言いつつも、クレアは兄の書き記したメモを覗き込む。
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《自己紹介一覧 [1]~[8]は単なる順番》
[1] アカリ・ベルンカステラ……この屋敷で唯一のティーハウス・メイド。まだ十代の少女で身長は百五十五センチほど。趣味はガーデニングで、森の植物にも精通している。屋敷に住み着くカラスたちには常々、苦労しているとの談。
[2] カネルス・アンダーソン……ティーハウスのオーナー。五十代の男性。恰幅がよいのと、丸眼鏡が特徴。客たちに、今夜は雨がひどいので洋館の個室にそれぞれ宿泊してもらって構わないということを伝えた。なお、具合が悪くなったり、何か緊急の事態があった場合には、オーナーの自分かティーハウス・メイドのアカリに伝えて欲しいというのが談。店の食事は彼がつくっている。寄る年波のせいか温度感覚にやや障害がある。
[3] ウィスキー……貴族の一人。長い口髭が特徴の三十代、男性。趣味は猟銃を用いた狩りと人間の観察。短い挨拶をして席についた。
[4] レモネード……貴族の一人。眼鏡にブルネットの髪が特徴の二十代、女性。趣味は読書と調べものと、メガネ集め。とある大学の助教授も務めているらしい。簡潔な自己紹介をして席についた。
[5] シャンパン……貴族の一人。背が高く、わりと大柄なのが特徴。三十代の男性。趣味はゴルフ。自己紹介は短い挨拶のみ。
[6] ウォッカ……貴族の一人。帽子を被っているのが特徴の三十代の男性。趣味は酒と喫煙。自己紹介は短いものだった。
[7] メロンソーダ……貴族の一人。背が低く小柄なのが特徴。二十代の女性。趣味は読書で、かなりの推理小説マニアらしい。狩りのために、この森にやってきたが、彼女は猟銃をあまりうまく扱えないのだという。なお、自己紹介は簡潔なものだったが、途中で噛むという失態を見せた。場が和んだ。
[8] テキーラ……貴族の一人。長髪と鋭い目つきが特徴。四十代の男性。自己紹介は短い挨拶のみ。貴族たちを纏めるリーダー格のようだ。沈黙を挟んで喋る癖があるようで、場がちょっとピリピリした。
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「ふむ。メイドのアカリさん以外は全員の名前を忘れかけていましたから、助かりましたの。ありがとね、おにーさま」
「どういたしまして」
そう言うと、ウィルはスーツの胸ポケットに紙片を入れた。