序文
永久機関。
それは、別名「魔の発明」とも呼ばれ、何世紀にもわたって、あらゆる人々の好奇心をかきたててきた伝説であり、外部からエネルギーを与えなくても、自分の力だけで永久に作動し続けるという魔道装置を指す。
その発明を世界中の研究者や産業家たちが、まるでかつての錬金術師のように夢見ていた時代。
不可能に近いと思われたこの装置を他国に先駆けて、とある永世中立王国は開発し独自運用していた。
前例のない技術革命の中で、疑心暗鬼に捕らわれし国王は、噂によれば一切の素性を隠しており、それぞれ母親の違う九人の娘たちを、呪われた子供たち「永久契約姫」と呼んで幼いうちに全て養子に出したとも言われている。永久契約姫たちは、呪われてはいたが王家の血族であること、そして母たちの懇願のおかげで、それぞれが処刑されることだけは免れて表向きは養子として王室から追放された。
そんな事情がいくつか絡みながらも、日夜発展を続けた魔道装置。
この開発技術が王国全体に普及してから、いくらか時は流れ。
国の中心部にある王立図書館。
秩序をもって書架が並べられた一室には心地よい静寂が満ちている。
「……ふむ、エターナルの書はここですか」
一人の美しい少女が、その室内に足を踏み入れた。
かつてのドイツ映画にあったように、書に囲まれた空間には天使がよく似合う。彼女もまた、絵画の天使のように美しい容貌をしていた。
色白の肌に黒髪が特徴的な美貌の娘は、書架とにらめっこしたあげく、一冊の本を選ぶと抜き出した。
やがて椅子に腰を掛けた彼女は、机上にその本を置くと表紙を開き、ページをゆっくりとめくり始める。
そして、どこか寂しげな瞳で文章を見つめた。
……逆さ向きの文章を。