破裸漢
「妾は今から千年以上前、この地を支配していた」
千代の口が滔々と語り出す。
「だがある日、妾は宇座土流の忍びに破れ、高僧によって魂も封印された」
「しかし、昨日突然妾を封じていた祠が壊され、我が依り代をこの娘が手にしたことによって新たな身体を得ることができたのよ」
「宇座土流……」
図らずもこの戦いは過去から続く因縁だったのだ。
そして、偶然にも祠が壊れた一因に好美は関与していた。
「さっさと千代ちゃんの身体から出て行きなさい!」
「馬鹿を言うな。折角手に入れた身体だ。再びこの地を妾の支配下に置いてやろうではないか」
「あなたの目的は何なの?」
「決まっておろう。この地を足がかりに日ノ本全てを支配する」
そう言いながら千代は左右の少女達を抱き寄せた。
「そして美女と美少女を集めて後宮を作り上げるのだ! 男共はみんな奴隷にしてやるわ! うわははははは!」
千代は天を仰いで呵々大笑する。
「そんな事はさせない! あなたは私が倒す! そして千代ちゃんを取り返す!」
「やれるものならやってみるがいい」
「はっ!」
好美は千代--いや、多魔姫に襲いかかる。
この距離なら避けることすらできないはずだった。刹那の瞬間でその拳が多魔姫の身体を捉え--
「遅いな」
椅子に座っていたはずの多魔姫が好美の背後に立つ。
「え!? がぁ!」
多魔姫の拳が逆に好美を吹き飛ばした。
「四天王を倒したとからといっていい気になるなよ。妾は奴らの百倍強い」
「くそ! やあああ!」
身を起こした好美は再び多魔姫に拳を放つが、逆に反撃を受けてまた吹っ飛ばされる。
「どうだ。身の程を思い知ったであろう」
仰向けに倒れる好美の元に多魔姫が歩み寄る。
そしてその首を掴むと片手で身体を持ち上げた。
「ぐっ、くっ」
「このままその細首へし折ってくれよう」
多魔姫の手に力が込められる。
こうなったらもはや躊躇ってはいられない。
好美は背中に手を回すと、ブラを外した。
ぷるんと大きな胸が多魔姫の眼前に晒される。
そして周りを囲む男子生徒達から歓声が上がるのだった。
「貴様、何のつも--がはっ」
好美の足が多魔姫を蹴り飛ばす。
「くっ……貴様まさか、宇座土流の……」
「そうよ。私は宇座土流忍術〈破羅漢〉の使い手--吉田好美よ」
両手で胸を隠しながらも好美は言い放つ。
「吉田……確か妾を倒した忍びもそう名乗っておったわ」
「丁度いい。積年の恨み貴様で晴らさせて貰う!」
多魔姫が好美に襲いかかる。好美はそれを迎え撃った。
目にもとまらぬ超高速の攻防が繰り広げられた。
「はははっ、貴様の力はその程度か」
なんとか攻撃を凌いではいるものの、好美は防戦一方に追い込まれる。
あと一歩、好美の力は多魔姫に及ばない。
好美は多魔姫との距離を取る。
まずは靴下と靴を脱いだ。
「貴様、まさか……」
多魔姫が戦慄する。
そしてスカートのホックに手をかけた。
「正気か!? さっきちらっと見えたがお前下をはいてないだろう? 男共が見ておるのだぞ」
親友を取り戻す為、そしてこの街の平和を守る為に好美はスカートを脱ぎ捨てた。
女生徒達は悲鳴にも似た声を上げ、男子生徒達からはさっき以上の歓声が上がる。
「あ、あ、あああああーーーーー!!」
好美は身体の奥から湧き上がる力に突き動かされるまま、雄叫びを放った。
その身からは金色のオーラが立ち昇っている。
宇座土流忍術〈破裸漢〉--完全発動!!
「ひぃい!」
多魔姫は好美から放たれる圧倒的に巨大な気を感じ取り、短く悲鳴を上げた。
勝負はもはや決していた。
「千代ちゃんを!」
「返せーーーーー!!」
好美の拳が多魔姫の腹部に叩き込まれる。
「あ、が、が……」
多魔姫は白目をむき、口から黒い靄を吐き出して崩れ落ちた。
「千代ちゃん! 千代ちゃんしっかりして!」
好美は腕の中の千代の身体を懸命に揺さぶる。
「うっ……」
千代がうっすらと目を開いた。
「千代ちゃん!」
「……好美?」
「千代ちゃ~~~ん」
好美は涙を浮かべながら千代の身体を抱き締める。
「ここは……体育館? あれ? 私今まで何を?」
自分の置かれている状況に困惑する千代だったが--
「つ、なんかお腹が痛い……」
「ご、ごめん! 思いっきり殴っちゃった」
「好美、なんで裸なの?」
千代は好美の姿を見て訊ねる。
「あ……」
全裸の好美の身体には、男子生徒達の視線が注がれていた。
それはもう、たっぷりねっとりじっとりと。
「い、い、いやぁあああああーーーーー!!」
好美の姿がその場からかき消える。
多魔姫は倒した。だが完全に滅びたわけではない。
その妖気はこの地に留まり、怪異を発生させる。
そして外からも様々な魔のモノ達がこの地に引き寄せられることとなった。
戦え好美。全裸となって。
この街の平和を守る為に!